7月18日に開かれた記者会見。中央左が岩田彰一郎社長(当時)。その右がその後を引き継いだ吉岡晃現社長。

「全てが不可解。アスクルの成長事業が乗っ取られる」。オフィス用品通販大手のアスクルの岩田彰一郎社長(当時)は7月18日に都内で開いた記者会見で怒りを隠さなかった。その矛先は2012年に資本・業務提携し約45%の株式を握るヤフー(現Zホールディングス)に向いていた。

ロハコ事業の譲渡を拒否したら退陣要求

 いきさつはこうだ。今年1月にヤフーはアスクルに消費者向け通販サイト「ロハコ」の事業譲渡を打診。アスクルは独立役員会と取締役会で検討の上、譲渡はしないと回答したところ、翌月「真摯(しんし)かつ誠実な検討に感謝する」という返答があったという。

 ところが4カ月後の6月27日にヤフーの川邊健太郎社長が来社。突如、岩田氏に退陣要求を突き付けた。

 実はアスクル社内では8月に開く定時株主総会に全役員を再任する議案の提出が決まっていた。ヤフーから派遣された小澤隆生社外取締役と輿水宏哲取締役からも異論はなかったという。

 退任要求を受けて、改めて指名・報酬委員会と取締役会が全員再任を再度決議し、岩田氏続投を支持。独立委員会の意見書を踏まえ、アスクルは7月12日にヤフーに提携解消の協議を申し入れたが、ヤフーは拒否。株主総会で岩田社長の再任に反対の議決権を行使する予定だと発表した。

 これを受けてアスクルが開いた記者会見で、冒頭の岩田氏の発言が飛び出したのだった。「なぜ役員刷新ではなく社長のみの退陣要求なのか。事業の譲渡だけを求め、譲渡後のプランを語らないのはなぜか。全てが不可解だ」「上場会社としての経営の独立性を維持したいが、支配株主であるヤフーは企業統治や少数株主の利益を無視。ステークホルダーの共同利益であるアスクルの共同事業が乗っ取られる」。

 アスクルは著しい契約違反があった場合には株式の売り渡しを請求できる権利が明記されているとして、この売り渡し請求権の行使も検討したが、結局、8月2日の株主総会でヤフーと約11%の株を持つ文具メーカーのプラスが岩田氏の再任に反対し、解任。ヤフーは岩田氏を支持した3人の独立社外取締役も全員解任し、強引なやり口をはっきりと見せつけた。

 その後開いた取締役会で後任に選ばれた吉岡晃新社長は記者会見で「現時点でヤフーと資本関係を解消したいという基本スタンスは変わらない。ただ直ちにゼロか百ではなく、両社にとってより良い関係模索のための協議を速やかに開始したい」と述べた。

 

アスクルが失敗した本質的な要因とは

 岩田氏の解任の理由としてヤフーはアスクルの業績低迷とロハコ事業の赤字拡大を挙げる。「アスクルの18年5月期の営業利益は半減、19年5月期は通期予想を25%下回る」と言うが、18年5月期は17年2月に発生した倉庫火災の影響を忘れたふりをしてはいけない。しかも19年5月期は増収増益だ。「予想を下回る」という都合のいい部分だけを切り取った巧みな言い回しでイメージ操作をしている。

 しかしロハコは19年5月期に約92億円の営業赤字を計上し、赤字が拡大していることは確かだ。これに対しアスクルは「宅配クライシスに伴う配送費の大幅値上げで収益が悪化したが、構造転換で足元は改善、22年5月期に営業黒字化する」と反論する。

 ではアスクルはなぜヤフーに乗っ取られそうになっているのか。失敗の原因はどこにあったのか。

 ヤフーが抱く「アリババ化構想」に巻き込まれたのは確かだ。しかしアスクル自身に失敗はなかったのか。

資本提携するには覚悟が必要

 結論から言えばアスクルはヤフーと業務提携はしても資本提携はすべきではなかった。少なくとも約42%という大量の株を渡すべきではなかった。

 3分の1以上の株式を握れば拒否権を持てる。その大株主に牙をむかれたらほとんど打つ手がない。アスクルのように半数近くを渡してしまうと他の株主と組まれたらおしまいだ。今回アスクルは国内の会社と金融機関、国内外のファンド4社と交渉しホワイトナイトになってもらおうとしたが、急な動きには時間切れとなる可能性が高い。

 ヤフーから調達した約330億円の大半は新たな物流センターの建設に充てられた。それは魅力的で、危険な資金であると認識する必要があった。

 ヤフーに解任された独立社外取締役の戸田一雄氏は「一昨年まで両者の関係は本当に良かった。イコールパートナーシップとして一番いい例だと思うくらいの関係だった」と話す。岩田氏も「ヤフーの宮坂学前社長は心から信頼できる人だった」と言うが、提携時にトップだった宮坂氏は18年1月に川邊氏と社長交代。提携先にもお家騒動はあり得ると考えなければならない。

IT企業に常識は通用しない

 ましてや巨大IT企業は普通の会社と考えてはいけない。最先端のテクノロジーを使ってイノベーションも起こすが、社内競争は激しく、トップからのミッションを達成できなければ簡単に首をすげ替えられる。追い込まれれば何でもすると考えた方がいい。

「Eコマース取扱高が20年代前半に国内ナンバーワンへ」。9月に開かれたゾゾ買収の記者会見で川邊社長はぶち上げたが、彼もソフトバンクグループの孫正義会長兼社長に結果を出すことを求められている。彼自身が追い込まれていたのではなかったか。

 さらに言えば岩田氏は友人を信頼し過ぎた。かつて親会社だったプラスの今泉公二社長(9月に死去)に裏切られるとは思ってもいなかっただろう。

 今泉氏はアスクルの社外取締役を兼務し、確かにロハコ事業の赤字を問題視していたようだが、岩田氏によると「ロハコ事業を譲渡すればアスクルの株価は跳ね上がる」とヤフー側から伝えられていたという。

 
 
 
 

※本記事は『販売革新』2019年11月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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