ふくやのチャネル連携がうまく進んだのには、原点である店舗の拡大と共に、コールセンターなどの通販チャネルが大きく成長した時代背景がある。

 先月始まりました「オムニチャネル・フォーラム」。第2回は実際に多様なチャネルを持っている企業の取り組みを、要点を押さえながら紹介します。

 今回ご紹介するのは福岡を中心とする明太子市場のパイオニア、(株)ふくや(以下ふくや)です。ふくやは中堅企業ですが、39の直店舗(2019年12月現在)を中心に、コールセンター・カタログ・ダイレクトメールなどの従来型の通信販売チャネル、ECサイト、アプリなど、さまざまなチャネルを有しています。

 前回、『オムニチャネルの3つのポイント』として、「チャネル統合」「シームレスな買物経験」「顧客戦略」を提示しましたが、この点に絡めつつ、新しいチャネルとしてのアプリ導入がもたらした効果などを解説していきます。

<ふくやについて>

 ふくやは福岡に本社を置き、売上高146億円(平成30年度)、従業員数651人(うち正社員289人;平成31年3月時点)を有する中堅企業です。ふくやの企業としての成長、明太子市場の確立、福岡における通信販売業の産業集積化にもたらした影響などは、既に書籍(例:川原 2013[i],坂本2016[ii])やケース(例:八塩 2016[iii])などに取り上げられていますので、それらの文献を参照していただくとして、本稿ではテーマのオムニチャネルに焦点を当てていきます。

チャネル連携:必要に迫られてデータ・チャネル統合を進めた

 ふくやはさまざまな顧客とのチャネルを有していますが、店舗、コールセンターなどのEC以外の通販チャネル、ECにおいてはシームレスなデータ連携が実現していて、例えばECでの購買履歴はすぐに店舗でも確認ができますし、逆の確認ももちろんできます。

 チャネルをまたぐ顧客の傾向も確認できていて、例えば新しく追加されたチャネルであるアプリ経由でECに流入した顧客はCVR(主に購入比率)が高いことなど、チャネル間の相乗効果が確認できています。

 なお、複数のチャネルから購入したりアクセスをしたりする顧客の売上げや来店頻度が高いことなどは、ふくやに限らず一般的に、またアカデミックにおいても多くの文献で実証されています。

 ふくやでは、近年では2017年にAmazon Payなどの新しい決済方法を導入したり、2018年にアプリをリリースしたりする際も、「顧客IDの紐付け」は当然のように議論がなされてきました。「組織サイロ」と前回記したようにチャネル連携がなされない例が多く見られる中、中堅企業で潤沢なIT投資ができるとは限らない同社がなぜ、「チャネル統合」や「シームレスなデータ連携」を実現させたり、その統合やデータ連携のマインドを有していたりするのでしょうか。

外発的動機ではなく、内発的動機からだった

 その背景にはふくやの“出自”や発展の段階が関連しています。

 ふくやは福岡が空襲で焼け野原になったころから、今は繁華街の中洲に店を構えていたこともあり、実店舗から大きくなった会社です。それでいて新しいチャネルを積極的に取り入れる傾向にあり、1985年の受注センター(コールセンター)開設後は明太子の贈答、お取り寄せニーズが増えて大きく成長を遂げました。

 チャネル連携のポイントは、原点である店舗というリアルチャネル拡大と共に、コールセンターなどの通販チャネルが大きく拡大していった時代背景、企業の発展段階にあると考えられます。

 例えばコールセンターに問い合わせをしてきたお客さまに、過去のお店での注文を尋ねられたら、すぐに答えられた方がよいに決まっていますし、その逆も然りです。

 そのためには、当然ですがデータが連携していないといけません。そうした内発的動機、お客さまに応えたいという必要に迫られてのデータ連携、一元管理が、80年代からなされてきたわけです。

 企業の成熟期に、“とりあえず時代の流れに合わせよう”といった外発的動機の程度が大きい理由によって後付けされたデータ連携、一元管理ではなく、80年代という早い時代の企業の成長期において、大きな需要に応えるために自然と加わっていったチャネルであるからこそ、サイロ化が起きることなく、顧客のID連携などが自然と議論されていったのです。

 今回、ふくやの複数の社員にヒアリングしましたが、皆さん「お客さまのことを考えたら自然とそうなった」と話されていました。ふくやとしては、チャネル連携・シームレスなデータ連携は自然であり必然であって、それが今では当然になっているのです。もちろん、実行においては企業規模という観点も影響をしているかもしれません。

 ただ「言うは易し行うは難し」で、こうした思想を実現させてしまうのが、人格のように「社格」を重んじるふくやならでは、と言えるかもしれませんが、シンプルに企業の発展段階として必要であった、とも言えます。その後の1997年のオンライン通販開始時、Amazon Pay導入時、アプリ開設時といった決済方法やチャネルを増やす際にもこれが脈々と受け継がれ、さらにはそれが福岡の他の通信販売業の参考になっているのです。