著書『アマゾンエフェクト!』やセブン&アイ・ホールディングスにおけるネットショッピング事業を率いた経験で知られる(株)デジタルシフトウェーブ代表取締役社長の鈴木康弘氏。鈴木氏は現在、日本の企業がデジタルシフトを実現させるためのコンサルティング事業に従事している。

 そんな鈴木氏が、10月24日に開催された『商業界オンライン』主催の「リテール・マネジメント・フォーラム」で、デジタルシフトの必要性と実現のための条件を語った。

革新レベルの生産性向上こそが生き残りのカギ

 世の中で起きている「デジタルシフト」という現象は、グローバル化や少子高齢化といった「社会の大きな変化」と、日々生まれてくる「ITの劇的進化」が掛け合わさって登場してきたものです。その影響は大きく、流通業界のアマゾンエフェクトをはじめ、金融、医療、放送などあらゆる分野が変わりつつあります。

 GDPの成長率は減り続け、2020年代以降は成長率ゼロという時代がやってきます。一方で、インターネット環境は発展し続けます。全産業がデジタルを中心に変わっていくのであれば、デジタルシフトを起こせた企業こそが生き残り、アナログに留まった企業は沈んでいくことが予測されるのです。

 これまでデジタル環境やサイバー空間といったものは、「渋滞緩和」や「効率化」といった部分的な最適化として利用されるケースが多くありました。しかし今後は、もっと大きなスケールで現実世界とサイバー空間がつながります。そこでは「安心・安全」「快適」「健康」といった全体的な顧客の利便性が求められます。

 デジタルシフトが企業に与える最大のメリットは生産性の向上です。30年には不足する労働力が644万人に達するという試算がありますが、働く女性やシニア、外国人労働者を増やしても298万人もの人手が足りないといわれています。この穴は、並大抵の施策では埋まりません。投入する資源を削減し、成果を拡大して、生産性が30%以上ガラッと変わるような「革新」が必要であり、そのためにデジタルシフトが欠かせないのです。

 流通業界はさまざまな分野があり、生産者と顧客の間にもさまざまな業態が入っていますが、デジタルシフトの波によってこれらの垣根がなくなっていくはずです。こうした大きな視点での生産性向上に向かっていくのではないでしょうか。

企業、組織、人材自身もデジタルシフトする

 デジタルシフトに悩む企業から多く聞くのは「何からどうしていいか分からない」という経営者の声です。また、事業責任者からは「全社を巻き込む改革の経験がない」、システム責任者からは「複雑化したシステム構築に自信がない」といった話が上がります。

 デジタルシフトが失敗する最大の要因は、責任分担が曖昧になってしまうことです。トップが担当任せだったり、推進体制が不十分で周りの協力が得られなかったり。もともとの業務内容を無視して外部任せのシステムだけ導入し、高い費用だけがかかってしまったり。これらは全て、現実に起こっている失敗のパターンです。

 そこで、私が推進しているのが、経営層が強く決断すること。そして「デジタル推進者」の設置です。デジタル推進者には広い知識と経験があり、リーダーシップとマネジメント力がある「起業家型人材」が向いています。デジタル推進者が経営者と事業責任者、システム責任者の間に入り、周りを巻き込みながらデジタルシフトを断行することで、組織そのものが変わっていけるのではないかと思います。

 社会全体でデジタルシフトが起こっていけば、顧客はより快適なサービスを求めます。そこで企業や組織、人材自身もデジタルシフトできなければ、これからの時代を生き残っていくことは難しいのではないでしょうか。

ウォルマートとシアーズの明暗が示す意味

 

 米国では、16年に実店舗が基盤のウォルマートがECサービスのJet.comを買収し、17年にはデジタル基盤のアマゾンが実店舗メインのホールフーズ・マーケットを買収しました。その一方で、17年にはトイザらス、18年にはシアーズが連邦破産法11条の適用となりました。

 ウォルマートはデジタル中心の改革を本格化させて、20年以上小売業のトップを走り続けていますが、かつてナンバーワンだったシアーズは破産しました。デジタルシフトできるかどうかで、ここまではっきりと明暗が分かれてしまったのです。

 今、小売業界は、あらゆる企業がリアルとネットを融合させることをゴールとしています。アマゾンやウォルマートを筆頭に、米国企業がその先端を走っていますが、その中で日本はネット分野が遅れているといえます。中国はネットでの勢いがすさまじいですが、彼らはリアル店舗のことを、とても勉強しています。

 特にウォルマートのデジタル化は顕著で、18年の米国IT投資ランキングではアマゾン、アルファベット(Google)に続き、3位に入っています。その額は120億ドル弱。小売業にも積極的なIT投資が見られるようになり、デジタルシフトは本格化してきています。

デジタルシフト成功の必須条件とは?

 デジタルシフトを成功する企業は「経営者が不退転の覚悟でデジタルシフトを推進」「推進体制を明確化、人材の入れ替えもいとわない」「未来の顧客視点で業務改革を推進」「ITの自社コントロールを実現」といった共通点があります。最終的には、自社で改革し続ける力を持つことが重要になってくるのです。

 中でも大切になってくるのが、共通プロセスを通した「業務改革の推進」とIT環境を自社でコントロールする「ITマネジメントの確立」です。

※共通プロセス:経営と現場の共通認識のための業務フローや課題抽出、将来設計(CXデザイン)

「業務改革の推進」では、業務上での課題や改善を経営層と現場の担当者が一緒になって考えられる組織体制へのシフトを行います。現場の担当者が変えたいことを自由に話せる場を作ることで、デジタルシフトに向かう基礎が出来上がります。

「ITマネジメントの確立」は自社の中にITチームをしっかり組織することです。システムを外部任せにせず、自社でコントロール可能にすることで対応が柔軟になり、結果的に時間やコストを低減できるのです。

 業務上で共通プロセスを構築すること、ITマネジメントを確立することはデジタルシフト成功の必須条件です。組織の中に抵抗勢力が出てくるなど、うまく行かないこともありますが、あきらめずにトライ&エラーを繰り返すことで、成功への道が見えてくるはずです。

 消費税率が上がり、オリンピックが差し迫る中で、日本企業はかつてない激動の時代を迎えます。今までの常識は通用せず、全産業がどんどん変わっていきます。今、経営者がすべき一番重要なことは、デジタルシフト変革なのです。