「菜道」は東京・自由が丘駅近くの路地裏1階にある

 世界中のベジタリアンとヴィーガンの情報が寄せられる「Happy Cow(ハッピーカウ)」という情報サイトを知っているだろうか。今や世界中の人々が旅行を楽しむときに「TripAdviser」をのぞくように、世界中のベジタリアンとヴィーガンが旅行先のヴィーガン事情を知るために、「ハッピーカウ」は重宝されている。

 11月10日、東京・自由が丘の「菜道」というヴィーガンレストランがハッピーカウで、「Best Vegan Restaurants Worldwide」の1位を獲得した。

※ちなみに上位にランクされたヴィーガンレストランがある国と都市は2位ギリシア・アテネ、3位ドイツ・ベルリン、4位スペイン・バルセロナ、5位ベトナム・ホイアン。

 同店を経営するのは、(株)Funfairと(株)交洋により設立された(株)和食社中。「菜道」はグローバルに通用するレストランとして開発され、ヴィーガン、オリエンタル・ベジタリアン(台湾のフードダイバーシティ)、ハラールに対応、グルテンフリー(小麦粉不使用)にも応えられる。

「菜道」の料理監修を行う楠本勝三氏 1975年6月生まれ、岡山県出身。大阪の調理師専門学校を卒業後、フランス料理店に就職。2010年東京・西麻布の会員制のレストランで料理長となり、2018年の末まで務めた。

 オリエンタル・ベジタリアンは動物性のものに加えて五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、ネギあるいはタマネギ、アサツキ)を摂取しないが、その中で、味を引き立てるためには相当の工夫が必要。

このようなニッチな分野に取り組んでいる「菜道」であるが、いかにして世界一のヴィーガンレストランになったのか、同店で料理監修をする楠本勝三氏の解説に基き、紹介しよう。

東京で「食の禁忌」に関係のないレストランをつくる意味

「菜道」は、世界中の誰もが一緒に食事ができる、食の禁忌に関係のないようなレストランをつくることからスタートした。

 この店が「ハッピーカウ」のランキングに登場するようになったのは今年の6月から。それが少しずつランキングを上げ、第1位になったということは、「ハッピーカウ」で「菜道」を知った外国人が来店して、とても喜んだということだ(インバウンドにとって自由が丘という場所はアクセスが至便とはいえない。ヴィーガンはそれほど目的来店のファクターとなる)。

 楠本氏は「菜道」の料理監修をするようになり、東京のレストラン事情にある危機感を抱くようになったという。「東京は世界の都市の中でミシュランの星を一番持っている美食の都市です。『ハッピーカウ』には『Vegan Friendly Best City』というランキングもあるのですが、最新の2018年版で東京はランク外です。日本でランクインしているのは京都の18位。これは裏を返せば、欧米系のヴィーガンが東京に期待をしていないということ。ヴィーガンは環境問題と比例して増えていきますから、東京のレストランはこうしたトレンドを無視しているとも受け止められかねません」

 実際、ヴィーガンの人たちが書き込むサイトで「東京で何を食べるといいか、何が安全か教えてくれ」という問い掛けがあったが、それに対するある人の回答が「ライス」。「これはある種、東京の現象を嘲笑しているかのようです」と語る楠本氏は、世界一の評価を得た「菜道」を東京のレストランがヴィーガン対応の重要性を感じるきっかけでありたいとしている。

全てはハラール対応料理を依頼されたことから始まった

 楠本氏が料理人としてフードダイバーシティと出合ったのは、2015年に勤めていた会員制のレストランでのこと。その店の利用はほとんどが接待で、ある日会員の一人から「これからムスリム(イスラム教徒のこと)の人を接待することが増える。ハラールのことを勉強してほしい」と依頼された(ハラールはイスラム教の戒律に基づくもので「許されたもの」という意味。楠本氏はこの時に初めて「ハラール」という言葉を知った)。

 当時は使用食材でハラール対応のものがほとんどなく、調達が非常に困難だった。そこで、通常のメニューからハラールで禁じられている豚肉とアルコールを抜いたものをつくったが、ムスリムのお客さまには喜んで食事をしてもらえなかった。なぜだろうと考えた結果、「それはムスリムが好む料理ではないから」という考えに至る。

 海外のお客さまを接待する場面で「これが和食なんだ」ということを店側がごり押ししても評価はされない。接待で使用される店の評価は、接待をする人、つまりホストから「ありがとう」と言われることで決まる。ゲストは店ではなく、ホストに感謝するもの。だから、ゲストに感謝されたホストが店に「ありがとう」と感謝を伝える店が接待で使用される店のあるべき姿と確信するようになった。

 当時、ハラール対応の和牛が少しずつ登場。そうした中、ハラールと畜された神戸牛が登場したことで、ムスリムの需要が一気に増えた(これを使用した日本初レストランが楠本氏のレストラン)。これは2016年の頃である。

 こうしたハラール対応を継続する過程で、お客さまから「ヴィーガンができるか」「コーシャ(ユダヤ教徒対応)ができるか」と尋ねられるようになり、グルテンフリー、アレルギー対応などの問い合わせも受けるように。この要因を、楠本氏は「ハラール対応を先駆けて取り組んでいるということは『食の禁忌に詳しい』と印象付けたのだろう」と考えた。

 レストランの来店客はアッパー層が多く、そこで使う金額も大きいことから下手な対応ができない。もちろん、ハラール、コーシャ、ヴィーガンでいい加減なことはできない。料理を残されてしまったらそこでアウト。コース料理の金額が高いと期待感が高まることからフードダイバーシティの勉強を一生懸命に行った。

ヴィーガンを追求するとマーケットが広がった

 西麻布の店ではハラール対応料理が人気を博したが、そのきっかけはつくり手である楠本氏が「ムスリムが好む料理」に気付いたことであった。ムスリムで使えないのは豚肉とアルコールだけ。しかし、ヴィーガンになると肉も魚も使えず、その中で味付けを考えるのはとても難しく、ハードルも高い。こうした課題に取り組むことに楠本氏はやりがいを感じた。

「菜道」のヴィーガン料理の数々、全て動物由来のものを使用していない
 

 現在、料理監修をする「菜道」には「焼き鳥」「ウナギ」を称する料理があるが、実はこれらは肉でも魚でもない。野菜を使い、それぞれの食味に寄せてヴィーガンの焼き鳥やウナギをつくっている。

 オリエンタル・ベジタリアンに取り組むことも難易度が高いが、楠本氏はこう語る。「これは台湾人のニーズがあり、フードダイバーシティに取り組む上でやることができるのであればやってしまおうということで取り組みました。五葷フリーによってヴィーガンのフィールドが広がり、誰もまねすることができません」

「ハッピーカウ」でレビューを書いているのは主に欧米系のヴィーガン。彼らにとってはアルコールフリー、五葷フリーは関係のないが、「菜道」がこれを行っていることを意識せずに高く評価している。そして、オリエンタル・ベジタリアンにとってはこれが目的来店につながり、ノンベジタリアン(たまには肉、魚を食べる)にも受け入れられる。

 楠本氏は「オリエンタル・ベジタリアンもノンベジも味に満足しているのであれば、卓上にニンニクを置かなくてもよいと気付き、オペレーションが楽になりました。つまりスタッフにとって、どのような食文化や食に禁忌のある人が店に入ってきても、いちいち『食べられないものは何か』を聞かなくてもいいということです」と言う。

 つまり、フードダイバーシティをきちんと捉えた店は、多くの外国人が訪れる中で食のマーケットを広げる存在となりえる。その象徴が東京・自由が丘の「菜道」なのである。

 
  • 菜道
  • 東京都目黒区自由が丘2丁目15−10
  • TEL:03-5726-9500
  • HP:https://saido.tokyo/