11月1日に開業した「渋谷スクランブルスクエア」の内覧会に参加していた際に、興味深いことに気付きました。テナントの「TSUTAYA BOOKSTORE」のシェアラウンジと、私が先日訪れて記事にも書いた「文喫」の利用料金が、同じ税抜1500円だったのです。

 どちらも滞在型書店で飲食ができるという点が共通していますが、全く違った印象を受けました。2つの書店の見せ方や戦略がとても面白かったので、比較しながら私の感じたことを中心にまとめました。

立地による利用シーンの違い

「TSUTAYA BOOKSTORE」も「文喫」も駅に隣接していますが、同じような業態でも立地によって、その見え方は大きく変わっています。1回の利用時間は、TSUTAYA BOOKSTOREが90分、文喫は1日です。

「TSUTAYA BOOKSTORE」の窓際にある1名席。空やスクランブル交差点を眺めながら読書できることも、一つの価値になる

 TSUTAYA BOOKSTOREは、渋谷スクランブルスクエアという大型ビルの11階にあります。高層階という立地を生かし、窓際の席からは開放感あふれる景色が見ながら読書ができるようになっています。

 ここはコワーキングスペース・カフェラウンジをうたっており、利用者は専用アプリから事前に座席を予約する仕組みとなっています。渋谷はターミナル駅で、多くの人が行き交う街ということもあり、周辺のカフェは若者や観光客で常に混雑しています。オフィスも多いため、主に商談や待ち合わせ前後のビジネスマンの時間つぶしとしての利用を想定しているように感じました。

 これに対して文喫は、六本木駅の個店です。六本木駅には東京メトロが複数乗り入れているものの、どちらかといえば「わざわざ目的のために訪れる」駅というイメージです。1日居放題ということからも、「(せっかく来てもらうのだから)長時間滞在してもらいたい」というシステムがぴったりではないかと感じました。

 文喫には一部外が見える席はあるものの、基本的に本を読むスペースは壁に覆われており、読書に集中できるような空間作りがなされています。TSUTAYA BOOKSTOREの会話がしやすく開放感ある空間設計と比べると、店内は暗めの照明で静かに過ごす雰囲気です。

提供飲食から見る「付加価値」と「客単価」の考え

海外のスーパーマーケットを彷彿させる「TSUTAYA BOOKSTORE」のナッツバー。簡単なおつまみを用意することで90分の価値を上げる

 そもそも通常の書店や図書館でなら、 試し読みや本の選定は無料でできます。その「読書体験」の価値を高め、あえて値段を付けた点に両書店の面白さがあります。TSUTAYA BOOKSTOREでは「時間」に重きを置いて回転率を重視、文喫では「環境」に値付けをして客単価を意識しているように私は感じられました。

 TSUTAYA BOOKSTOREでは90分の時間制限があるため、この90分間をプレミアム体験として提供しようとする工夫が見られます。サービスカウンターにはフリードリンクとナッツバーが用意されており、店内にはスターバックスが併設されています。

「90分間、本や雑誌が読み放題」のみだと、利用者視点では1500円は高いように感じてしまいます。ですが、健康的なナッツやチョコレート、温かいスープも楽しめるとなると、打ち合わせやアイデア出しの「居場所」になり得ます。限られた時間に複数の要素を加えることで近隣カフェからシェアを奪い、90分という読書体験の質や価値を上げているのです。

「TSUTAYA  BOOKSTORE」内のフリードリンクカウンター。コーヒー、紅茶だけでなくスープやジュースも楽しめるようになっている

 一方、文喫は1500円で1日居放題ですが、「快適に本を読む環境」作りに特化しています。飲み放題のコーヒーと煎茶はセルフ形式ではなく、カウンターでスタッフが毎回用意してくれます。店内で提供される軽食やデザート、ジュースやアルコールなどの飲料は、およそ580円~1080円と有料ながら、レストランさながらの本格的なものです

 途中退出は無効で飲食物の持ち込みは不可となっているため、必然的に滞在時間が長いお客さまは店内で追加の飲食物を頼みます。あえて無料サービスを絞り、人が対応することで優雅な空間を守っています。実際には、1500円で丸1日過ごしている人はほとんどいないはずです。

 またTSUTAYA  BOOKSTOREでは利用時間が過ぎると延長時間に対して延長料金を払い、文喫では滞在時間が長い人は追加料金を本格的な飲食代として支払います。こうした些細な違いからも、両者の考え方の違いが見られます。

同じ内容・値段でも、差別化はできる

 両者とも「有料で本が読める」「飲食もできる」場所という点は共通していますが、これだけの違いが生まれているのはとても面白かったです。立地やシステム、店構え、時間設定やサービス内容を比較すると、一見それぞれ似たような内容でも両者は全く違った見え方の書店となっています。値段や内容が同じでも、細部の見せ方にこだわるだけで工夫や差別化はいくらでもできるのだと改めて感じました。

 唯一無二の場所になるためには、全てを新しくする必要はありません。既存の選択肢の中から複数要素を掛け合わせていくだけでも、面白い場所はたくさん生まれるのだと思っています。書店数は年々減少していますが、新しい形の書店はこれからもっと増えていくのかもしれないと楽しみになりました。