先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるジビエ料理のお店の店主から、こんな実践のご報告を頂いた。

 彼によると、私たちに報告レポートを送るため、売上げの商品データを見ていたところ、意外なことに気が付いた。それは、同店のメニューである「熊のステーキ」がステーキの売上げでトップレベルになっていたこと。

 よく出るなと感じてはいたものの、鹿や猪のステーキの2倍以上の価格のため、気持ちの上では特別な商品と感じていて、実データを見るまでそれほど売上げに貢献しているとは思っていなかった。

 そのことを奥さんに話したところ、突然、彼女がシールを作ってくれた。これがまた秀逸なもので、「熊食べました」のシール。熊を食べた証として、丸形のシールに熊の絵と「熊食べました」の文字をあしらったものだ。

 これをツキノワグマ、ヒグマ、アナグマ、それぞれのステーキを注文してくれたお客さんに差し上げたところ、大好評。シールを貼って写真撮影したり、携帯にシールを貼って再来店してくれる方まで現れ、とてもうれしかったと言う。

「熊食べました」。これはわれわれ一般人には大イベントで、記念にシールをもらえればもちろんうれしい。しかし、これらの料理を普段から出している当人たちには意外とこの特別な体験感が分からないもので、このような点は見過ごしがちになる。

 そこで今回のような手を打てば、もちろんお客さんの体験価値は高まるし、記憶に残りやすくなり再来店、口コミにもつながる。こういう実践は、ワクワク系では業種を問わずよく取り組まれているものだ。

 また今回、店主が特にうれしかったことは、このシールを奥さんが自ら考え作ってくれたことだった。実践会に入会したばかりの頃は実践の話をしても普通にスルーされていたとのことだが、最近、「いろいろ変わったよね! 良いんじゃない」と言われたそうだ。

 そして彼は「自分でも変わったな、と思う」と言う。入会してから店にいる時間は年間1300時間以上減った。ランチと深夜営業をやめて、休みが多くなった。そうして体の負担が減っているので精神的にもゆとりが出て、「良い感じに人生の歯車が回り始めた気がします」。そして、これが可能になったのは、以前と比べ、何を売るべきなのかが分かるようになってきたことだと。

 そんな彼のレポートの終わりはこう締めくくられていた。「売上げを上げるためにワクワク系に入会しましたが、楽しく豊かな人生の作り方を学べました」

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください。