ワクワク系に限ったことではないが、会社として新しい考えややり方を取り入れるとき、そこにはさまざまなハードルがある。中でも多く聞かれる悩みの一つは、その考え方ややり方をどう社内に浸透させるかというものだ。今回はそれに関連して、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるパン屋さんの事例を紹介しよう。

 店主は考えた。自店のパン職人さんに自分が学び、実践しているものをどう伝えるか。きちんと話したいと思いつつも、パンを仕込みながらじっくり話をするのは難しく、機会を逸していた。そんな中、パン職人さんが作るPOPを見ていると、書かれているのは品名のみ。

 ワクワク系では、これでは動機付けがなされない、価値が伝わらない、その結果「売れない」ことになってしまう、と理解する。しかし、その視点がなければ、せっかくの自信作が「売れない」「商品が悪いと考える」「また新しい商品を考える」、という悪循環になってしまうかもしれないと危惧していた。

 そこで店主が利用したのは、私が幾多の事例を紹介し、解説付きでまとめている音声番組だ。その詳細は割愛するが、とにかく具体的な事例が中心の初心者向けのものだ。それを聴いたパン職人さん。幾つかの事例を聴き、最初は「本当にそれだけで売れたのかな」と疑問もあったようだが、その音声番組をきっかけに店主といろいろ意見交換をし、その後も自然と聴き進めていたある日、その中の一つの事例を自店でもアレンジして試してみたらどうかと、パン職人さんから提案があった。

 その事例とは、あるレストランが入り口付近に握力計を置き、お客さんと一緒に盛り上がっている話。その後、いろいろな企業が同様のことを試してみて、面白い結果が得られているものだ。それを自店では握力計ではなく、昔からある「黒ひげ危機一髪」というゲームに置き換えて、やってみようという。その際のアレンジ案も、パン職人さんから具体的に提案があった。そうして実際にスタートしてみると、お客さんとの会話と笑顔も生まれ、店主としては一石二鳥のうれしい展開となっていったのだった。

 新しい考え方ややり方はどうすれば社内に浸透するか。それに役立つものの一つは「事例」だ。事例を「面白い」と思えれば、自分でもやってみたくなる。それが結果を生み出せばまた「面白い」となる。その時、その背景にある理論や考え方を伝えれば、実は学びが進む。そうしているうちに、気付けば新しい考え方ややり方がなじんでいく。今日ビジネスで実を結ぶ「学び」とは、そういうプロセスなのである。

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください。