「命を懸けて計画を達成するために非常に強いリーダーシップでこの会社を率いていきたい」と語った「前澤コミットメント」はどこに……。

「ゾゾタウン」を運営するゾゾがヤフー(現Zホールディングス)に買収され、社長で創業者の前澤友作氏が退任した。1998年の創業から21年。年間商品取扱高は3231億円と日本最大のファッションEC(電子商取引)モールに育ったが、プライベートブランド(PB)「ゾゾ」の失敗と割引施策「ゾゾアリガトー」への反発で業績が悪化。しかし前澤氏は再成長に挑戦することもなく「わが子」と称していた会社を手放すことになった。

ゾゾスーツの大量生産に失敗

 前澤社長(当時)は昨年4月に発表した初の中期経営計画で「ファッション革命を起こす」とし、目標数値として10年後に時価総額で「オンラインSPA(製造小売業)世界ナンバーワン」と「グローバルアパレルトップ10入り」、そして「10年内に時価総額5兆円」を目指すと宣言した。

 その武器にと開発したのが、体形採寸用ボディスーツ「ゾゾスーツ」とPB「ゾゾ」の発売だった。「ネットで購入する際のハードルになる『サイズ感が分からない』という問題を解決したい」「自分サイズの服が簡単に選べ、オンデマンド生産された服を買えるようにしたい」との狙いがあった。

 中期計画では、2021年3月期に商品取扱高5150億円、営業利益900億円を設定。PB売上高は19年3月期に135億~225億円、2年目に800億円、3年目の21年3月期に2000億円という野心的な数字を掲げた。

 しかし、もくろみはすぐに崩れた。初代ゾゾスーツはニュージーランドのスタートアップ企業が開発した伸縮センサー内蔵型で予約注文も殺到した。ところが大量生産に失敗。遅延が続き、ついに仕様を大幅に変更した。

 2代目ゾゾスーツはゾゾの子会社が開発したマーカーを読み取る画像認識型となったが、水玉模様の全身タイツ姿は6~7割を占める女性客が喜んで着たいと思えるものではなかった。カメラを固定して自分で360度回りながら12回も撮影しなければならないアナログ感や面倒くささもあった。

 実質無料配布ということもあり、注文数は3カ月で100万件超となったが、実際に撮影・採寸してPBを注文するお客の割合は想定を大きく下回った。

 PBの販売や新規顧客獲得のための販促ツールに脚光が当たり過ぎて商品に目が向かなかったことも敗因だ。

 肝心のPB「ゾゾ」でも目玉のビジネススーツで商品の不具合や生産遅延などが発生。「物作りを甘く見ている。失敗するぞ」という業界の声が現実になった。ゾゾスーツをフックにPBの海外売上高比率を3年後に40%、10年後には80%にしたいとも表明していたが海外展開も中止した。

 結局、19年3月期の商品取扱高は3231億円(前期比19.4%増)、営業利益は上場来初の減益となる256億円(同21.5%減)に。200億円を見込んでいたPB事業売上高はわずか27億円で計画達成率は13.5%だった。サブスクリプション型の「おまかせ定期便」も廃止。新たな収益の柱にするとしていたBtoB(事業者間取引)事業や広告事業(30億円の計画に対し14億円)も目標を大きく下回った。

 新たなチャレンジが立て続けに不発となったわけだが、時価総額5兆円を目指した「前澤コミットメント」が、結果として無理やひずみを生み出し、社内や取引先を混乱させた格好だ。

 

安直な値引き策でブランドの信頼を失う

 もちろんゾゾを取り巻く環境の変化もある。出店するブランド・企業はEC強化を打ち出すが、自社サイトへのシフトが強まっている。販売手数料の高いゾゾで売るよりも自社ECで売った方が儲かる。何よりも自社ECでは顧客データが取れ、リコメンドや商品開発に活用できる。リアル店舗とECのオムニチャネル化やOMO(オンラインとオフラインの統合)を実現して、顧客が自由に両チャネルを使えるようにし、顧客との絆を深めるためには自社EC強化は必然の流れだった。

 そんな折にPB「ゾゾ」を打ち出したことは強い反感を買った。出店ブランドの商品を販売して蓄積されたデータを基にゾゾが商品企画や販促を行い、儲けることに対し不満や不信感が増幅。「ゾゾタウンのトップ画面上位にPBが掲示され、売上げが取りにくくなった」と嘆くブランドも多かった。

 PB不振による売上げ・客数不足の起死回生策にと昨年12月に突如始められた有料会員向けの「ゾゾアリガトーメンバーシップ」も炎上した。ゾゾタウンでの買物が常時10%引き、あるいはその分をブランドに還元、または日本赤十字社などゾゾ指定の団体に寄付できる「社会貢献型サービス」として打ち出したが、実質的には安直な値引き施策に他ならなかった。

 そこで同社は600万~1000万枚だったゾゾスーツ配布計画を300万枚に変更し約70億円の予算を40億円程度に抑え、削減した30億円超を原資としてスタート。「割引の原資はゾゾが負担するんだから文句はないだろう」と高をくくり、価格戦略というブランドにとって重要な施策を一方的に始めてしまったことで不興を買い、自社EC強化の流れも相まって「ゾゾ離れ」が加速。ブランドからの信用を失い、費用対効果も悪く、中止を決めた。

「いつまでベンチャー企業のつもりでいるんだ」という苦言もあるが実際、ゾゾは急成長から安定成長に軌道をシフトする時期に来ている。ファッション好きが多かったサイトから客層を広げようと低単価のブランドの出店も増えているが、一つ一つの施策を丁寧に効果的に行うことも求められている。

 これを機に、トップダウンからボトムアップへの転換を目指し、カリスマの感覚的経営から実務型の澤田宏太郎社長にバトンタッチした。集客力があり、30代~50代の男性層を中心に幅広い年齢が利用するヤフーとのシナジー効果を期待することとなった。

 自社単独のPBは大幅に縮小する。一方で、新たに始めた「マルチサイズプラットフォーム(MSP)事業」は好感触だ。自社のビッグデータなどを活用し、アパレル企業と共同で20~50程度のサイズ展開商品を「ゾゾタウン」で販売するというものだ。セレクトショップのビームスやベイクルーズ、アーバンリサーチ、ジーンズのリーバイス、ストライプインターナショナルなどが参画している。ファッションECのプラットフォーマーとして成長してきたゾゾらしく、クライアントの成長を自身の成長とする施策が求められていることの証左だろう。

 
 
 
 

※本記事は『販売革新』2019年11月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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