フロントからタクシーを呼んでホテルを出たのが午前0時。バンコク市街は寝静まり、土曜日の深夜とはいえ、歩く人影はほとんど見当たらない。暗黄色に沈んだ街並みに時折、煌々と光を放つのがセブン-イレブンだ。同国最大の複合企業CPグループが経営し、タイ全土に1万152店舗(10月末、以下同)を展開、2位のファミリーマート1131店舗、ローソン93店舗を引き離している。

 

 筆者は編集記者としてコンビニに関わって15年経つが、今回の渡航の目的はコンビニではなく「マラソン大会」である。タクシーで向かっているのは旧市街地のピッサヌローク通り。フルマラソンのスタート地点である。地下鉄やモノレールの駅が近くになくタクシーかトゥクトゥク(三輪タクシー)を利用するしかツーリストは行きようがない。

スタートは午前2時、なぜ、こんな夜中なのか?

 タイ最大規模のマラソン大会「バンコクマラソン2017」は11月19日に開催された。フルマラソンの出走数は2427人。東京マラソン(3万5500人)の15分の1程度のローカルな規模だが、ハーフマラソン4229人、10キロマラソン8234人と、距離が短くなるほど参加者は増え、身の丈に合ったコースを思い思いに楽しんで走る大会のようである。ちなみにフルマラソン出場者のうち50~59歳(筆者もここに入る)が358人。40代、50代が主体の高齢化した日本の大会とは違って、会場を見ても若者中心の華やいだ雰囲気である。

 

 会場には午前0時30分に到着した。スタートは午前2時。なぜこんな夜中にスタートなのかといえば熱帯気候のせいだ。1日の最高気温は365日30~35℃、最低気温は24~27℃。年間を通して最も過ごしやすい11月~1月の乾季でも、11月の平均気温は27.4℃、湿度は70%、これは8月の東京(27.5℃、69%)と同様の気候である。昼間はムリでも直射日光を浴びない夜であればマラソンは可能ということだ。事実、バンコクの中心部に位置するルンピニー公園には、日が落ちるとランナーが集まり、けたたましい音楽が鳴り響き、屋台も元気を取り戻し、辺り一帯は賑やかになる。熱帯地方は夜走る。早朝にも大勢の人たちがランニングをしている。エアロビクスの集団もいる。やがて太陽が昇り、直射日光を肌で感じると、人々は一斉に帰途に就く。

日本でいうと日本橋から船橋に行き、帰ってくる感じ

 フルマラソンのコースは一般道を4キロ進んだ後、高架道路に入って10数キロ、幹線道路に下りて数キロ走り21キロを折り返し、同じ道を戻ってゴールする。例えるなら、東京・日本橋をスタートし、首都高から京葉道に入り、船橋市(千葉県)で折り返して戻ってくる距離感である。

 午前2時。スタートはタイ語の秒読み。スタート(実際はタイ語だが……) ! の声が発せられると拍手やら口笛やら高揚感が伝わってくる。スタートライン脇のひな壇には大会関係者の重鎮が居並ぶ。誰かは分からないが、とりあえず手を振って通り抜ける。ちなみに東京マラソンは都知事が号砲を鳴らすと決まっている。スタート地点を都庁前としたのだから避けられない。警護も大変だろう。

 スタートから一般道を1.5キロ進み、ラーマ8世橋を渡る。バンコク市内を流れる大河チャオプラヤー川に掛かるラーマ8世橋は、中央の支柱から前後2方向にケーブルを張った美しいフォルム。この橋に笑顔で“帰還”できることを祈る。