2019年10月24日、「デジタル活用で進める小売業の2020年対策」をテーマに、『商業界オンライン』主催の「リテール・マネジメント・フォーラム」が開催され、多くの来場者が訪れた。

ビームスは「ヒト」「モノ」「ウツワ」をデジタルでつなぐ

(株)ビームス 事業企画本部コミュニティデザイン部部長/碧慕絲股份有限公司 董事 矢嶋正明氏

 まず、(株)ビームス事業企画本部コミュニティデザイン部部長/碧慕絲股份有限公司董事の矢嶋正明氏が同社の「オムニチャネル戦略」をテーマに講演を行った。

 アパレルのセレクトショップ「BEAMS」が手掛けるECサイトは、15年7月からリニューアルに着手し、現在は完全直営型の自社ECサイトとしてオープンしている。この時、最も意識したのは、実店舗を形成する「ヒト」「モノ」「ウツワ」の要素をデジタルでつなぎ、実店舗そのものの価値を拡張すること(オムニチャネル化)だったと矢嶋氏は語る。

 中でもECサイト独自の強みとなっているのは、各店舗のスタッフが発信するスタイリングやブログなどのコンテンツ。スタッフにはこうしたコンテンツを「オンラインでの接客」と説明し、スタッフの個性に任せる形で投稿を許可している。

「ファッション大好き」「スタッフは強烈な個性派揃い」という会社の特徴を生かしたことで、自社ECサイト売上げの65%はスタッフ投稿コンテンツ経由となっている。オンライン投稿経由で最も売り上げるスタッフとなると、その売上げは「本来の仕事とは別に」年間で1.2億円にも上る。

 他にも試着や受け取りなど実店舗と連携したサービスを展開するなど、ECサイトの運営を内製化したことによる効果は大きい。人気スタッフはスタリングブックを出版するなど、全社的な離職率が下がるなど他にも多くのメリットが生まれたという。厳しいといわれるアパレル業界の中で、しっかりと未来を見据えてデジタル化できた成功例だ。

世界的「働きがいのある会社」が進める従業員エンゲージメント

(株)セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 コンシューマー通信メディア営業本部長 三戸篤氏

 続いては(株)セールスフォース・ドットコム常務執行役員コンシューマー通信メディア営業本部長の三戸篤氏よる、同社が考える「従業員エンゲージメント」(従業員一人一人が自発的かつ意欲的に仕事に取り組む状態)について講演があった。

 セールスフォース・ドットコムはクラウドベースの顧客関係管理(CRM)システムなどを提供するサービス会社だが、世界的に「働きがいのある会社」として知られているのが特徴だ。

 その最大の秘訣は、企業と顧客の関係性を高めるCRMのノウハウを、企業と従業員にもそのまま適用したこと。採用から採用後のサポート、さらには退職後に至るまでしっかりと”ジャーニー”を整備することで、従業員の94%が「仕事に求められる以上の努力を惜しまない」と回答し、さらに離職率は過去5年で7ポイント減少したという。

 セールスフォースが最も大切にするのは会社の「文化」。仕事そのものは同じでも、ヒトや環境などの文化は会社によって違う。そこで差別化できれば、より良い人材を集めやすいし、従業員エンゲージメントに投資することで結果的に利益は生まれやすくなる。人材不足がさらに加速する今後は、ERM(Employee Relationship Management)を意識することで、より良い人材を確保できるのではと締めくくった。

「自社専用アプリ」が促進する情報共有とは?

アステリア(株) ネットサービス本部マーケティング部 シニアマネージャー/エバンジェリスト 松浦真弓氏

 次にアステリア(株)ネットサービス本部マーケティング部シニアマネージャー/エバンジェリストの松浦真弓氏が「自社アプリで実現する小売業の働き方改革」をテーマに講演した。

 松浦氏が小売業界の中で課題と感じている点は「本部と現場の情報共有」にある。本部では売上げ管理や勤怠、CRMなど、現場ではPOSレジやスマホ決済など、部分的にはデジタル化が進んでいるが、情報共有となると紙や電話、メールといったように効率化が図られていないケースも多い。

 その特効薬の一つに、企業独自のやり方にフィットさせて情報共有しやすくした「専用アプリ」があるが、いきなり開発を進めるには技術的にもコスト的にもハードルがあまりに高い。

 そこでアステリアでは月額2万円で自社専用アプリを運用できるサービスの「Platio(プラティオ)」を提供している。100種類以上用意されたテンプレートや、多岐にわたる情報入力方法、その他、かゆいところに手が届くサポートで企業の特徴に合わせた専用アプリが作成できる。

 松浦氏は、「ラーメン魅力屋」「銀座メガネ」「HITO病院」の事例を挙げながら、「Platio(プラティオ)」の導入しやすさとアレンジのしやすさを紹介。「店舗運営の効率化のカギは情報共有にある」として、モバイルアプリ活用の有効性を述べた。

2万人のプロが解決するAI活用の最新事情

マクニカネットワークス(株) AIビジネス部第1課課長 古賀敏裕氏

 続いてはマクニカネットワークス(株)AIビジネス部第1課課長 古賀敏裕氏による講演。「AIドリブンで変わるリテールの未来」をテーマに、AIを利活用するデジタル変革の現在についての内容となった。

 マクニカが今、力を入れているAI分野では、「人とテクノロジーとAI利活用の経験」をもとに、顧客のデジタル変革に寄り添うことをミッションとしている。中でも、特に小売り事業者の悩みとなっているのは人材不足だ。

 マクニカが19年に子会社化したクラウドアナリティクスは、世界50カ国、2万人以上のデータサイエンティストとともにAIソリューションを提供するサービスを行っている。バックグラウンドの異なる2万人からコンペを募ることで、最適かつ優秀なAIモデルの作成が可能というわけだ。

 AIを有効に使うにはPOC(概念検証)を成功させることがカギとなるが、そのためには「AIモデルは作成可能か」「効果をどう測定するか」「ビジネス内での位置付け」の3つの壁をクリアすることが大切となる。

 しかし、AIを効果的に活用できれば、例えば新規商品の需要予測などが圧倒的に変化する。対象商品や店舗環境の要素を細かく抽出できる他、リアルタイムの状況変化にもAIなら対応できる。米国ではAIが導き出した需要予測を、ダイナミックプライシングやフードロス削減へ活用していることを説明した。

企業の生き残りをかけたデジタルシフトの重要性

(株)株デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘氏

 最後に登壇したのは(株)デジタルシフトウェーブ代表取締役社長の鈴木康弘氏。鈴木氏は「今、経営者がすべき一番重要なこと」として、デジタルシフトがなぜ今求められているかを語った。

 鈴木氏は人材不足について、30年には644万人が不足するという試算を紹介し、これに対応するためにはデジタルシフトによる生産性の向上、しかも30%以上を一気に引き上げる「革新」レベルの変化が欠かせないとした。

 しかし、デジタルシフトに取り組むとしても、経営者は何からどのように取り組むか分からず、事業責任者は全社を巻き込む改革に経験がなく、システム責任者は複雑化したシステム構築に自信がないといったように、悩みのタネは多い。それぞれが責任の所在を曖昧にしてしまい、デジタルシフトに失敗するパターンが多いという。

 特に経営者には「風土や組織を変革する覚悟」「抵抗勢力を説得する意思」「変革同士を集めて人材を育成すること」が必要になる。「担当者が変えたいことを自由に話せる場にする」など、業務の根本を変える覚悟がないとデジタルシフトを起こすまでには至らないとも述べた。

 鈴木氏は5Gの導入やオリンピックの開催などを控える激動の時代を迎えるにあたり、「デジタルシフトを起こせない企業は生き残れない」と予測した。全産業を取り巻く環境が大きく変わろうとしている変革期の中で、デジタルシフトの重要さを改めて実感させる講演となった。