渋谷駅から渋谷マークシティを経由し、道玄坂上から裏道へ。いわゆる奥渋谷と呼ばれる神泉の一画に、レストランとホステルを併設した「Turn Table」がある。隣は小さな公園。おしゃれなムードを生みつつ同時にどこかホッとするこの空間は、実は昨年2月にオープンした徳島県のアンテナショップだ。

 

 平日の12時前、ランチに訪れると店内は若い女性や子供連れのお母さん、近隣の会社の人たちで、ほぼ半分ほどが埋まっていた。席に案内され、おススメの「薪火グリル野菜プレート×野菜グラタン×野菜ビュッフェ(フリードリンク付き)」を注文する。これで1400円(+消費税)。

 

 店内中央のテーブルにはビュッフェ用の野菜料理があれこれ並んでいて、お客さんたちは「最近、野菜足りてないからね」とおしゃべりしながら、喜々として皿に盛っていく。この日のビュッフェにはニンジン、大根のサラダ、ジャガ芋の新品種「シャドークイーン」の揚げたもの、ひじきのサラダ、ズイキのマリネ、煮玉子、玉ネギのグリル、ケールのサラダ(特産のじゃこをたっぷりのせて特製やまももドレッシングをかけてみた)、レンコンのカレーフライやマカロニサラダ、徳島といえばコレ!なスダチも主役然として山盛り用意されている。

 

 さっそく頂いてみると、シャドークイーンは皮までおいしく、味が濃い。日頃あまり食卓に並ばないズイキはマリネされて新鮮な味わい。玉ネギは味わい深く、ケールのサラダにじゃこをのせたのは大正解だった。やまももドレッシングも初めての味でおいしい。煮玉子の黄身の濃さは尋常じゃなく、どれもこれも野菜の味がしっかりあって、もりもり食べられてしまう。気が付けば横のテーブルに特製豚汁も用意されていた。阿波美豚の豚汁は五臓六腑にしみ渡り、これからの季節さらにうれしい。

 
 

 注文していたメインが来た。薪火グリルと野菜のグラタンだ。既に野菜ビュッフェでお腹いっぱいになりつつあって、その量に驚いたが、薪火でグリルされた『なると金時』やジャガ芋、玉ネギがまた香ばしく格別においしく、もりもりとアッという間に平らげてしまった。グリルした玉ネギにスダチを絞ると、それだけでごちそうになる。野菜のグラタンもまた優しい味だ。

 食べながら周囲を見回すと、次々お客さんが入ってくる。IT関係らしき20~30代の若い人が多い。会社の始業時間がゆっくりしてお昼時間も遅めなのだろうか? 午後1時を過ぎると店内は満席になり、並んで待つ人が外に何人もいる。テーブルに着くとさっそく野菜を山盛り取ってきて、大きな口を開けてモリモリ食べている。ズイキなど、珍しい野菜も臆することなく食べる。日頃あまり口にしない野菜に出合えるのも食のいい経験になるはずだ。

 

 しかし、奥渋谷でこれだけの新鮮野菜を、この値段で好きなだけ食べられるのは、ここがアンテナショップだからだろうが、ここが徳島県のアンテナショップだと知ってる人は意外と少ないんだとか。

右が株式会社Turn Tableの酒井大輔さん、左が徳島県の産業振興を担当する西口智司さん。

「店舗の外観をご覧になっていただければ分かっていただけるでしょうが、特に徳島県ということは打ち出していないんです」

 そう教えてくれたのは、こちらを運営する株式会社Turn Tableの酒井大輔さん。

「地方の自治体はプロダクト・アウト型で『私たちの農林水産物はおいしいから食べてよ』とアピールしますが、そうではなく、自分で『これはおいしい』と決めることが大事だと感じています。徳島のもの、おいしいから食べて食べて!と言うのではなく、まずはご自身でおいしい!と感じてもらって、それが徳島の物だったと知ってもらう。そういう発信の仕方をしています」

 なるほど。確かにお店の外観をチラっと見ただけでは、ここが徳島県のアンテナショップだとはすぐには分からない。でも、店内あちらこちらに徳島に関するポスターがあったり、野菜の説明にも「徳島の」といった言葉があり、たまたま入ったとしても好奇心旺盛な人や、常連さんになれば「ここは徳島に関するお店なんですか?」「阿波踊りですか?」「鳴門の渦潮ですか?」「お遍路さんですか?」と、徳島的質問をお店の方々に投げ掛けたくなるだろう。

「はい、そうやってここを見つけて、徳島の味に出合って興味を持っていただき、それをいろいろな人やところへ伝えてもらえたらいいなと思います。ここは神泉という場所で、IT系の企業さんなどが次々進出されていて、都内のどこに出店しようか?と物件を探す中で、いろいろな人に何かを『伝えてもらう』には適した場所じゃないか、と決めたんです」

 そう教えてくれたのは、徳島県の産業振興を担当する西口智司さんだ。なるほど、だから渋谷なんですね。

「それに、もし、有楽町に従来型のアンテナショップを作っても他のアンテナショップさんの中で埋没してしまうかも、と考えました。東京において残念ながら徳島はまだ知名度が高くありません。しかも有楽町には既に民間の徳島銀行さんが香川銀行さんと共に運営する『徳島・香川トモニ市場』がありますし、虎の門と飯田橋の『ローソン』に県の物産協会が間借りする形で物産を販売してもいます。それ以外の場所でやるなら、とここにしました。渋谷には珍しく隣に小さな公園もあります。実は渋谷区にお願いして、徳島の木も公園に何本か植えさせてもらったんですよ」(西口)

店内のテーブルなどにも徳島の木は使われている。
「Turn Table」の隣にある公園。

 へ~、木まで?と驚いたが、確かに徳島といえば山が深く、豊かな緑が育ち、林業が盛んな場所だ。林業プロジェクトを県が立ち上げ、林業をやってみたいと思う若者たちが集う「林業アカデミー」などもある。ここ「Turn Table」でも木材は生かされているんだろうか?

「それが薪火料理です。木をどう使うかを考えたときに薪火料理が生まれました。こちらはランチだけでなく、ディナーでは『阿波美豚の薪火焼き』や『阿波牛 薪火グリル』、それに『薪火で焼いた枝豆』などもご用意しています」(酒井)

 

 それもまた響きだけでもおいしそうだ。もちろん木材は店内のテーブルやさまざまなところにも使われていて、徳島県の林業をそっとアピールしている。今後は徳島の木材を使ったワークショップなどが定期的に開かれたら、もっともっと面白くなるかもしれない。

「ここのコンセプトは情報を発信しつつ、交流の拠点を作りたい、というものでした。来年にはオリンピック・パラリンピックもありますから、国内からだけでなく、国外からもいろいろな方がいらしてくださり、徳島の食や事を体験してもらい、そのことからここで皆さんがつながり、輪が広がれば、と思います。先日はお食事にいらしてくださったお客さまに『スダチのつかみ取り』をやっていただきました。皆さん、とても喜んでくださったんですが、徳島の食への興味からフードツーリズムにつながっていけばいいなと思います」(西口)

「木材を使ったものでいえば、木工細工の先生をお招きしたカトラリーの手作り教室なども実施していけたらと思っています。徳島の木材を使ったものは、いろいろ可能性が広がります」(酒井)

 なるほど。「食」だけでなく「事」としてもイベントが次々開かれるそうで楽しみだが、既に徳島といえば誰もが知ってる「阿波踊り」の連が来てのイベントも何回か開かれて徳島の輪が広がりつつあるんだとか。さらに、これからは「お遍路さん」関連のイベントや情報発信も考えている。

「お遍路さんは最近では日本の方のみならず、海外の方、特に欧米の方が多く見られます。こんな山奥まで?とびっくりするぐらいの所にも外国の方が1人で歩いていらしたり。夕方暗くなって山道を歩いている外国の方を車に乗せてお送りしたことは一度や二度じゃありません」(西口)

「僕もそういう体験が何度かあります。お遍路さんは世界的に注目されていることを実感しますが、例えば成田空港に降り立ってから実際のお遍路さんに行く間のハブスポットとして、ここを活用できないかと考えています。ネットの情報だけじゃ伝え切れない細かな情報をここで伝えることができれば、と思います」(酒井)

 海外ではガイドブック『ロンリー・プラネット』や東洋文学の研究者であるアレックス・カーの書籍でお遍路さんは有名になっているそうだけど、それだけでは伝え切れていない、現地からの発信をここで伝えたり、またはお遍路さんをこれからやってみたい!と考える人へのレクチャーや体験談トークなど、どんどん発信していけば東京のお遍路基地として、ここが生かされていくだろう。

ホステルのカウンター

 さて、そんな徳島県が今、県の物産として注目してほしい「推し物産」は何ですか?

「藍染、藍ですね。日本で作られる天然の藍の染料は、ほとんどが徳島産です。阿波藍、といいます。江戸時代にはこの藍で徳島藩は大きく栄えたんですが、天然の染料は染めるだけでなく食べ物に使えないか?とか、繊維以外のものに染めたりとか、いろいろ試行錯誤が繰り広げられていて、実際に木に藍を染めたものもありますし、徳島には藍のレストランもあります。ぜひ徳島にいらして、そうした藍の魅力に触れていただきたいですね」(西口)

 徳島県は藍についてホームページも作っている。

 藍というと、普通、布に染める藍染ぐらいしか思い付かないが、「元々は多くの機能を持つ薬草としても世界各地で重宝されて」いたというから驚く。最近では「ポリフェノールの高さは、ブルーベリーの約4倍」ともいわれ、「食物繊維とミネラルも豊富に含まれている」ことから藍の青汁やサプリメントも開発されているんだそう。

 染料としても革製品やインテリアに、和紙に染めたりと、次々に新しい魅力が広がっているとか。中でも藍染のサーフボード「空海藍Surfboard」は世界的にも有名になった。徳島県では毎年7月24日を「とくしま藍の日」に制定し、これからもっと藍を伝えていこうとしている。

 もちろん、ここ「Turn Table」にも藍を使った製品があちこちで使われ、ホステルのリネン類にも藍染めのものが使われている。ちなみに見学させてもらったホステルも、一度泊まってみたいと思った。最近ではこうしたホステルに都内在住の人も「ちょっとした気分転換」にと、泊る人が増えている。ホテルに1人宿泊すると一人ぼっちになってしまうけれど、ホステルだと見知らぬ人とさりげなく、何気なく、ちょっと話したり、微笑みあったりできる。ここは、そういうホッとしたい人にもピッタリの空間だ。もちろん海外からのお客さまも多いので、外国の友人ができる可能性もある。それに何より!宿泊者にはおいしい朝食ビュッフェが付いていて、朝から徳島の野菜があれこれ食べられるのがなんとも魅力的。

 奥渋谷の「Turn Table」はアンテナショップの概念を変える画期的な場所だ。売るより、味わう、体験する、を第一に考えるのは、ここは県の農林水産部が運営しているからだろう。発想の転換がある面白い基地になっている。

1階のバーカウンターも洗練されている。
ホステルでは徳島のメーカーの商品も販売。

Turn Table
http://turntable.jp/
・Restaurant:03-3461-7722
・Hostel:03-3461-7733
〒150-0045?東京都渋谷区神泉町10-3
 京王井の頭線?神泉駅より徒歩3分
 JR渋谷駅よりマークシティ経由で徒歩13分

レストランの営業時間(日曜定休)
 7:30~10:00 朝食ビュッフェ
 11:30~15:00 ランチ
 18:00~24:00(LO22:30) ディナー