私がセミナー・パンフに、仮にウォルマートの店数が今の半分だったら、ウォルマートは、その倍の店数を出店するだろうか、と問うた理由はここにある。もちろんウォルマートほどの企業が出店などするはずがない。半分のままピタリと出店を止める。米国流通業でウォルマートほど単純明快なフォーマットを持っている企業はない。

 創業者サム・ウォルトンの最大唯一の特徴は、わざわざその冗長な伝記など読まなくても、ウォルマートの店舗を一目見ただけで分かる。それは「極度の吝嗇(りんしょく)」である。悪口ではない。単なる事実である。ウォルマートの行動論理は誰の目にも明らかである。でき得る限りのコスト削減、これに尽きる。そのデマンド・チェーンと勘違いされているサプライヤー動員システムも、EDLPも、全てコスト削減志向からきている。

 そのウォルマートが、店舗出店について鷹揚であるはずがない。ネットと店舗を引き比べて、どちらがコスト安に済むか計算しないわけがない。出店ではなくネットを選ぶのは当然だろう。いや店舗ピックアップにしても、その本質は莫大な閉店に関わるコストを回避して、何としてでも現存の店舗という既にかけてしまったコストを正当化する、当然の「コスト削減」対策である。だから仮に今の店数の半分だったら、絶対にさらに倍の店数を出店などするはずがないというのは、推測ではなく論理的帰結でしかない。

 傍証もある。ウォルマートは社名から「ストアーズ」を省いた、店舗による海外進出の大部分を放棄した、新しい進出は全てネットに集中する、全てその方がコストがかからないからである。コスト削減というウォルマートの最大の思考基準に反するからである。この一連の動きは、ウォルマートの「価値観」を、そのコスト削減優位の判断基準を、誰の目にも明白に証明している。断るまでもなく私は世にはびこる「ウォルマート専門家」でも「ウォルマート絶対論者」でもない。単にそれは誰の目にも明らかなことにすぎない。それが目に入らないのは、ウォルマートの組織論を神社のお守り札に掲げている連中だけである。信じるものは、見えなくなるのだ。