自分たちの価値を根本から捉え直す必要がある

中見 最後に今後の話を伺います。ビームスでは現状、リアル店舗とECサイトで相乗効果が出てきていますが、これからやらなきゃいけない課題やチャレンジしたい目標はありますか?

 

矢嶋 お客さまから信頼いただいている私たちの価値を根本から捉え直す必要があると思います。2019年の時点では、リアル店舗も一つのメディアだと捉えられますが、今後、スマートフォンなどさまざまなデバイスが進化していくので、多方向にアンテナを張っておく必要があると思います。2020年以降、例えば5G(第5世代移動通信システム)になったり社会の変化が大きくあると思います。私たちはそうした中で自分たちの中心の価値をどうお客さまに伝えていくのか。こうした変化に柔軟に、臨機応変に対応し、どんどん新しいことにチャレンジしていることも伝えていきたいと思っています。

中見 オムニチャネル化の推進には、顧客視点をベースにお客さまが思わず買物したくなるよう、リアルとネットをシームレスにつなげていくことが重要です。そのためには、「鷹の目」である統合的な視点が必要になります。

矢嶋 まさにOMO、お客さまからすればオンラインもオフラインも関係ない体験になってきている中で、今年の3月に私たちの部署の2/3の人員を事業部に統合しました。商品にかかわる実働部隊を事業側と融合する再編をしたわけですが、その根幹に持たせたかったのは、リアル店舗を商販(商品と販売)一体の事業部と捉えるということです。そこにECのようなデジタルで、いわゆるマーケティングの4Pみたいなものを一体運営することが今後、非常に重要になってくると思っています。そこで、特に販売経験のある60人くらいのスタッフが事業側に移ったわけですが、その狙いは、お客さまを個として捉え、ビームスの良さを伝えていく目線をオンラインとオフラインで分けないということです。商品をつくる人もECの目線が必要ですし、販売スタッフもECが一緒になることで、よりお客さまに伝えられる情報や利便性が上がり、自分たちが強くなると捉えてほしいと思います。今後3年間のゴールとして、ECとリアルが融合した、本当の意味のOMO時代をお客さまと一体となってつくっていきたいと思っています。

ここ数年の成果があったから組織を変えられた

 

中見 次を目指すときは、社内を変えるということですね。

矢嶋 ツールを用意したり、サービスをつくるだけでなく、人が変わらなければ、サービスは本当の意味で伝わらないと思います。ただ、人が変わるのは簡単ではありません。そこで、一つの方法として、組織の強化や予算などはみんなで考えながら共同体として動いていく方がいいのかなと着手し始めました。

中見 まず社内組織ですね。オムニチャネルだからOMOだからじゃなく、社内組織をどうやって環境変化に適応させていくか、それが進化のプロセスですね。これは言うのは簡単ですが、今までの組織や人員、予算を変えるのはかなりの大手術です。それがうまくいかなかったらと外野からのあつれきもあります。

矢嶋 それに踏み切れたのは、この数年やってきた取り組みの成果だと思います。自社のホームページとECサイトを、両者を一体化させたメディアコマースサイトにつくり替え、そこにさらに店頭のスタッフが毎日情報発信できるプラットフォームを構築したり、バラバラだったお客さまのIDを一元化し、1人のお客さまを個として捉えられたとか、在庫の一元化をし、店舗の在庫とECの在庫を相互に自由化でき、お客さまが欲しいタイミングでお買物ができることを目指したりとか。こうした積み重ねがあるからこそ、組織の統合にやっと着手できたと捉えています。今、中期経営計画の1年目として私たちはEC事業を統合させ、3年間でそれが目指すゴールにたどり着きたいと思っています。リアルもECも関係なくお客さまに向き合う3年後になれば、2022年以降、またその時代に合わせたビームスらしさを伝えられると思っています。それを、店頭のスタッフとともに体現していきます。

中見 お店の中の販売員がスターであり、矢嶋さんたちはそれをサポートしていくということですね。

矢嶋 そうですね。

中見 オムニチャネル化の次の流れはどうなるのでしょう。最近、デジタルトランスフォーメッションやデジタルシフトという言葉がはやっていますが、その本質は、どうやってお客さまとよりダイレクトにつながり、価値を生み出せるかにかかっていると思います。通信テクノロジーが5Gへ移行することで、個と企業、個と個、企業と企業の関係がよりインタラクティブになり、より深いコミュニケーションが図れるようになるのでしょう。その際、消費者に対し、自社がどのような企業ブランドとしてお客さまに認識してもらえるかが、今後ますます重要になるはずです。

矢嶋 私たちは小売業です。昔から言う小売りの3原則には「人」「物」「器」というものがありますが、器というのはフィジカルの店舗だったりするわけです。そこのファサードがどうなっているか、棚や什器があるか。それが店舗の世界観を構成しているわけです。それがブランド体験であったり、最終的には、スタッフが接客することで生まれてくるCX(カスタマー・エクスペリエンス)につながっていくと思います。顔が見えるというオフラインの接点が、お客さまに伝える非常に重要なところだと思っているので、リアル店舗がスタッフとお客さまのコミュニティになればいいと強く思っています。現在も店舗でいろいろなイベントを開催したり、ワークショップ、あるお店ではヨガ教室を開いたりしています。例えば、夏休みに子供の工作教室をしたり、アーティストやイラストレーターさんとレーベルディレクターのトークショーをやったりしています。それをお客さまが整理券をもらって見にいらしたり、体験の場になっています。そこでの熱量が、ブランド体験の一部になって、ビームスを想起したときに「あれは良かった」と、その後のコミュニケーションにつながっていくと思います。

中見 なるほど、納得しました。小売業ならではの良さを生かしていくことが大切。それが店舗の強みですね。メーカーは基本、店舗を持たないですから。そこを生かしていくのは重要で、根本的な商いの基本は変わらないものですね。