店頭にある函館17店舗の布陣図、遠方から訪ねてきて全店を回るファンもいる

Point

  • 【出店】函館エリアにしか店をつくらない

  • 【店舗】資料館であり、作品

  • 【集客】思い付くことの全てをやり尽くす

函館に17店舗、年間240万人が来店する原点

 函館に「ラッキーピエロ」というハンバーガーレストランがある。最大の特徴は函館市内(および近郊)に17店舗を出店していること。そして、このエリア以外に出店しないことを断言していることだ。

 ハンバーガーを販売する店ということで同じエリアのチェーン店を見るとマクドナルド6店舗、モスバーガー2店舗、ロッテリア2店舗となっている。とはいえ、1店当たりの規模は全く異なる。

 ラッキーピエロは近年大型化してきていて、100席、200席クラスの店が存在している。そのような規模の店でも混雑しているときは1時間、2時間待つことになるが、お客さまはそれを疎ましく感じていない。なぜならラッキーピエロの中で過ごすことが目的だからだ。

 このように函館市民、国内の観光客、そしてインバウンドからとたくさんの人々から愛されているラッキーピエロは「ラッピ」の愛称で呼ばれており、昨年はラッピ全店に240万人のお客さまが来店した。

 ラッピの創業者である王一郎会長は(株)商業界より書籍を出版している。書籍名は『B級グルメ地域No.1パワーブランド戦略』(2012年6月発行)。この書籍は筆者が商業界に在籍していた当時、プロデュースさせていただいたものだ。

 本書の内容は「全国チェーンに勝つ商品力とマーケティング」、ラッピが「誕生したきっかけ」、ラッピが実践している「社会貢献活動」「ハイテクを活用したブランディング」「顧客満足経営」「スタッフ満足経営」、さらに「プラスへ導く肯定的精神姿勢」「ラッキーピエロの未来」という構成になっている。謙遜することなく述べると、名著である。

 王一郎会長は1942年5月生まれ、神戸市の出身。27歳の時(1967年)に函館に移住して飲食業を起こした。「ラッキーピエロ」1号店である「ベイエリア本店」がオープンしたのは1987年6月のことだ。

 ラッピの存在が全国的に知られるようになったのは、オートバイで北海道旅行する通称「ミツバチ族」が、宿泊先の連絡ノートに「函館に行ったらラッピという面白い、おいしい店がある、絶対に行くべし」と記したことに始まる。

 その人気が決定的になったのは、函館出身のロックバンドグループ「GLAY」のメンバーJIRO氏が自身の写真集でラッピのことを「俺たちのソウルフード」と紹介したこと。これによってGLAYのファンが”函館のラッピ″を目指すようになった。

店舗は愛情が込められた「作品」

 王一郎会長の著作の存在が知られるようになってから、王会長はさまざまな業界、全国各地の企業から講演依頼を受けるようになった。それも500人、600人規模のものである。そのテーマの多くは上記の項目にある、ラッピが実践している活動について。

 それが画期的で大きな効果を発揮していることはこの書籍を読んでも伝わるが、実際に函館の各店舗を訪ねるとそれぞれが放つ圧倒的な個性、働いている従業員が放つプライドと喜び、お客さまが楽しんでいる様子が十二分に伝わってくる。

 講演会では王会長の話が終わると主催者が会場の聴衆に向けてこう語り掛ける。

「皆さんが病気になったら、世界一のお医者さんにかかりたいですか? 日本一のお医者さんですか? 本当は、地域一番のお医者さんではないですか?」「ですから、私たちは地域一番になりましょう」

 講演会の趣旨がこのような形に定着するようになってから、王会長もこのフレーズを使用するようになったという。

「各店舗が放つ圧倒的な個性」と述べたが、例えば「エルビス・プレスリー」「オードリー・ヘップバーン」というスターの肖像や作品、「1950年代のアメリカのファストフードショップ」「テニスレディ」「ヴィーナス誕生をはじめとしたボッティチェリの作品」というマニアックな蒐集品(しゅうしゅうひん)で店舗はまとめられている。ラッピの店舗の一つ一つが資料館であり作品である。

王一郎会長(左)と王未来社長

 これらは、王会長が海外の旅先で買い集めたものだ。そして、ダイナミックな店舗デザインは、海外の優れた建造物や建築写真集を数多く見ている王会長の豊富な経験値によるものだ。

 商業界から発行された王会長の書籍を名著と述べたが、先述したコンテンツの組み立ては王会長からの提案に基づいており、とても分かりやすい構成は王氏の旺盛な読書力に裏付けられたものと認識している。

 筆者は先の書籍をまとめて以来、ラッピの動向について少なからず気にしていた。そして、昨年の暮にFacebookに投稿された「峠下総本店のクリスマス・イルミネーション」を発見し、そのきらびやかな様子に感動し、峠下総本店を訪ねてみたいという思いが募った。そこで、王会長と王未来社長に函館でお会いする機会を頂いた次第である。今年の8月8日、暑い盛りであった。

創業者王一郎会長の集大成「峠下総本店」

「峠下総本店」がオープンしたのは、本書が発行された2012年6月の3カ月後、9月であった。この年はラッピが創業して25週年を迎えていた。王一郎会長はこの時70歳で、ここに自らが思い付くことの全てをやり尽くそうと考えた。「お客さまが喜ぶ」を超えた「お客さまが驚くもの」である。

 立地は函館と札幌を結ぶ国道5号線そばで、函館からは車で約30分間、七飯町の町長から「ラッピをオープンしてほしい」という依頼を受けて七飯町に3000坪の敷地を入手した。

2012年9月、3000坪の敷地の中に誕生した「峠下総本店」

 峠下総本店はバードウォッチングのテーマパークの中にあるテーマ館である。館内には世界の小鳥に関する絵画やオブジェ、また「インスタ映え」を意識した仕掛けがたくさん詰め込まれている。店舗面積は300坪で208席を配した。この数字から店内がゆったりとしていることがお分かりいただけるだろう。

「峠下総本店」は遊園地としての側面もある
バードウォッチングのテーマ館であり、世界の鳥のオブジェ、絵画が集められている
 

 同店は観光拠点に位置付けられることを想定して駐車場の収容力も充実させた。自家用車145台、大型バスは5台収容可能だ。

 入り口を入ると大きな赤いイスがあって、ここに座るとお金持ちになるという。また、店内に1カ所、ラッキーになるという赤いテーブル席を設けた。ここで食事をするお客さまの中には宝くじを広げてお祈りをする人もいるという。このような感覚は香港を旅行してひらめいたという。

 外観から内装に至るまで基調色となっている深緑色はラッピのテーマカラーであり、風格を感じさせる。子供連れが多いが、子供たちは店内に入ると心躍らせ、皆、スキップを始める。メインは4人掛けテーブル席で、3世代に対応して6席のテーブルを6カ所つくった。

1000坪の敷地にLED電球35万個で構成されたイルミネーション

 さて、Facebookで知ったイルミネーションだが、1000坪の敷地にLED電球35万球を使用、10月30日から3月15日まで点灯しており、これによって冬季の夜のお客さまが増えるようになった。こうして峠下総本店には昨年は32万人が来場している。

 現在、土日祝日には1000人以上のお客さまが来店し、1日中1時間待ちが続いている。若い人たちで22時から23時頃までにぎわっている。