このたび、機会を頂いて本サイトにオムニチャネルについての連載を行うことになりました。とは言っても、私だけの連載ではなく、日本マーケティング学会リサーチプロジェクトとして登録されているオムニチャネル研究会メンバーによるリレー形式で進めてまいります。日々、ダイナミックに変化するオムニチャネルをさまざまな視点で考えてみようという発想から、本連載名を「オムニチャネル・フォーラム」としました。どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いします。

 オムニチャネル研究会は、2015年秋に発足した産学共同の研究会で、大学に所属する研究者とビジネスの世界で活躍する実務家から構成されています。研究会はほぼ毎月1回のペースで開催し、オムニチャネルの議論を重ねてきました。その成果は最近、近藤公彦・中見真也編『オムニチャネルと顧客戦略の現在』(千倉書房)として実を結びました。

 このフォーラムは、この本の出版を一つのゴール、そして次のステップへのスタートとして、研究会の強みである産学共同組織であることを生かしながら、アカデミックかつ実践に有用な示唆を提供できればと考えています。

オムニチャネルの3つのポイント

 第1回となる今回は、ややアカデミックな視点からオムニチャネルの本質を整理しておこうと思います。おそらく今、小売業界において最もホットなトピックがこのオムニチャネルでしょう。多くのビジネス雑誌やWebメディアなどで取り上げられ、著書も少なからず出版されてきています。学究的世界でも、多様な視点から研究が進められ、海外の学術雑誌ではオムニチャネルの特集号も組まれています。

 このオムニチャネルは、さまざまな定義がなされていますが、このフォーラムではオムニチャネルを「すべての販売/コミュニケーション・チャネルを統合し、シームレスな買物経験を提供するための顧客戦略」と、定義しておきたいと思います。

 オムニチャネルの本質は、この定義に含まれていると私たちは考えています。そのポイントは、「チャネル統合」「シームレスな買物体験」「顧客戦略」の3点にあります。それぞれについて見ていきましょう。

1.「チャネル統合」することで有効に機能させる

 

 まずはチャネルの統合です。マーケティングで「チャネル」といえば、通常、取引チャネル、つまり、所有権の移転経路を指します。「メーカー」→「卸売業者」→「小売業者」→「消費者」というよく見る典型的なチャネルがそうです。

 これに対してオムニチャネルにおけるチャネルには、このような所有権移転経路だけでなく、情報伝達経路であるコミュニケーション・チャネルが含まれます。それは、実店舗、EC、カタログ、電話、スマートフォン、タブレット、コールセンター、ソーシャル・メディアなど多岐にわたっています。オムニチャネルを成功裏に実践するためには、こうしたさまざまなチャネルを統合的に管理しなければなりません。

 チャネルの統合的管理とは、多様なチャネルから生み出される販売データ、顧客データ、物流/ロジスティクス・データを一元的に集約し、コントロールすることを意味します。逆にいえば、このような多種多様かつ膨大なデータを統合的に管理しなければ、オムニチャネルを有効に機能させることができないのです。

 この取引/コミュニケーション・チャネルをうまく統合するには、チャネル統合のもう一つの局面である組織の統合が条件となります。一般的に、実店舗、EC、ソーシャル・メディアといったチャネルは、店舗事業部、EC事業部、SNS事業部といった個別の組織によって管理されています。

「組織は戦略に従う」という有名な命題に示されるように、組織はその戦略を遂行するのに最適な仕組み(組織構造や業務プロセス)として構築されます。店舗事業部は実店舗について、EC運営部はECについて、そしてSNS事業部はSNSについて、それぞれ管理・運営責任をもつ組織単位であり、合理的な組織です。

 個々のチャネルがそれぞれ効果的に管理され、優れた戦略が立案・遂行されていれば問題はありません。ところが、そうしたチャネルを統合的に管理するオムニチャネルに移行しようとすると、それまで個別的なチャネル戦略の遂行に機能的であった組織が、そのチャネルだけに効果的な部分最適化した、縦割りの「組織サイロ」と化し、移行の大きな障害となってしまいます。

 組織サイロのもとでは、販売データ、顧客データ、物流/ロジスティクス・データなど各種の膨大なデータが組織間で共有されたり、多面的に分析されたり、あるいは組織間で人的な交流が行われることはほとんどありません。これは、資源や能力が個々の組織に縛られてしまっている状況です。その結果、オムニチャネルの最大の目的である「顧客にシームレスな買物体験を提供すること」ができなくなってしまいます。そこで組織サイロを克服し、あらゆるチャネルを統合的に管理するオムニチャネル組織が必要となるのです。

2.店舗の状況やネットがうまく連動した「シームレスな買物体験」

 

 次のポイントは「シームレスな買物体験」です。「シームレス」(切れ目のない)とは、消費者による一連の買物行動のプロセス全体(カスタマー・ジャーニー)にわたって、スムーズにチャネルを行き来できる状態を指します。

 例えば、よく行く店舗に欲しい商品が在庫されているかどうかがスマホで確認できたり、ECでの購入で貯めた買物ポイントが店舗で使えたり、というものです。売り手からいえば、このようなシームレスな買物経験を提供するためには、店舗の商品情報とネットやSNS上の商品情報がうまく連動していなければなりませんし、実店舗とECで消費者の購買・利用履歴の情報が統合されていなければなりません。

 逆に、店頭在庫がスマホで確認できなかったり、顧客情報がチャネル間で共有されていなかったりすると、カスタマー・ジャーニーには多くの切れ目が生じてしまい、シームレスな買物経験を提供できなくなります。これではオムニチャネルとはいえません。

 さまざまなチャネルを行き来して、情報収集や購買を行うオムニチャネル行動を取る消費者は、オムニチャネル・カスタマー、オムニチャネル・ショッパー、あるいはオムニショッパーと呼ばれますが、この連載ではオムニチャネル・カスタマーを使うことにします。

 さて、私たち消費者は実店舗のみを利用するようなシングルチャネル・カスタマーではなく、既にオムニチャネル・カスタマー化している、といっても過言ではないでしょう。 そうした消費者行動に対応するためには、売り手もオムニチャネル化に向かうしかないのです。もはや、選択の余地はありません。

3.オムニチャネルを「顧客戦略」として捉える

 

 オムニチャネルの本質の第3のポイントは、オムニチャネルを顧客戦略と位置付けることです。オムニチャネルに最も近いのは、マーケティング戦略でしょう。製品、価格、流通チャネル、プロモーションという個々の戦略の統合的管理は、おなじみのマーケティング・ミックスというマーケティング戦略の中心です。

 しかし、それはあくまで企業側の論理であって、顧客の論理に従ったものではない、というのがこの連載での主張です。つまり、オムニチャネルは提供する製品・サービスそれ自体ではなく、顧客に焦点を合わせ、顧客戦略として実行することが重要となります。

 オムニチャネルを顧客戦略として捉えることによって、伝統的なマーケティングが守備範囲の外に置いていた物流・ロジスティクス、サプライ・チェーン、決済などは真正面から取り組まなければならない課題となります。

 つまり、物流・ロジスティクスは顧客への配送というラストワンマイルを問題としますし、シームレスな買物経験を提供するためには、販売情報に基づいた効率的なサプライ・チェーンが重要となります。また、売上げをどこで立たせるかという決済システムは、多様なチャネルを運用するオムニチャネルでは極めて重要な仕組みとなります。

 

『オムニチャネル』を学びたい方はオムニチャネルと顧客戦略の現在をクリック!