キープ・ウィルグループ代表 保志真人氏(人物撮影/千葉太一)

 東京都町田市に本拠を置くキープ・ウィルグループは2003年神奈川・東林間に居酒屋「炎家」で創業。16年目を迎える同社は現在、従業員全体で600人(社員200人)、総店舗数は36(町田17店舗)という陣容になっている。

 同社では昨年の10月15日に「創立15周年」の大会を開き、「GOOD LIFE BUSO」(「BUSO」とは武蔵国と相模国を示す「武相」のこと)の5つのプロジェクトを披露した。それは、①レストランプロジェクト、②イートローカルプロジェクト、③地場プロデュースプロジェクト、④アーティスト・アスリート支援プロジェクト、⑤インキュベーションプロジェクトである。これらの概要は18年11月10日の記事に詳しくまとめた。

 この計画を進めるべく、まずライブラリー&ホステル「武相庵」(36室)を昨年12月オープン。コワーキングスベース「BUSO AGORA」(157坪)と町田市内で最大規模のレストラン「STRI」(160坪200席)を今年7月オープンした。「GOOD LIFE BUSO」の活動拠点が整ったことで、キープ・ウィルグループにどのような方向性が見えてきたのか、代表の保志真人氏に聞いた。

「武相エリア」に新たな文化をつくる

――「GOOD LIFE BUSO」はどのようなことを目指すのか。

 

 率直に言って、私たちの地域は目立って「困っている」ということがあまりないエリアと言えます。過疎化が進んでいるわけではないし、街はにぎわっています。

 そうした中、地元を俯瞰してみて、「自分の地域に対する誇り」が持てないことが課題だと考えるようになりました。一部の方々を除き、コンプレックスに近いものがあると感じています。

 私の父の世代の方々は東京のベッドタウンとして武相エリアに居住したので、この場所を故郷と呼べない人が多かったと思います。しかし、その子供であるわれわれ世代はこの場所が故郷なのです。そこで「地元を故郷として誇れる場所に」というテーマを掲げて武相エリアをブランディングしていこうとしているわけです。

――「この街をよくする」ということをもう少し具体的に。

 関東一円を見ると、「東京都心部」の価値観は日本の中心になっていると思いますが、その他の地域で価値観やアイデンティティを強く感じるのは「湘南」くらいで、それ以外にはないように思います。

 この町田を中心とした武相エリアは「東京の西側」という存在感で捉えられます。アメリカでも東の象徴がニューヨークであれば、西にはロサンゼルスやサンフランシスコがあります。ニューヨークは資本主義ど真ん中の経済都市であり、西の街ではヒッピー文化があるなど自由さがあります。

 われわれのエリアのことを調べていくうちにこれに似た文化があると感ました。資本主義的に成功し、華やかに生きていくのであれば東京都心部がいいでしょう。人生をラフに生きたいという人は湘南に集まっているのではないのか、といった具合に、関東で自分の生き方が反映できるエリアに住もうと考えると選択肢は限定されていると思います。

 そこで、われわれの地域は東京都心部でなく、湘南でもなく、もっと「自分らしくやりたいことを形にできるエリア」というポジションになれるのではないかと考えました。そして、この街にはそのような気質が確かに存在していることに気付くようになりました。

 当社は町田に17店舗を展開していて、今回「武相庵」「BUSO AGORA」「STRI」を開業しましたが、「一つの街にこんなにたくさん出店したら、普通だったら嫌がらせを受けるよ」と言われたものです。しかし、そんなことは一度もありませんでした。

前衛的な壁画がランドマークとなる「武相庵」は、アートやコアなコミュニケーションの象徴的な存在になっている
 

 この街の人たちは新しい出来事に寛容なのだと思います。それは歴史をたどっていくと、さまざまな街道が交差し、人や文化が行き交う場所であり、その背景があって明治時代に自由民権運動が活発化しました。

 そんなことで、現在もさまざまな文化が存在します。おたく文化があればロックもある。古着もあれば風俗もラーメンもある。雑多ですが、コンテンツがたくさん存在し、それがちゃんと深く存在している。「自分らしく生きる」と宣言した瞬間に、その一つ一つのコンテンツがとても誇り高く存在感を放つことができるのです。

 このように、地元を東京ローカルの中でもエッジの効いたエリアであるとしっかりと打ち出してブランディングしていきたい。そのために必要な民間にしかできないインフラを微力ながら整えていきたい。コワーキング施設である「BUSO AGORA」がその象徴であり、地域の人々が交流し、さまざまな「コト」がここから生まれて活躍する事例が増えていくと「武相、町田ってなんかいいね」と語られていくと思います。