(左)「カリスマ販売員」を“発明”した、ファッションビルのSHIBUYA109。当時は館やフロアのコンセプトが今ほど明確でなく109にも甘味や着物の店までが店を構えており、デベロッパーも販促に腐心した。(右)元祖カリスマ販売員の森本容子氏を表紙に起用した『エスカワイイ』の創刊号。カリスマ販売員は新しいメディアだが、それを伝えたのは既存メディアの雑誌だった。

 平成が終わり、5カ月が過ぎた。人をメディアと解釈すれば、20世紀末以降、若年層女性のファッションに大きな影響を及ぼしたそれは「カリスマ販売員」「読者モデル」(以下「読モ」)「インスタグラマー」と大きく変化した(図表)。わずか20年余りの急激な変遷は、音声に始まり、文字と活字を経て、電子メディアに至った2000年以上のメディアの変遷と類似する。本稿は20世紀末以降の販促メディアの変遷を確認し、次のメディアに求められる要件を考察する。

図表 各メディアが日経新聞各紙で報道された件数の推移

美容師、ホストもカリスマは99年流行語大賞

 1999年11月、カリスマ販売員の「カリスマ」は「新語・流行語大賞」を受賞。その「カリスマ販売員」の言葉を生んだのは、ファッション雑誌の編集者や、SHIBUYA109の販促担当者だと、元祖カリスマ販売員だった森本容子氏は回想する(『WWD』2019年5月19日)。当時は「カリスマ美容師」「カリスマホスト」のような使われ方が多く、要はファッションの販売員に限定せず、その職種の技量が著しく高いことを指した。

 ただ、ファッションのカリスマ販売員が他と著しく異なるのが、高いビジュアル(外見の良さ)である。販売職の古い呼称にも「マネキン」があるが、これはフランス語で「モデル」を指すmannequin(マヌカン)の英語読みに由来する。カリスマ販売員と従来の販売員との違いは、ビジュアルの重視、その強化である。1990年代の後半、SHIBUYA109に軒を連ねる各店は比較的見た目の良い、ただしプロのモデルほどではない販売員を積極的に採用する。彼女らに対し、専門知識のあるスタイリストがコーディネートを決め、ヘア、メイクを施し、ブランド構築を展開する。当時の『日経流通新聞』(99年4月17日)は、「かわいい。スタイルがいい。でもモデルほどじゃない(お客に親近感)」と解説する。

不良在庫も売り切る「憧れ」という販売力

 周知のように、衣料品の購買に必要な情報は、A:商品自体、B:コーディネート、C:マッチング(サイズや色が、消費者の体型や肌の色に合うか)の3つに大別できる。カリスマ販売員、従来販売員ともは3つの情報を全て伝えられるメディアである。

 ただし、AとBについては、カリスマ販売員は動くマネキンの役割を果たした。逆にいえば、自身の年齢がブランドターゲットのそれを超えたときは、交代を余儀なくされる。「カリスマ販売員にベテランはあり得ない」(元カリスマ販売員の談)。

 Cに関しては、試着と相談に勝る情報はなく、マスメディアやネットによる情報提供はほぼ不可能である。ネット通販の自己採寸を支援するZOZOスーツの失敗は記憶に新しいところだ。この部分で、リアル店舗の存在価値が失われることはない。

「身体能力の優れた推奨者の広告に、消費者は高い評価を下すこと」は、ライザップ(痩身支援サービス)やスポーツ関連など他多数の事例がある。実際、カリスマ販売員が身に着ける商品は即座に売れた。その販売力たるや、「不良在庫でも彼女たちに着せれば確実に売れる」というほどだった。そのため、売れ残り商品で“あり得ないコーディネート”を着る悩みもあった(『ギャルと僕らの20年史』)。それでも先の『日経流通新聞』も「(ファッションの)まねはされるがまねしない。接客丁寧、商売熱心」とその販売力を称賛する。

 カリスマ販売員の育成と並行して、店側は商業施設や雑誌編集者に雑誌などマスメディアに取り上げるべき人気販売員を推薦する。逆に商業施設や雑誌編集者も打ち出すべき販売員を選抜するなど、人気のある販売員の露出が増えた。

 こうしたサイクルは、本来「店でしか会えない」販売員の知名度を高めた。販売員自体がメディアであるが、それを広めたのはテレビや雑誌などマスメディアである。マスメディアの紹介なくして、全国から渋谷に集客することはできなかっただろう。

専業モデルより読モ、容姿端麗よりかわいらしさ

 12年秋、「読モ」は90誌でおよそ4285人が誌面に掲載されていた(『日刊SPA』12年11月20日)。そのほとんどが、読者に名前も顔も認知されていない、一般の読者である。それでも、例えば益若つばさは読モ時代に雑誌の記事や広告によって、100億円という経済効果をもたらしたといわれる。100億円は首肯し難いが、00年代中ごろから「読モ」が大盛り上がりだったことは否定できない。

 ファッションの専業モデルが、権威付けや推奨効果をもたらすことは、欧米、日本とも変わらない。

 日本でも一時期はスーパーモデルブームがあった。日本が独特なのは、モデルにかわいらしさやお嬢様らしさが求められる点である。洗練された容姿は必須ではない。

 例えば、欧米のコレクションモデルは身長180cm以上を要求されるのに対し、日本のファッション誌で人気のあるモデルの身長は高くても170cm前後で、150cm台後半の者も多く存在する。身長だけに限れば、専業モデルといえども、読者には十分に身近である。専業モデルに対しても、顔や髪形などに親しみやすさを感じているとすれば、読モへの親しみがより一層強いだろう。後編へ続く)