ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員であるおむすび屋さんから、なかなかに大胆かつ、ワクワク系的には緻密な実践のご報告を頂いた。

 このおむすび屋さんは、幾つもの建物が並ぶ大きな商業施設の一角を占めるレストラン棟の中にお店を構えている。

 そこはいわゆるフードコートになっているため、彼の課題は常に、この商業施設を訪れたお客さんたちにいかにフードコートに立ち寄ってもらい、さらに自店を利用してもらうかということになる。

 そこで彼が行ったことの一つは、フードコートの案内ボードの見直しだった。彼はボード内の自店のスペースにこう書いて貼った。「あの、おむすびあります」。こうした案内ボードでは、ほとんどの飲食店は、自店が出している料理の写真を出す。実際の案内ボードでも、他店は料理の写真ばかりだ。しかし彼の店だけが、赤い下地に文字だけで「あの、おむすびあります」。

 さらに彼は、駐車場から見えやすい位置の壁に大きく自店を表示したが、そこにも赤地に文字だけで「あの、おむすびあります」。

 そんなことで売上げが上がるのかと思うかもしれないが、果たして結果は、前年比150%~200%の売上げで推移しているとのことである。

 当コラムを、前身の日経MJ紙での連載の頃からお読みの方は、「あの、おむすびあります」と聞いて、ああ、あの事例の応用か、とピンとくることだろう。

 もうずいぶん前になるが、当実践会の会員のある過疎地のスーパーマーケットが、当時全国で売っていたナショナルブランドのプリンを、最高で月に1500個、通年で1万個以上売った(この年、日本で一番売った店になったと噂されていた)事例だ。この実践の決め手の一つが、売場でのPOPなどに書かれたひと言、「あのプリンあります」だった。

 この事例以来、「あのおにぎりあります」のフレーズは当実践会や私の講演を聴いた方々の中で流行っているが、今回の取り組みはその応用の一つだ。

 しかし気を付けてほしい。この「あの、〇〇あります」は、単にそう書けばたちまち売上げが上がったり、店の売上げが倍になったりする魔法ではない。先ほど冒頭で「大胆かつ緻密」と書いたが、元ネタのスーパーマーケットも実は緻密。今回のおむすび屋さんも然りである。

 それはどういうことか。この続きは次回に。

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください