あるレッスンを申し込もうとした際の話です。電話申し込みの必要があったので電話をかけると、興味を持っていた少人数グループでの体験レッスンは人気で満席。空きが出次第の案内になるため、代わりにすぐ始められる個人レッスンを提案されました。

 予想外の返答に戸惑いつつ話を進めていくと、申し込みのきっかけやレッスンで行いたいと考えていることをヒアリングされました。この時、私は初めての問い合わせで、まだ通うかどうかも決めていない状態。突然、何の前置きもなく自分のプライベートな内容について尋ねられたので、心理的にすごく抵抗が生まれました。

 おそらく電話口で対応してくれた人は、「お客さまにとって一番良いものを薦めよう」と思ってこちらのニーズを深掘りしてくれたのだと思います。しかし私は、レッスンの内容や知識に関しては素人状態。他社との違いなどもよく分からない状態でのヒアリングは、ちょっと強引にすら思えてしまったのです。

売ろうとする気持ちは大切、でも

 

 中でも私が抵抗を感じた最大の理由は、相手から「売ろう」とする気迫を感じてしまったからです。

 電話口の口調はとても親切で、むしろこちらの話した内容をベースに、丁寧過ぎるほどの提案をしてくれていました。「お客さまは〇〇にお悩みとおっしゃられていましたが、こちらにも似たようなことを考えられている方が多く通われています。そういった方にも非常にご満足いただいております」など、こちらの話をベースにする提案、いわゆる「接客の理想」とされる形でした。

 問題は、感情が案内と一致していないことでした。常に結論は「個人レッスンは良いですよ」という内容ばかり。そして個人レッスンの費用は、少人数グループでの体験レッスンの約10倍。私のどんな会話も、個人レッスンに結び付けるために結論ありきで誘導されてしまっている気がして、何だか気が滅入ってしまったのです。

 最終的には求めているものと違うために個人レッスンは断って少人数グループでの体験レッスンのキャンセル待ち登録を行ったのですが、一気に受講が不安になってしまいました。

 大きな店舗なので、実際のレッスンは電話の相手とは異なる人が対応してくれると思います。ただ初回に受けた印象は強く、あまりお願いしたいとは思えなくなってしまったのです。

顔が見えないからこそ、他者への想像力が問われる

 

 電話の会話やSNSでのテキスト発信は、対面時以上に相手への想像力が必要となります。対面では表情や身振り手振り、声のトーンで話す内容が補われ、真意をより正確に伝えられますが、非対面では「その時に聞こえるもの、目にするものが全て」です。

 例えば私が電話で説明された内容も、仮に対面で目をみながら説明されていれば少し違った印象を受けたのかもしれません。しかし電話での話し方だけを聞いていると、「この人は私の悩みを一見、親身に聞いてくれているけれど、自分の利益を優先しているだけだな」と感じられてしまいました。マニュアルの上を言葉が滑っているように聞こえたのです。

 逆に私が望んでいることも、相手は読み取りづらかったのだと思います。今回であれば、私は初めての問い合わせで少人数グループでの体験レッスンに興味を持っていました。通う時期は問題ではなく、まずは効果や特長、内容などを詳しく説明してほしかったのです。しかしそうした話が説明されたのは、電話を切る前の一番最後の段階でした。

 ビジネスですから、もちろん売上げは大切です。そして巷には、売るためのマニュアルがあふれています。でも最終的に行動するのは本人で、対峙する相手はお客さまです。接客ルール的にOKでも、お客さまが嫌がればそれはNGです。表面上の心が伴わない言動は、自分が考えているよりも簡単に相手に伝わります。特に電話やSNSなど非対人であれば、誤解も生じやすくなります。

 自分たちの売上げと同時に、お客さまの満足度を上げることも同じくらい大切に考えてみてほしいのです。特に非対面時には、お客さまの感じていることや感じるであろうことにより注意深くなってください。どんな提案をするかを決めるのは、あくまでもお客さまのことを理解したその後です。たとえ商品に10倍の価格差があったとしても、きちんと説明した上で満足度を得られそうならば、むしろそちらを選んでもらえるチャンスはあります。

 余裕のないときはどうしても売り手都合で自分の立場を中心に考えてしまいますが、目の前に相手がいないときこそ、最大限の気を遣ってみてください。