第3ステージに入った日本橋再生計画を象徴するコレド室町テラス。時間消費を楽しめる機能が満載だ。

 日本橋の街が大きく変わりつつある。客層の幅が広がり、休日に遠方から訪れる人も増えている。変化する日本橋の起爆剤となったのが、三井不動産が運営する商業施設だ。COREDO日本橋、COREDO室町1・2・3。そして、この秋には新たにCOREDO室町テラスが誕生した。

 台湾から初上陸した「誠品生活」を核に据え、地下1階~地上2階の3フロアに全31店が出店するCOREDO室町テラスは日本橋にさらなる活気をもたらしている。三井不動産は日本橋の街をどう変えようとしているのか。その試みを追った。

台湾初上陸「誠品生活」を核に据え、活気をもたらす

スチール製フレーム、暖簾、竹張りの天井が融合し、日本橋の伝統と未来を感じせる「誠品生活日本橋」。
「誠品書店」では有隣堂とともに選書チームを組んで、独特の文脈で棚を編集している。分類の独自性に注目。


 筆者は、東京での拠点を小伝馬町に置いている。日本橋とは近いため、日本橋の客層の変化は身をもって実感してきた。変化の中身をひと言でいえば「若返り」だ。シニア層が多いのは以前通りだが、30代のカップルやファミリー層、ベビーカーを押して来街する層が確実に増えている。メディアでの露出度も高くなった。日本橋室町一丁目や日本橋本町一丁目をあわせて「ムロホン」。こんな呼び名も若い世代の集客を後押ししているようだ。

 日本橋三越本店、髙島屋を始め、歴史のある百貨店や老舗を数多く抱え、買物の場所としての機能は満たしていたものの、銀座ほどの活気はなく、どこか黄昏れた街というイメージが強かった日本橋は、いったいいつから変わってきたのだろう。

 三井不動産が日本橋再生計画を始動したのは2004年。1990年代後半にかけて金融地・商業地として停滞していた日本橋を活性化するため、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」を開発コンセプトに、2004年に第1ステージとしてCOREDO日本橋をオープンした。

「2010年にはCOREDO室町1を開業し、2014年からは第2ステージとしてCOREDO室町2・3をオープンしました。大きな転換点となったのが、このCOREDO室町2・3ですね。COREDO室町テラス2に誘致した映画館(TOHOシネマズ日本橋)の影響もあり、2014年を境に、平日のお客さまと休日のお客さまの数が逆転し、休日に訪れるお客さまの方が多くなりました。もともとは50代以上の方やオフィスワーカーが中心客層でしたが、30代、40代が大幅に増えました」(三井不動産 商業施設本部 商業施設営業一部 主事の篠原菜美氏)

 基本的には全方位をターゲットとしながらも、30代、40代に刺さる街づくりを追求し、COREDO室町2・3によってその目的をある程度達成した三井不動産は、次に日本橋の街の魅力向上に必要な機能の補完や強化に着手した。具体的には知的・文化的な体験ができる場所やゆったりと過ごすことのできる空間づくりだ。

「COREDO日本橋ではオフィスワーカーの需要に応えるファッションや食をそろえ、COREDO室町1〜3では、日本橋の老舗や日本各地の優れた逸品をそろえたテナントリーシングを行ってきました。COREDO室町テラスでは、これまでのCOREDOシリーズの文脈を踏襲しながら、さらに『コト消費』の充実を目指しました。『コト消費』『時間消費』が楽しめる街になれば日本橋の魅力度がさらに上がることは間違いない。そこで、『価値ある時間を、過ごす場所。』をコンセプトに、ふらっときて楽しめる飲食店やゆったりと過ごせる広場、知的・文化的体験ができる店やワークショップなどの誘致に特に注力しました」(三井不動産 商業施設本部 アーバン事業部 主任の増田磨人氏)

「コト消費」の他に、COREDO室町テラスにはもう一つ、COREDO室町1〜3にはない大きな特徴がある。海外発店舗の存在だ。

「日本橋は江戸時代から、日本中の良いモノが集まってきた街。それが『日本橋らしさ』の一つだと考えています。COREDO室町1〜3ではそこに『日本』というしばりをかけて、日本橋らしさをより分かりやすく感じられる空間を追求しました。ただ、本来良いモノが集まってくる街であれば、海外の優れたモノが同じように街にあっていいはず。今の日本橋はこの段階にあると考え、今回海外の店舗の誘致にも踏み切りました」(増田氏)

日本初出店ながら、オープン早々、多くのファンを獲得している台湾の漢方ブランド「DAYLILY」。

  にんべん、木屋、船橋屋。COREDO室町では幾つもの老舗が出店し、新しい顔を見せている。フレンチやイタリアンの店もあるが、いずれも日本で生まれた日本の店だ。しかし、歴史や伝統、物語を備え、独特の街並みを持つエリアに調和し、『価値ある時間を、過ごす場所。』にふさわしい店は何も日本にはとどまらない。海外にあるのであれば、必ずしもメイドインジャパンにこだわる必要はないのではないか。こうして、COREDO室町テラスの核テナントとして三井不動産が白羽の矢を立てたのが台湾の誠品生活だ。

 誠品生活は書店の誠品書店からスタートし、現在は書籍、雑貨、文具、食物販なども扱うカルチャー体験型店舗を展開している。独自の感性で書籍や雑貨類が編集され、読書と文化の交流の場を育み、発展してきた誠品生活は世界的にもファンが多い。台湾の店舗は日本人旅行客にも大人気のスポットだ。

「最初から、誠品生活は大本命でした。誠品生活はこれまで台湾、香港、蘇州、深圳に計49の店舖を展開していますが、どの店もそれぞれ異なったテーマで店舗づくりをしています。その土地の良さを生かし、人々の暮らしの中で受け継がれてきた文化を反映した店作りを実践している誠品生活に、日本橋の魅力を引き出してほしいと出店を持ちかけました。当初、交渉は難航したのですが、私たちが掲げる『残しながら、蘇らせながら、創っていく』という日本橋再生計画のコンセプトに共鳴していただけたのが大きかったですね。日本だから進出するのではなく、三井不動産の商業施設だから出店するのでもなく、日本橋の街のもつ魅力に共感いただいての出店です」(増田氏)。

 誠品生活は台湾の外に進出した経験はある。

 だが、いずれも中華圏だ。日本への進出となると、言語の壁もあれば、文化の壁もある。日本の書店業界には取次という独特の制度もある。これらの壁をどう乗り越えるか。出した答えが、運営を日本の書店に委ねるという方法だ。選んだパートナーは有隣堂。誠品生活が有隣堂にライセンスを供与し、選書については誠品と有隣堂がチームを組んで棚を構成している。

 誠品生活には、誠品書店(書籍ゾーン)に加えて、誠品文具(文具ゾーン)、セレクト物販・ワークショップゾーン、レストラン・食物販ゾーンのゾーンも設けられた。台湾の老舗菓子店「郭元益(グオユェンイー)」、台湾発の漢方ライフスタイルブランド「DAYLILY(デイリリー)」、台湾茶から創った香水ブランド「P.Seven 茶香水」、スタイリッシュな台湾料理をシャンパンとともに楽しめるレストラン「富錦樹台菜香檳(フージンツリー)」など、いずれも誠品生活の審美眼を通して誘致されたブランドだ。

 体験型イベントが多数用意されているのも、「コト消費」を充実させた空間らしい。映画上映会やトークショー、サイン会、ワークショップ、クッキングスタジオでの実演イベント、漢方の講座など、年間を通して100以上のイベントが予定されている。

 誠品生活の空間全体を見て感じるのが、「日本橋らしさ」と「日本橋らしくなさ」の融合だ。店舗空間はフレームとのれんを用いて幾何学的な演出が施され、天井には竹材が張られている。等間隔に金属製のフレームが連なった回廊は神社の鳥居を思わせるが、受ける印象はシャープでモダンだ。日本橋だからといって、過度に「和」の演出に走らず、未来志向を醸し出している。これが、土地に合わせた店作りを信条とする誠品生活が見て感じた「いまの日本橋」なのだろう。

歴史的資産に海外からの新風が刺激を与える

 オープンから1カ月。「うれしい誤算だった」と増田氏が語るのは、1階に設けた大規模な屋外広場のにぎわいだ。

「外国人はこうした屋外の空間を楽しむことに慣れていますが、果たして日本人はどうなのか。お客さまに浸透するまでの間、広場がガラガラだったらどうしようと多少不安を感じていましたが(笑)、既に予想以上のお客さまに利用していただいています。夕方以降はもう空いている席がないですね。食事をしたり、仕事をしたり、休んだり、思い思いに利用されている印象です」

日本初出店のナポリのピザ店「Gino Sorbillo Artista Pizza Napoletana」。コレド室町テラスでは日本のみならず海外のブランドも導入された。
屋外広場に出店した石屋製菓のカフェ「ISHIYA NIHONBASHI」。広場の盛り上げを後押ししている。

 はやりのタピオカドリンクを扱うティースタンドの「THE ALLEY(ジ アレイ)」では、大人の男性客の利用も目立つ。大人が多い土地柄が、タピオカドリンク=女性や若者のドリンク、という図式を打ち破り、タピオカドリンクの裾野を広げている。「DAYLILY」や「富錦樹台菜香檳」への反響も大きい。後者は行列が絶えない。

 これまで商業施設で「日本初出店」が話題になるのは、主に欧米のブランドだったが、COREDO室町テラスでは「台湾のブランド初上陸」がニュースとなり、集客の原動力となっているのは興味深い。もちろん、台湾のブランドだからいいのではなく、日本橋という街のストーリーにしっくりはまるブランドが誠品生活のフィルターを通してセレクトされているからこその現象だが、台湾のブランドには他国のブランドにはない独特の魅力があるように思えてならない。

「『可愛い』の概念が共通しているように思います。食に対する考えやこだわりも似ていますね」と増田氏。感性が合うといえばいいのだろうか。日本と相性の良い台湾のブランドが日本に進出し新しい顔を見せていく。こうした動きは今後も続きそうだ。

 COREDO室町テラス全体についていえば、ファッションアパレルの要素がほとんどない点にも注目したい。一般に、商業施設は客単価の高いアパレルをメインに据えるのが常道だが、COREDO室町テラスはそうした慣習からは距離を置く。先にオープンしたCOREDO室町1〜3にもその傾向が見られたが、COREDO室町テラスではさらに加速し、アパレルを扱う店はほぼゼロだ(一部の店舗に品揃えの一端として扱っているだけ)。

商業施設営業一部営業グループ主事の篠原菜美氏(右)とアーバン事業部事業推進グループアセットマネジメントグループ主任の増田磨人氏。

「2004年にオープンしたCOREDO日本橋では、まだ百貨店以外にお買物ができる施設がほとんどなかったということもあり、近隣のワーカーの日常の需要を満たすため、オフィスカジュアル向けのアパレルの店を多く誘致しました。ただ、今、日本橋の街全体の魅力を上げるためにまだ足りていないものがあるとしたら、それはアパレルではないように思うんです。アパレルは日本橋三越本店や日本橋髙島屋S.C.を含め、既にかなり充実していますし、近隣エリアには銀座もあります。お客さまが日本橋の街に今、求めているものはアパレルというよりも雑貨や普段の贈り物にも使えるちょっと良いモノ。有名ブランドはもちろんですが、知名度がまだそう高くなくても、ストーリーがあり、クオリティを兼ね備えているブランドや店が求められている。そこに応えました」(篠原氏)

 日本橋再生計画はこれで終わりではない。現状、日本橋川をはさんで商圏がやや分断され、来街者の行き来にややブレーキがかかっている印象があるが、日本橋川のたもとの再開発や日本橋の西側のエリアの開発もこれから進めていくという。

「今後も引き続き、面的な開発を行い、日本橋を楽しむ人の流れを作りたい」と増田氏。同社では、昭和通りを境にWESTエリアとEASTエリアという個性の異なる2つのエリアを「GREATER日本橋」と呼んでいる。土地の持つ歴史的資産に海外からの新風が刺激を与えて活気を帯びる日本橋。これからも、どんな変貌を遂げていくのか楽しみだ。