ECの台頭や働く女性の増加、高齢化など、小売店を取り巻く環境が大きく変わってきている現在、各店舗は今後も「愛され続ける」ための戦略を、どのように考えているだろうか。その答えの一つに、私は「店舗のメディア化」があると思っている。

 ただ“ものを買う”だけではなく、役に立つ情報を知れたり、店舗や商品自体にエンタメ性があって楽しめたり、背景にあるストーリーに共感したり。そんな「店舗のメディア化」事例として、今回は宮崎県にあるローカルスーパーマーケットの「永野」を取り上げたい。

 宮崎県に本社を置く株式会社永野は「ナガノヤ」や「ウメコウジ」などのチェーン名で県内に10店舗を展開する。宮崎県民に「ウメコウジに行ってきたよ」と報告すると、「すごいローカルなスーパーマーケットに行ったね!」と驚かれるほど、少し前までは県民しか知らない、まさに「地元のスーパー」だった。 

 しかし、このローカルスーパーマーケットはある商品をきっかけに、メディアから取材依頼がくるほどの有名チェーンとなった。かくいう私もその1人。うわさの商品をこの目で見たくて宮崎県まで足を運び、まんまととりこになって帰ってきたのだ。

そのまんまのネーミング「食べづらいサンドイッチ」

 

 写真の品が、そのうわさの商品。商品名は見た目そのままの「食べづらいサンドイッチ」だ。「写真映え」がキーワードとなる今の世の中で、そのインパクトある見た目とキャッチーなネーミングが話題となり、じわじわと人気が広まった。 

 2019年の2月から販売が開始され、今では月間約1万2000パック(全店)も売れるという本商品。開発のきっかけは同社の社長である永野雄太氏が「野菜がたっぷり入った健康的なサンドイッチをお客さまに提供したい」という思いを持ったことなのだそう。 

 社長や社員、各店舗の店長などが試作・試食を重ねて完成したサンドイッチは、完成した商品を食べた社長が「とても食べづらかった。だから『食べづらいサンドイッチ』という名前にしよう」と言ったことからこの商品名となったという。 

 このエピソードを聞いたとき「おそらく自由で遊び心があり、人を大切にする文化を持つ会社なのだろうな」と思った。普通の発想だと「野菜たっぷりサンド」あたりに着地しそうだが、一風変わったネーミングも楽しめるのは、社内に良い雰囲気があってこそ。商品名から、会社の雰囲気も伝わってきた。 

見た目と商品名のインパクトに、「おいしさ」が負けないこと

「食べづらいサンドイッチ」には、実際に購入したお客さまから「食べづらいけどおいしい」「野菜がたくさん入っていて、おなかいっぱい食べても罪悪感がない」といった反響があるという。 

 インパクトのある見た目や商品名で話題となった本商品だが、一過性のブームではなく発売から何カ月も愛されている理由は「こだわり抜いたおいしさ」にある。 

 

 具材にはレタスやトマトなど県産の食材をメインに使用。また、パンは自社工場で製造しており、卵・乳・イーストフード・保存料不使用の自家製無添加食パンを使っているという。ちなみにトーストして使用するため、さらに食べづらくなっているそう(笑)。

 同社はもともと「鮮度と価値」にこだわり続けて惣菜などの開発を行ってきた。体に優しい商品の開発にも各部門で取り組んでいる。

 惣菜には既製品の合わせ調味料を極力使用せず、自社配合の無添加たれを使用。自社工場「手造りの里」で製造する「無添加万能焼肉のたれ」は、成城石井やヤオコーなど、品質にこだわることで定評のある有名スーパーでも定番品として採用されている。

 

商品×PRの相乗効果 

 私が「面白いな」と感じたのは、「食べづらいサンドイッチ」が「商品力」と「PR力」を兼ね備えているところだ。多くのスーパーマーケットは「魅力的な惣菜や商品の開発」には力を入れるが、「魅力的なPR」にはなかなかタッチできていない。 

 永野では、このサンドイッチの販売を始めてから、パン部門全体の売上げも1.5倍ほどになったという。うわさから興味を持って購入した人が、話題性以上に商品のおいしさに心を打たれ、他の商品にも目が向いたのではないかと思う。PR力、商品力の両方があったからこその結果だ。 

 こだわりの商品力を持ちつつ、商品に興味を持ってもらうきっかけを生み出す姿勢が、永野の強みだと考えた。 

こちらは最近発売されたサンドイッチ。その名も「ゴツゴツ」!

 

 種類こそ多くないが、永野では他にもネーミングセンスがキラリと光る商品が発見できる。惣菜コーナーで見つけたこちらのチキン南蛮は、よく見ると「ももみのチキン南蛮(間違いなし)」の表記が。なるほど、間違いないおいしさなのだろうということがよく分かる。 

 

この"メディア化"をまねしたい!「永野編」 

 永野のまねしたいポイントは、遊び心あるアイデアをきっかけに自分たちの魅力をお客さまに伝えることに成功した点だ。日頃いろいろなスーパーマーケットを訪れるが、「魅力的な商品なのに、その魅力を伝えることができていない」ということは多々ある。 

 大手のスーパーマーケットならば販促予算がある程度確保でき、CMを打つこともできるだろう。しかし、中小規模のスーパーマーケットの中には、ギリギリの販促予算で頑張っているところも多く、広報を専任で担当する人がいないケースも多々ある。 

 個人的に「スーパーのPR力」には大きな課題を感じており、もっと自分たちの魅力を上手に伝えることができるスーパーマーケットが増えるよう、私自身携わっていきたいと考えている。実はこの連載を担当しているのもその思いがきっかけだ。 

 そんなPR力不足のスーパーマーケットが多い中で、永野は「商品のネーミングセンス」と「商品のおいしさ」で見事にその魅力を広めた。どちらか一つではなかなか結果が出ない。うわさを聞きつけて買いに来たお客さまを、見た目やインパクトだけでなく舌も満足させられたからこそ、口コミがどんどん広まっていったのだろう。 

「自分たちの商品や店舗にはこんなおすすめポイントがある!」と自信を持って薦められるものがあるなら、ぜひ「それをどうやって伝えるか?」「どうしたら興味を持ってもらえるか?」も一緒に考えてほしい。CMやチラシだけがPRの手段ではない。「商品のネーミング」一つで、チャンスはどんどん広がっていくのだ。 

 主婦にとって「つらい」買物が「楽しい」買物になるよう、楽しみながらメディア化していきましょう!