フィリピンのMeRISEでの授業風景。個々の生徒のニーズに沿ったオーダーメイド型レッスンが好評だ。

 マニラやセブ島に留学して英語を学ぶフィリピン留学が、日本人が英語を学ぶ際の有力な選択肢となって久しい。2000年初頭からのフィリピン留学ブームを背景に、現地では留学生を受け入れる学校が激増し、プログラミングやデザインなど、英語に加えて別のスキルを習得できる付加価値型の学校も登場している。

 だが、セブ島で英語学校を運営するだけではなく、フィリピン人講師を日本に呼び寄せて英会話学校を開き、軌道に乗せている企業はMeRISEをおいて他にない。世界への挑戦をもっと身近なものにしたいと、日本とフィリピンで事業を積極的に事業展開する同社の原動力は何なのか。

 フィリピン国内には約400もの英語学校が存在し、そのうち日本人が利用しているのは100校、日系資本の学校は50校あるとされている(独立行政法人日本学生支援機構調べ)。2012年10月に設立したMeRISE(当時の社名はユナイテッド・リグロース)もその一つ。だが、同社には他の学校にはない独自性がある。留学、日本でのスクール、フィリピン人英語講師の紹介・派遣という3つの事業を展開している点だ。

 MeRISEがセブ島に開設している英語学校で受け入れた留学生は既に3000人を超えた。日本のスクールも現在8校。そこで学ぶ生徒数は1500人以上に達し、マンツーマンで行うクラスの稼働率は90%に及んでいる。高まる需要に講師の数が追い付かない状況だ。

MeRISEの特徴は講師と先生のつながりが強いこと。日本でのスクール事業に優位に働いている。
今年1月にセブ島のMeRISEの新校舎が誕生した。社会人が満足できる個室も用意されている。

オーダーメイド型レッスンが評判を呼ぶ

 急成長を続けるMeRISEには3人のファウンダーが存在する。代表取締役の呉宗樹氏、取締役 CFOの鈴木光貴氏、取締役 COOの渡辺和喜氏だ。新卒で同期だった呉氏と鈴木氏、鈴木氏の転職先に在籍していた渡辺氏の3人は、それぞれ同時期にフィリピンに英語留学していたという。呉氏は振り返る。

「皆、独立志向があり、これからは海外に出なければという熱い思いは同じでしたが、3人とも英語はからっきし駄目(笑)。それぞれ別々にフィリピンに英語留学をして、フィリピン英語留学の良さを身をもって体験しました。ただ、もっとこうだったらいいのにという不満も多かったんですね。留学生の大半を占めるのは大学生ですが、彼らと私たちのような社会人とでは英語留学の目的が違う。大学生は主にTOEICの点数を上げるために勉強に来ていますが、社会人は仕事で英語を使いたい。自分の目的と関係のないシチュエーションがテキストに出てくると、ちょっとつらいものがありました。大学生とはそうそう話も合わないですし。また、ネットが遅いとかご飯がおいしくないとか、学校の設備や環境にも不満が残りました」

 既に社会の第一線で働いている大人向けの学校があってもいいのではないか。需要は必ずあるはずだと意見が一致し、3人は2012年10月にセブ島と日本で会社を設立。英語学校開校に向けて動き始めた。開講予定は2013年4月。現地で学校を開校するにはTESDAというライセンスが必要だが、フィリピンでは何事も予定通りには進まない。粘り強く手続きを進めて、何とかオトナ留学MBA(当時の学校名)の開校にこぎつけた。

 学校の核になったのは、取締役 COOの渡辺氏が英語を教わっていた1人の講師だ。

「私たちの思いに賛同してもらい、彼を中心にカリキュラムを作成しました。私たちの学校が対象とするのは社会人。3カ月近く留学する大学生が多い学校とは異なり、2週間程度しか留学できない人が多いですし、リス二ング力だけ向上させたいというニーズも強い。そこで、英語学校に対する社会人のニーズを徹底的に探り、それを形にしていきました」

 開校時の講師の数は7人、集まった生徒の数も7人。文字通りのスモールスタートだが、ここから同社の快進撃がスタートする。ビジネスパーソンの限られた時間の中でいかに効率的に英語力を上げていくか。その目的に沿って組まれたオーダーメイド型レッスンはすぐに評判を呼び、口コミで人気が広がっていった。

MeRISE新校舎内に設けられたレストラン。3人のファウンダーのかつての体験を踏まえて施設やサービスを強化した。
MeRISE英会話八重洲校。仕事帰りの社会人が多数利用している人気校の一つだ。
MeRISEの3人のファウンダー。代表取締役の呉宗樹氏(中央)、取締役 CFOの鈴木光貴氏(左)、取締役 COOの渡辺和喜氏(右)

圧倒的な安さでレッスンを提供

 当時、3人のファウンダーは全員がセブ島を拠点としていた。生徒や講師から要望があればすぐに改善し、カリキュラムやサービスを見直す。その繰り返しが奏功し、生徒数は右肩上がりに増え続け、オトナ留学MBAはセブ島の学校の中でも人気校に躍り出た。

 だが、呉氏を含め、ファウンダー3人は課題も感じていたという。

「フィリピン『留学』という言葉が独り歩きして、フィリピンで学べばすぐに英語が上達できると誤解する人が多いんですね。英語学習のやり方を知り、英語を学ぶきっかけとしては有効ですが、正直言って、英語力がゼロレベルだと数週間の留学では上達は難しいです」

 日本に戻ると仕事に追われ、せっかく留学中に身に付けた英語学習の習慣が途絶えてしまう卒業生も少なくない。だが、語学を習得する上で、最も効果的なのは継続的な宅習だ。何とか続けてもらう道はないのか。

 模索していた呉氏たちに大きなヒントをもたらしたのが、2014年1月にフィリピン人講師3人を連れて実施した日本へのインセンティブ旅行だった。

「この機会にMBAの卒業生が大勢集まってくれたんですよ。講師と卒業生との間に結ばれていた強い結び付きを感じました」

 生徒のニーズを踏まえ、個別にカリキュラムを組んでいることもあり、同校ではもともと生徒と講師のつながりが非常に強い。日本に帰国してからも、講師とLINEなどでずっと連絡を取り合っている生徒も珍しくない。ファンクラブにも似た両者の熱いつながりは、インセンティブ旅行で大いに発揮され、卒業生からは「日本でもフィリピンの先生たちに英語を学びたい」という声が多数寄せられた。

 フィリピン人講師たちから漏れてきたこんな言葉も呉氏たちを動かした。

「一生に一度でいいから日本に行ってみたいと皆、口々に言うんですね。卒業生の声、先生たちの希望が、日本にスクールを開く動機付けになりました。実際に動き出してみると、当初難しいと思っていたフィリピン人の先生たちのビザ取得はそう大変ではなかった。ルールに従って、必要な書類さえ出せばいいからです。問題はフィリピン側で、やはり手続きがなかなか進まない(笑)。やきもきしましたが、何とか2017年に渋谷に1号店をオープンできました」

 日本のスクールもセブ同様、一人一人に合わせてオーダーメイド型のマンツーマンレッスンを取り入れた。それでいて料金は1レッスン2980円〜と、業界の相場に比べると圧倒的な安さだ。

 低額での料金が可能なのは、フィリピン人講師の給与が安いからでは全くない。スクール事業における講師は成功の鍵を握る存在であり、生命線といっていい。そもそもビザ申請の条件は日本人と同等の待遇だ。待遇については一切削っていない。

 だが、同社には同業者にはないアドバンテージがある。一つは、採用コストや育成コストを圧倒的に抑えられることだ。

「セブ島の学校で教えているフィリピン人は約100人。皆、日本で教えたいと切望していて、しかも経験者ぞろいですから、採用や育成コストが日本では一切かかりません。広告費も当初は一切かけていませんでした。留学で講師たちのファンになった卒業生が入学してくれて、しかも、インスタグラムなどSNSでどんどん自発的に紹介してくれたのが大きかったですね」

 日本の英会話学校は、特に講師志望でもなければ、教える技術が高いわけでもないネイティブを講師として採用し、広告に力を入れて告知に努め、集客を図るところが大半だ。そのため離職率が高く、採用コストは高くならざるを得ず、広告費も莫大にかかる。MeRISEは、そんな業界の常識や慣習と真逆の道を歩んでいる。

 スクールの立地も一等地ばかりではない。8校あるうちの大半は駅から多少歩く場所に立地している。それでも高い集客力を誇っているのは、セブ島の留学事業で培ってきたノウハウや評判が、講師と生徒たちとの信頼関係を背景に口コミや紹介という形で拡散されているからだ。

 同社特有の顧客属性もスクール事業の成功を後押しした。同業者の中には、MeRISEに追随して日本でもスクールを開校する学校もあったが、現在はどこも撤退している。なぜか。それらの学校は主に大学生が対象だ。彼ら彼女たちが帰国後、マンツーマンレッスンを受けるだろうか。MeRISEのように経費を抑えて低額レッスンを提供したとしても、個人レッスンは学生にとって予算的にハードルが高い。

 だが、仕事の上で役立つ英語を身に付けたいと真剣に考える社会人であれば、そのハードルは低くなる。社会人をターゲットとするMeRISEのアドバンテージがここにある。

 現在、同社はメルカリ、NTTデータなど大手企業への講師派遣も積極的に進めている。メルカリの場合、当時の役員の1人が個人でセブ島のMeRISEの学校に留学した体験が決め手となり、講師派遣を別の大手英会話学校から切り替えたという。スクールでも、今まで大手の、もっと高額の学校に通っていた生徒の利用が引きも切らない。

 フィリピン留学やフィリピン人講師から英語を学ぶことについては、かつてよりも偏見が薄れてきている。だが、まだ完全に払拭されてはいない。フィリピン人から英語を学ぶことのメリットや効果は実際に体験し、他校と比較してみて初めてその良さを実感できるのかもしれない。

 2019年5月にはセブ島に新校舎がオープンした。

「日本のスクールの需要に供給が追い付かないので、新校舎は講師のトレーニングセンターの機能も兼ね備えています。直近の目標は来年までにスクールの数を10校にまで増やし、現在45人の教師を100人に増やすこと。今後、別の国への進出も予定しています。2030年までには、日本全国の小学校に1人、合計2万2000人の先生を派遣する構想もあります。フィリピン人の英語力を世界中に輸出していきたいですね」

 気になるのは、3人のファウンダーの役割分担だ。急成長する企業においては、創業メンバーが次々に離れていく、という事態は珍しくない。そんな懸念はありませんかと意地悪な質問をぶつけると、呉氏は破顔一笑でこう答えた。

「強面の私、お笑いの鈴木、イケメンの渡辺、と役割が分かれているというのは冗談ですが(笑)、私は営業やマーケティング担当、渡辺は事業オペレーション、鈴木は管理やお金周りと役割を明確に分けています。それに3人とも最初はセブ島の同じ部屋で3人暮らし、立ち上げ時の苦労を知り尽くしていますから、そんな心配はないですね」

 現在、留学やスクール事業といったBtoC、講師派遣のBtoBに加えて、個人と個人のマッチングを図るCtoCのサービス開発も進めている。教えたい人と教わりたい人をAIを使ってマッチングするプラットフォームづくりだ。

「人材育成のプラットフォームですね。チャレンジしたい人が当たり前にチャレンジできる環境を作っていきたい。それが創業時からの目標ですから」

 英会話スクールのマーケットは日本だけで約3500億円規模。呉氏、鈴木氏、渡辺氏の三銃士が舵取りをするMeRISEは、大手5社が25%のシェアを握るマーケットを揺り動かしている。と同時に日本人の進取の気性をもけん引しているといったら大げさだろうか。