スタッフには家庭的な雰囲気が漂う。スタッフの誕生日祝いを店内で行い、お客さまからも好感を得ている

Point

  • 【人】お客、従業員との良好な関係づくり

  • 【重視すること】「効率」とは反対の方向に徹する

  • 【戦略】ランチェスター戦略とパレートの法則

従業員が醸し出す「生涯現役」の空気

 雇用環境にも大きな特徴がある。高齢者や女性が多く、家庭的な雰囲気が漂っている。パートタイマー募集のポスターには「人柄募集‼」とあり、対象者は「15歳以上から75歳位」。平均年齢が61歳の店舗もある。「高齢の方は50代の時にパートタイマーとなって、そのまま継続して働いて70代になっているパターンが多い」(王未来社長)という。また、従業員の90%は主婦層で占められる。

 ファミリーで働く例も多く見られる。このような事例が増えるのは8月。函館に観光客が増えると同時に、函館を離れて進学している学生が帰省する時期だ。そこで母親がラッピで働いていると、帰省中の娘や息子を手伝いに連れてきて、さらにその友達を連れてくるようになる。働く人の関係性を温めていることが伝わるエピソードだ。ちなみに新卒採用はしていないが、アルバイトからそのまま社員になる。

 王一郎会長はこう語る。

「人を動かすのは人の心。効率を追求すること以上に大事なことです。そこでラッピでは『仕事のできる人』ではなく『人柄の良い人』を採用しています。これによって、明るくて楽しい店をつくりたい。だから『人柄採用』なのです」

 会長は現在77歳。この年齢を感じさせずに元気で活躍している会長の日常を見ている70代の従業員は「まだ自分は頑張れる」と思う。従業員の全員が「生涯現役」という発想をしていることから、これが店の空気となっている。自分が休みの日には友達の従業員や常連のお客さまに会いにくる。従業員は地域の一員として、地域をみんなでつくっているという発想を抱いている。

 全国チェーンを支えているものは「効率」である。しかしながらラッピはそれとは正反対の方向に徹している。大型店の店舗面積に対して客席数が少ないこと。店舗のそれぞれが資料館であったり、作品のような展示品が充実していること。「効率」の店には、店舗が経時劣化することによって追加投資が必要となるが、ラッピにはそれがない。「バードウォッチング」がテーマの峠下総本店はオープンして7年が経過、「ハンバーガーの歴史」の戸倉店(函館空港に至近)は10年が経過しているが、その年数を全く感じさせない。

 その理由について、王一郎会長は「それは店のテーマ性がしっかりとしていること。そして、ゆとり、面白さといった『無駄な部分』がたくさんあるから」と語る。

「私は『生きている』ということは表現することだと思っています。だから、私が関わっていることの全てを私は本気で愛している、だから表現はつくり込んでいきたい」

 だから、ラッピの店の存在感は強い。ラッピのまねをしている店が全国のどこにも存在しない理由はここにある。

「ラッピを育てているのは自分」という顧客たち

キャラクターの「ハーイ!ラッキーくん‼」、SNSの絶好の撮影ポイント

 ラッピではデジタルマーケティングに対する見識が高い。お客さまがファンとなっていくことによってダイレクトな発信先を増やしている。

 今日のようにスマートフォンが発達していない当時に、メルマガで3万人の顧客が存在していたが、現在はLINEで1万7000人~1万8000人、ツイッターで1万6000人程度が存在する。

 ここでは毎週2~3回、地域の情報を発信している。例えば、函館で自然災害が発生したとすると、テレビやラジオよりもラッピが発信する情報を真っ先に点検するという顧客が存在する。大きな災害があるとお金をラッピの店舗の募金箱に持ってくる。こうして、顧客と地域の情報を共有化し、これらに店のプロモーションを絡め合わせながら発信している。

 店内ではラッピのキャラクターの「ハーイ!ラッキーくん」と顧客が一緒になって写真を撮ったり、ラッピ関連の写真を撮って、インスタグラムやツイッターで投稿することを推奨している。これらの画像は、店内のモニターで随時公開している。顧客にとって”ラッピへの参加意識”が深まることであろう。

お客さまにSNSに投稿することを推奨し、その画像を店内で放映している

 ラッピの顧客の中には、SNSでラッピの新しい情報を投稿することを競う場面が見られるという。例えば、新商品が発売されると、顧客がそれを朝一番に購入して、ラッピの公式サイトよりも先に投稿する、という具合だ。

 ラッピの「お客さまアンケート」にこのような投稿がある。

「〇〇店の庭に雑草が生えています。私が刈り取りましょうか」

「〇〇店の従業員〇〇さんの感じがいいので時給を上げてください」

「うちのおばあちゃんが持っている土地をラッキーピエロに使ってください」

 このように顧客のそれぞれが「ラッピを育てている」という感覚を抱いている。

「持続性」を語る上で注目すべき存在

 王一郎会長は、ラッピの今日を築いてきたポイントをこう語る。

「当社の経営とは『ランチェスター戦略』です。『エリアを限定する』『客層を限定する』ことから始まり、『客層限定を解く』という考え方に移行しました。こうして人口25万人の商圏の中で、子供から大人まで全ての人をターゲットにしていることから、17店舗を経営することができている」

「次にナンバーワン商品をつくること。1点に絞り、断トツの商品をつくり、業界の中で断トツの1番になること。断トツの1番とは2番との差が3倍以上ということ。このように育てたラッピの『チャイニーズチキンバーガー』は年間50万個を売る商品に育ちました」

「そして『パレートの法則』。これは2割の要素が全体8割を生み出しているということですが、当社は上位3割のお客さまで69%の売上げがあるのではないかと見ていることから、上位3割のお客さまと”親戚付き合い”をしています。例えば、新年会へのご招待。海や公園の清掃活動、そして植樹活動を一緒に行っています。地域に住んでいることは誇りです。このことを子供や孫に伝えていかないといけません」

 函館の美しい夜景を例える「百万ドルの夜景」という言葉があるが、この商標登録を王未来社長が副社長当時に取得した。王未来社長はこの事務局の代表となり、これまで函館山の上で無料でお客さまを招く音楽会を11年間継続している。

ハンバーガーの包み紙が函館の歴史を伝えている

 函館市の人口は減っているが観光客は増えている。昨年は500万人だったが、これはさらに増える基調にある。王一郎会長の書籍ができた2012年は「人口28万人」とうたっていたが、現在は25万人へと減っているものの景気の落ち込みはない。

 近年メディアでは視点が「ローカル」に向けられるようになり、持続可能な社会が語られるようになった。

 また、SNSの発達に伴って、画像などの情報をきちんと整理しているところが取り上げられるようになった。このような今日的な話題性をふんだんに持ち、発信を心掛けているラッピは、メディアにとっても貴重な存在である。昨年媒体に取り上げられた数は180回に及んだ。

王一郎会長が店舗を訪問するとお客さまから撮影をお願いされる。その多くが遠方からの観光客だ

 ラッピが創業してから32年(1号店のオープンは1987年6月)。この間にラッピの存在感と影響力は絶大なものに昇華した。今や函館市の運命共同体である。

 地方都市での経営を学ぶだけではなく、顧客との揺るぎない信頼関係を育てていくためにはどのようなことが重要か、ラッピには商売に必要なあらゆるヒントが存在している。