BTS(高架鉄道)プラカノン駅近くのジェラテリア凜太郎。モールの中にあるが一見、路面店風。

 千葉県旭市で生まれ、行列が絶えない人気店に成長したジェラート専門店のジェラテリア凜太郎。神楽坂に2号店を開いた後、3店目の舞台となったのがバンコクだ。強い甘味を好むタイの人々が素材の持ち味を生かし砂糖を一切使わないジェラテリア凜太郎に下した評価とは!?

 ジェラテリア凜太郎は千葉県旭市界隈では知らない人がいない、といっても過言ではない超繁盛店だ。古民家を改装した店舗には、発酵バターを使用した焼きたてのワッフルとジェラートの組み合わせを目当てに遠方からも多くのお客が訪れる。

 その人気店がタイの首都バンコクに進出した。しかも、店舗の立地はプラカノン駅そばというちょっと微妙なロケーションだ。バンコク中心部からは近いが、これといった商業施設はなく、地味な印象しかないエリアになぜ、店をオープンしたのだろう。

バンコク店の店長を務める仲島慎太郎氏。

ポリシーを貫くための苦労

 ジェラテリア凜太郎の海外事業部部長を務める中野陽子氏は言う。

「社長がタイに遊びに来た時にこの場所が気に入ったのがその理由です。私はそれまでタイで8年間、不動産の会社に勤務していたので、この場所が難しいことや、タイで飲食店を運営することがいかに困難であるかもよく知っていたので、社長には『やめた方がいいですよ』と言ったのですが、『絶対にここだ』と出店の意志が非常に固かったんです(笑)」

 タイには4000店近い日本食の店があるとされている。日本の食が大人気であることは確かだ。だが、新陳代謝が激しく、新店が続々誕生する一方で消えていく店も後を絶たない。タイでの成功を夢見たものの、物件探しや契約の中身に関して同じ日本人にだまされ、大金を失う飲食店経営者もたくさんいる。

 だが、中野氏はタイ在住期間が長く、しかも不動産のプロだ。プラカノンという立地は決して好条件ではないが、駅からは非常に近く、交通の便はいい。ショッピングモールの中にあるが、テナントではなく路面店のように見える場所にあり、視認性も悪くない。徐々に商業施設が増え、地味なエリアだったプラカノンも少しずつ変わりつつある。前職でのノウハウを最大限に生かし、信頼できる不動産会社やコンサルの協力を得て、ジェラテリア凜太郎のバンコク店は晴れてオープンにこぎ着けた。

 売場面積は30平方メートル。日本の店を手掛けるデザイナーが担当した内装はスタイリッシュで洗練されている。だが、店の要であるジェラートについては問題が山積していたという。

素材の持ち味を生かしたジェラートはショーケースに並ぶ姿も美しい。SNSでも大人気だ。

 ジェラテリア凜太郎のジェラートは砂糖を一切使っていない。使用している食材は、冷凍でもなければピューレでもない。用いているのは「素材そのもの」だ。風味が落ちるという理由から、作ってから3日目のジェラートは全て廃棄している。素材を厳選し、おいしさを実現するためなら何が何でも手を抜かない。同店のジェラートが多くのファンに支持され、「本物(素材)よりもおいしい」と称されているゆえんだが、タイでそのポリシーを貫くのは容易ではなかった。

「当店では甘みとして砂糖ではなく蜂蜜を使っています。タイにはたくさんの蜂蜜があるので、蜂蜜については問題がないだろうと思っていましたが、こちらの蜂蜜は味が濃厚過ぎるんですね。また、使ったその日はいいのですが、次の日になると蜂蜜の風味がいきなり増す。これでは到底使えません。結局、日本から持ってきている蜂蜜を用いています」

 原料調達にまつわる苦労談はまだまだ続く。ジェラテリア凜太郎の「顔」ともいえる季節のフルーツを使ったジェラートについては当初、全て日本から輸入していたが、マンゴー、ライチ、マンゴスチン、パッションフルーツといったフルーツについては現在はタイ産を使用し、ユズや巨峰やイチゴなどは日本産を用いている。しかし、タイのレギュレーションががいきなり変わり、予定していた契約農家からフルーツを入れることができなくなって、調達に駆けずり回ったこともある。カマンベールチーズもタイでは理想とするチーズが見つからず、コスト高を覚悟でフランス産を日本から輸入している。

 2018年9月から準備を始め、納得のできる素材と味を追い求めること約半年。バンコクでの1号店は2019年3月にオープンした。

ワッフルに2種類のジェラートを選んで食べるのがジェラテリア凜太郎のスタイルだ。

 ジェラートは2種類のジェラートを選び、プレーン(メープル味)もしくはココアのどちらかのワッフルをチョイスするスタイルだ。価格は120バーツ(約420円)。ショーケースに並んでいるジェラートは18種類。うち、常時販売しているスタンダードなフレーバーが7種類。季節によって入れ替わるのが11種類。「フレッシュミルク」や「悠山(抹茶味)」「白桃」「黒みつきな粉」「濃厚カマンベール&ナッツ」など、日本でも人気のフレーバーの他に、タイならではのメニューも充実している。

 例えば、タイの人気デザート「マンゴーもち米」(マンゴーにもち米を添え、ココナッツミルクをかけたデザート)をアレンジした「マンゴースティッキーライス」「パクチーモヒート」、タイ産のカカオ豆を使った「カカオ」だ。「カカオ」は特定産地のカカオ豆だけを使ったシングルオリジン。季節によって使用するカカオ豆を変え、もっともおいしくなる時期のカカオ豆だけを使うというこだわりようだ。

 さて、反応はどうか。 

 オープンの際、ジェラテリア凜太郎は宣伝広告を一切打っていない。バンコクに新しく登場した日本食の店はまずは日本人向けのフリーペーパーに広告を出すのが常道だが、あえてその手段を取らず、静かなオープンを迎えた。 

 そのため、オープン当初の客足は寂しかったが、店の存在を知り、ぽつりぽつりと日本人客の来店が増えてきた2019年6月。バンコクに駐在している駐妻(駐在員の妻の略称)を読者とする日本語フリーペーパー「バンコクマダム」に、「BUY1 GET1」(1個注文するともう1個サービス)のプローモーションの告知をかけた。じわじわと広がりつつあった評判を背景に一気に攻めに出たのである。

 効果てきめん、これで駐妻たちの来店が激増した。次いで、タイ人の来店も目立って増え始める。

「日本人に人気の店には、タイ人も行きたがるんですよ。今は休日は日本人のお客さまが多いのですが、平日にいらっしゃるのはほぼタイ人のお客さまですね。タイ人は食べるとSNSにどんどんアップしてくれるので、口コミで人気が広がりました」

 タイ人は世界一ともいわれるSNS好きの国民だ。素材の良さをふんだんに引き出したジェラテリア凜太郎のジェラートは見た目も美しく、写真に映える。これが、お気に入りの店や食べ物、グッズはすかさずスマホで撮ってSNSにあげたいタイ人の心に刺さった。季節もののフレーバーは1カ月で入れ替わるため、全種類をコンプリートしたいと頻繁に来店するタイ人も増えている。甘みの強いスイーツを好むタイ人に、甘さ控えめのジェラテリア凜太郎の味が受け入れられていることは間違いない。

「甘さについては問題ないですね。ヘルシーな食べ物に興味がある方が来店されています。最近、バンコクはオーガニックカフェやオーガニック食材の店も増えていますし、健康への関心の高さを実感します」

行列客であふれたサイアム・パラゴンのポップアップショップ。集客力の高さを見せつけた。

ポップアップショップで人気に火が付く

 人気をさらに決定的なものにしたのが、オープンから7カ月後の10月に出展したポップアップショップだ。バンコク中心部にある巨大商業施設 サイアム・パラゴンのイベントスペースに2週間限定で店を出すと、1日当たり400人〜500人のタイ人客が来店。SNSにはジェラテリア凜太郎の画像があふれた。店前には毎日お客さまの列ができ、話題を呼んだため、パラゴンの11月のイベントにも続けて誘われ出店。2つのイベント合わせて1万人以上のお客さまが来客した。

 今のところ、一番人気のフレーバーは断トツで「悠山(抹茶)」、次いで「フレッシュミルク」が続くが、旬のフルーツを使った期間限定フレーバーも人気が高い。あまおう、巨峰、さつまいも、栗、かぼちゃ、白桃。いずれもタイにあっても、ジェラテリア凜太郎が等級にもこだわり、選び抜いたフルーツで味も食感も違う。日本ならではの素材を用いたフレーバーはタイ人に強く支持されている。

「特に、冬場にだけ提供している『あまおう』は人気が高いですね。感心したのが、タイ人のお客さまが日本のフルーツについて詳しいことです。抹茶についてもびっくりするぐらい情報をお持ちです。当店では西尾産の抹茶を使っていますが、この産地についてもよくご存じす。一時期、京都の抹茶を使っていた時期もありましたが、その時もタイ人のお客さまは、京都産の抹茶の特徴を詳しく語っていました(笑)」

 タイにしっかりと根付き始めたジェラテリア凜太郎だが、課題もある。一番の問題は高コストだ。原料の多くを日本からの輸入に頼らざるを得ないため、まだ利益を出せていない状況だ。

「黒字化を実現するために、多店舗化は必須です。複数の商業施設からオファーはあるのですが、吟味しながら、早い段階で2号店を出したいですね。プラカノンに設けた厨房は最大3店の生産能力があるので、まずは3店体制を目指しています」

ワッフルは注文を受けてから焼き上げる。種類はプレーンとカカオの2種類。

 スタッフの育成も継続的な課題の一つだ。ジェラテリア凜太郎では、注文を受けてからワッフルを焼き、そこにジェラートを乗せて提供しているが、焼き上げたワッフルは定められた秒数だけ冷ます一手間が欠かせない。また、お客にジェラートを手渡す際にはワッフル部分にきれいにナプキンを巻く作業も求められる。

ワッフルに丁寧に巻かれたナプキン、盛り付けの美しさもジェラテリア凜太郎の魅力。

「てきぱきと動きながら丁寧に接客する必要がある。正直、日本人ならあまり教えなくても自発的にやってくれると思うのですが、タイでは指導が必要なので、根気強く指示を出し、細かな作業を身につけてもらっています。幸い、今いるスタッフは順調に育ってきました」

 ジェラテリア凜太郎の海外展開は、タイで終わりではない。2020年中にはジェラートの本場、イタリアのミラノに店を出すべく、中野氏は既に動き出している。ニューヨークへの出店計画もあるという。バンコクだけではなく、世界の大都市ではどこも一様に、消費者の健康志向が急速に高まり、素材そのものへの注目度が上がっていることを考えると、ジェラテリア凜太郎のポテンシャルは非常に高いのではないか。

「味噌アプリコット」や「みりんショコラ」など、日本の調味料を使ったシリーズをラインアップに加えているのも、海外展開を進めていく上では日本らしいメニューが必須だと中野氏が考えているからに他ならない。タイをはじめ海外の事情に詳しく、不動産の知識や経験を豊富に持ち、「挑戦が楽しい」と語る中野氏が率いるジェラテリア凜太郎の海外事業はこれからが本番だ。