【撮影】室川イサオ

中見 まず矢嶋さんがビームスに入られてから、どういう風にお仕事をされてきたのか、簡単にご紹介ください。

矢嶋 最初は社員ではなく販売スタッフのアルバイトで入社することになりまして。それが1998年で、千葉県柏のビームスで2年間アルバイトをしました。お店自体はメンズもレディースも両方入っている複合店で、メンズはカジュアルだけでなくて、ビジネススーツも扱っていました。

中見 それは学生の頃ですか?

矢嶋 大学を卒業してから院に行こうとしていました。準備の1年間、研究生をやっていまして、その時、一番興味のあったファッション業界でアルバイトをすることにしたのです。

中見 セレクトショップは当時も多種ありましたが、あえてビームスでアルバイトをしようと思ったきっかけは何ですか?

矢嶋 高校時代からよく行っていたお店で、自分の好きなファッションだったことです。

中見 カジュアルな洋服がお好きだったのですか?

矢嶋 はい、カジュアルや古着が好きでした。ファッション雑誌を見て、洋服を買いに行くのは、柏のビームスでした。

中見 その後は社員に?

矢嶋 2年かかって、やっと正社員になりました。

中見 アルバイトから社員になろうというのは勇気がいることだと思いますが、アルバイトをしたことでビームスへの愛着、働きたい思いが強くなったわけですね?

矢嶋 大きなきっかけは、同じお店の先輩社員に影響を受けたことです。先輩たちが非常に個性的で、毎日楽しく仕事をしていて、なおかつ自分のプライベートも楽しんでいる。当然、皆さん、洋服が好きという共通項があるのですが仲間的な関係も楽しかったですね。仕事も教えていただきましたが、よく一緒に遊びに行ったりもしていました。いまだに趣味のサーフィンも、当時先輩に連れて行ってもらって始めました。

ビームスはいかにブランドになったか?

中見 ビームスでは現在、ブランドの中にレーベルがありますが、当時、既に幾つもレーベルがあったのですか?

矢嶋 私が入った当時も複数のレーベルがありました。いろいろな切り口で洋服をご提案していました。

中見 ビームスにとって、レーベルとはどういう存在なのでしょうか?

矢嶋 個性的なディレクターを中心にした30以上にのぼるチームそれぞれがレーベルです。レーベルの集まりがビームスにおける事業部で、その集合体がビームスというブランドです。

中見 ビームスには時代の半歩先を見通す目利き力(編集力)がある。企業ブランドとして常に先端的で独自性を有するセレクトショップの1社だと認識しています。

矢嶋 それは弊社の成り立ちに起因すると思います。ショップ名としてのビームスという屋号が、そのまま会社名になっています。ショップ名とレーベル名と企業名が統一されているからこそ、創業から40年以上たってもお客さまにブランドとして浸透しているのではないかと思います。

中見 例えば、スーパーマーケットやドラッグストアではコーポレートブランドはあまり重視されず、一つ一つのストアブランドの積み重ねがコーポレートブランドになっていくと思われています。しかし、ビームスでは店舗としてのビームスがまずお客さまに認知され、それが結果的にコーポレートブランドとしてのビームスとして意識されているわけですね。

アパレルで働く店舗従業員の意義とは?

矢嶋 店に立っている時代から、洋服は自分が着て楽しいとか、自分を表現するものだと思っていました。洋服は自分を表す一部で、生活の必需品から嗜好品に移り変わると、そこに自分の趣味嗜好が入る。その部分には特別な思い入れが出てくると思うのです。思い入れを含め、どの国で作られて、どのようなブランドであるかなどをお客さまに説明して、自分が好きなものをお客さまが好きと言ってくださると、まるでファンが広がっていくというような感覚になります。お客さまに自分と共通の感覚を持っていただき、喜びを感じていただく。そこが販売員として楽しめるところだと思います。

中見 そこはアパレルという商材を扱う販売員の特徴だと思います。消費者行動研究でいうところの“関与度が高い商品”はお互いに関与が高い人同士が会話をすることで、今時で言うところの“絆とかエンゲージメント”が発生しやすいわけです。アパレルは消費財のような短期的なつながりよりも、中長期的なつながりになりやすい材だと思います。

矢嶋 おっしゃる通りです。弊社はセレクトショップという名前の通り、世界中のいいものをセレクトして日本に輸入し、お客さまにご提案しています。「何でこれを選んだのか?」「何で今、これがトレンドの要素を持っているのか?」という背景やストーリーが価値としてあって、それを店舗の従業員を通じてお客さまにお伝えし、関与がお互いに高まり、ファン同士のコミュニケーションが加速していく。それには、まずは店舗スタッフがブランドや商品のファンであることが大事だと思います。

中見 例えば、スーツを売っていくにあたって、最初からスーツのことに詳しいわけじゃないですよね。OJTを含め、いろいろ勉強されたりするのでしょうか。スーツの縫製とか生地とか流行とか、どうやって知り、勉強するのでしょうか?

矢嶋 当社スタッフは入社の素地として、洋服が好き、『ビームス』が好きというモチベーションがあることが多い。その上で、店舗で販売をしていく中で、自分が好きなブランドや自分が似合うものを探し、それはどういう風に作られているのか、どう着こなしたら流行に合うのか、さらに言えば、それをどうアフターケアすればいいのかと、繰り返し自分が着て、洋服を楽しんで勉強し続けるわけです。シーズン前には必ず、全店舗の代表者が本部に集まり、そのシーズンの商品ラインアップをレーベルごとに勉強します。そこでもトレンドやシーズンのテーマなど打ち出しのコーディネートを勉強します。勉強した後で商品が入荷してくれば、きちんと商品を見られるので、組み合わせだとか、その商品をより深く知っていけるわけです。

「販売員の店頭での編集力」の重要性

中見 なるほど、お話を伺っていて、さすがだなと思いました。そして、ビームスの販売員の皆さんに“編集する力”がある理由も理解できました。店頭に立ってお客さんを見ながら、マーケティングでいうところの“顧客視点”を持つには、接客時の会話や表情からお客さまが日頃どういう服装をし、ワードローブにどのようなものがあるのかなどを察知、感知することが必要です。その上でお客さまに似合うことを気付かせるように自分の中で編集し、提案していくわけですよね。服のコーディネート提案(付加価値提案)は小売業でも大事で、単にモノを売るじゃなくて、ストーリーを含めてコトを提案し、お客さんと一緒に価値を作りながら、最終的に買っていただく。すると、お客さんが仕事に着て行ったり、いろんなシーンで使いながら、着てみたら着心地がよかったり、人からおしゃれだねと褒められたりして「矢嶋さんからアドバイスされてビームスで買ってよかった」となる。それがお客さまにとっての価値の創造、“顧客価値創造”というものです。小売業にとって店舗は原点であり、人と人とが交わるコミュニティになり、店舗スタッフ一人一人にファンがつく。アパレルは嗜好品なので、その傾向が他の商材に比べ、強いわけですね。

矢嶋 おっしゃる通りだと思います。私たちも、シーズントレンドは意識しながらも、洋服を自分らしく着こなすことがより大事だと捉えています。全員が同じ服を着るわけじゃないので、店舗スタッフ一人一人の接客スタイルでお客さまと会話をさせていただくことを大切にしています。