アリババの実験店舗「チンチェンリーショッピングモール」(杭州)内の専門店。月1回、オンラインの売れ筋データを元に店頭のお薦め商品を入れ替える。

 中国の小売業売上高は600兆円で世界最大規模(日本110兆円、アメリカ380兆円※2018年通年ベース)。今やスマートフォン一つで買物から配達まで完結するばかりか、個々人の趣味・嗜好に合わせた商品提案まで行われており、決済技術の進歩とビッグデータの活用が市民生活を大きく変化させている。

 今回はネットの巨人、アリババが取り組む新小売業態を中心に、上海と杭州で視察してきた中国の最新流通事情を紹介する。

※これは一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会のツアーを記事化したものです。

中国消費者の行動の今:スマホも持たずに?

 独身世代の増加、インターネットの普及で消費へのニーズや物流網が様変わりし、スーパーマーケットやショッピングモールなど、モノの小規模化(店舗スペースの縮小、販売・在庫の効率化〈オンラインへの誘導など〉)や体験化が進む中国。上海市内では朝の7時から晩の11時まで、色とりどりのデリバリーサービスのバイクやスタッフが走り回る光景が日常茶飯事になっている。

ランチを運ぶアリババのデリバリーバイクとシェア自転車に乗って移動する市民。奥の施設が「チンチェンリーショッピングモール」。

『朝、通勤中に「タオバオ」で話題のワンピを購入。昼は美团でオーダーしたランチ片手に「タオバオ」で話題のコスメを物色。ブレークタイムにアプリでオーダーしたコーヒーを楽しみ、晩の食材を帰りの電車で購入、自宅に到着と同時に食材が到着。全てスマホ一つで決済まで完了』。中国ではこれが、当たり前に実現している。

※タオバオ(淘宝)はアリババグループのCtoCマーケットプレイス

 スマホ一つで便利な生活、買物は現金を持たずにQRコード決済、というスタイルが浸透している中国では、さらにスマホをうっかり自宅に忘れて外出しても、近所のスーパーマーケットやコンビニでは顔認証でお買物、スマホ要らずで数秒のスピード会計のお店もある。

完全Walk Throughタイプの無人店舗「クラウドピック」(上海)。専用のアプリをダウンロードし、顔認証で入店。商品を持って退店すると会計が完了。天井には全方位のカメラが取り付けられ、誰がどの商品を買ったか、全てデータで管理が可能。
「カルフール天山店」(上海)のセルフチェックアウトコーナー。商品のバーコードを読み取り、Alipay・WeChat Payでの顔認証決済も可能。

ニューリテールの現状と最新の流通事情:キャッシュレス OR ?

 オンラインとオフラインの融合・実験店舗として一躍有名になったアリババの「盒馬鮮生(フーマーションシェン)」(杭州)は、中国の大都市圏中心に高所得者層をターゲットに100店舗まで展開を広げた。

 しかし、出店数は伸び悩み、閉店するお店も出始めている。他の一般的なスーパーマーケットと比べ、安心・安全、流通管理に力を入れ、清潔できれいな店舗、新鮮な高級食材・生鮮食品を扱い、全てネットとつながったリアル店舗として電子タグによる在庫管理、近距離圏への短時間配達が特徴だった「盒馬鮮生」。今、中国のニューリテールにどのような変化があるのだろうか。

「盒馬鮮生」の天井には、オンライン購入された食品を裏口の配送場へ運ぶベルトコンベヤーが張り巡らされている。食品のピックアップと袋詰めは全て店舗の従業員が行うため、オンライン購入が入ると店内を忙しく駆け回る。

1.店舗の一般大衆化

 高所得者に向けた店舗展開による集客の伸び悩み、その場で高級海鮮を選んで調理・食事ができるイートインスペースの「いけす」の維持管理費と運営の問題など、事業の成果は常に問われている。ニューリテールの実験店は一般大衆化、小型化に向けて新サービスを計画中だ。

「盒馬F2」(上海)はイートインスペースが広いコンビニエンスストア。惣菜を多く取り扱う。他に「盒馬鮮生」廉価版(いけすがない)の「盒馬菜市」、ミニスーパーの「盒馬MINI」、「盒馬小站」の大衆向け店舗の出店を計画中だそうだ。

2.現金対応が必須に

 最新の法改正も影響している。電子決済が主流となった中国でも、2018年7月、小売業における現金決済を拒否する行為が違法とされ、店舗の現金対応が必須となった。無人のチェックアウトカウンターと並んで、有人の現金対応カウンターが登場。必ず現金払いの対応が必要になっている。

「盒馬鮮生」の現金対応カウンターには年齢層の高い方の姿も。セルフ会計レジにも決済をサポートする従業員が待機する。
上海市内にある「大衆市場」。市場でもキャッシュレス決済は導入されているが、現金払いする人がほとんど。

3.エコロジー社会に向けた第一歩

 2019年7月より上海で先行して施行された「生活ごみ管理条例」は、企業に対してもごみの削減を課している。ごみの分別収集によるごみ箱の設置・リサイクル回収はもとより、環境にやさしいリサイクルトレーやエコバッグの販売などの導入が始まった。

上海市内には、分別用のごみ箱やリサイクルセンターが至る所に設置されている。

4.少子高齢化社会への対応

 中国社会の現状が流通に与える影響も少なくなかった。

 少子高齢化が進む中国では、日本以上に親の子供への投資熱は高く、1人の子供にかける費用は、家庭支出の中で住宅ローンに次ぐといわれている。商業施設の中には、子供向けの習い事やベビー向けのマッサージサービスまで、6フロアのうち1フロア全てが子供向けのテナントとなっているところもある。

ショッピングセンター「Bingo広場」(上海)。子供向けの教室や遊び場が人気で平日でも子供とその家族でにぎわう。祖父母が孫を見守る。

ニューリテールからその先へ:中国が日本の流通に学ぶこととは?

「チンチェンリーショッピングモール」内のアパレルショップでのAR試着。オンライン上の販売実績データを元に来店客へ売れ筋コーディネートの提案を行い、そのままパネル上でオンライン注文も行える。人の接客を介さず商品提案を行うオンラインとオフラインの融合事例。

 オンラインのビッグデータを活用して、オフラインの顧客も取り込み、新型の小売業態を模索し続ける中国のニューリテールビジネスモデル。

 その一方で、昨年は中国から日本への訪問者数が800万人を超え、買物消費額の約半分が中国人による消費だった。ネットで不自由なくモノが手に入る時代となっても、日本の商品に対する品質やサービスへの評価は変わらず高いし、中国の流通企業が日本の接客サービスを学ぶ研修が増加し、アリババも日本の流通を学びにやってきている。

 新小売業態の実証の先には「顧客目線のサービスが求められるリアル店舗の運営」という思わぬ発見もあったということだろう。