いよいよ10月1日、消費税が2%引き上げられ10%になる。当初は2015年10月に実施する予定だったが、増税が景気や生活などに与える影響を懸念し、安倍政権は2度にわたり増税を先送りした。

 消費税は竹下内閣の1989年4月に初めて導入され、3%からスタートした。その後、97年4月に5%に、14年4月には5%から8%に引き上げられ、導入20年間を経て10%の大台に乗った。

 安倍首相は「(増税は)今後10年必要ない」と述べた。だが、社会保障費の増大や今後の日本経済の行く末を考えると、国の厳しい財政事情の改善は不透明である。この見通しは確約でない。政治家特有のリップサービス的発言で、2度の増税延期も後世から正しい決断と評価されないだろう。既にEU加盟国の多くは軒並み20%(付加価値税税率)を超え、成長が続く中国でも13%(増値税)と日本より高い。将来的には、日本も欧米並に引き上げざるを得ないだろう。

税率引き上げを静観、軽減税率には批判

 流通業界の反応は比較的冷静だ。消費税導入の時は業界挙げて反対を表明、抗議集会も開くなどして訴えた。14年も消費の冷え込みを懸念し反対が大勢を占めた。

 今回は増税そのものに対する反対はそれほど盛り上がらず、チェーンストアの業界団体である日本チェーンストア協会の小濵裕正会長の年頭の「悪名高き消費税増税が実施される」という発言に代表されるように、軽減税率や消費の落ち込み防止施策に対する批判は強い。

 軽減税率では、低所得者層の負担を軽くするために、飲食料品の税率を8%に据え置いた。結果、流通業者は複雑な対応を迫られている。具体的には、外食業には軽減税率が適用されないため税率10%だが、持ち帰りの商品は飲食品と見なされ同8%になる。例えば、飲食店の店内で食べれば10%、持ち帰れば8%、コンビニやスーパーマーケットでは、購入した商品をイートインスペースでは食べれば10%、イスに座らず店内で歩きながら食べれば8%。イスやテーブルがあっても飲食用ではなければ、そこでの飲食は8%だ。店頭での対応は極めて複雑で、顧客対応のトラブルも予想される。

価格統一 マックと松屋、税率を変える モスと吉野家

 各社の対応は分かれた。マクドナルドは混乱を避けるため、店内飲食と持ち帰りの価格を統一、約7割のメニューで税込価格を据え置く。ケンタッキーフライドチキンや松屋など、同じような対応を取るところも目立つ。

 こうした対応は実質的な値下げとなるケースもあり、顧客を引き止め、これを契機に新たな顧客を取り込む狙いもあるとみられる。

 これに対し、吉野家は10%、8%と税制通りにし、税込表記にする。同様にテイクアウトと店内飲食の価格が異なるのは、モスバーガー、スターバックスコーヒー、ガスト、ミスタードーナツなど。コンビニ各社も同じだ。

 コンビニやファストフードチェーンが加盟する日本フランチャイズチェーン協会は、イートイン利用客にレジでの申告を促すポスターを配布するが、コンビニはピーク時の混雑や持ち帰り客が大半のため、個別にイートイン利用の有無を尋ねず、自己申告とすることで現場の負担を軽減する。

 ちなみに、ケータリングは10%、ピザの宅配などデリバリーサービスは8%、これも消費者には理解がしにくい。

 また、軽減税率が見分けられるよう、ローソンが軽減税率の商品で「軽」とレシートに表記するなど工夫を凝らす。

 いずれにしても消費者に戸惑いを感じさせ、混乱の可能性も少なくない。

中小のポイント還元に対抗、大手の“上乗せ”施策

 消費の落ち込みを防いでキャッシュレス化を促進させる「ポイント還元」も問題だ。これは来年7月までの期間限定で、中小の店舗でキャッシュレス決済すると、最大5%分がポイントなどで還元されるという制度。導入を契機に中小のキャッシュレス化を促し、中小に手厚い姿勢を示す狙いもあるだろう。

 だが、大小を問わず適用されるべきである。

 国はこれまでさまざまな中小の商業振興政策を打ってきた。残念ながら、現状では実効性のある施策は極めて少ない。「高度化事業」と呼ばれる補助金も有効とはいえず、大店法などの法律も中小流通を守るという視点からの保護政策の性格が強い。事業者の自立性を重んじ、必要な環境整備や法改正を行い、地域と連携し民間の力も活用し支援する。補助金ばらまきでは決して解決しないのは歴史から明らかである。

 ポイント還元に話を戻すと、コンビニは対象店舗のいかんに関わらず実施するなど独自の動きも目立つ。

 スーパーマーケットが加盟する全国スーパーマーケット協会のアンケート調査によると、キャッシュレス決済にポイント還元が適用されない大手チェーンのおよそ4割が、自社のポイントカードにポイントを上乗せしたり、商品を値引きしたりするなど、独自の還元策を実施すると回答した。(回答150社)

 こうした施策は、デフレを増長させる原因ともなり、日銀が目論む脱デフレ政策にも影響を及ぼす。期限が切れる来年8月以降も継続あるいは形を変えてさまざまな販促策がとられることは確実である。消費者にとっては歓迎すべきだが、依然、需給ギャップがある中では、繰り返すがデフレの後押しにもなりかねない。

 この他、スマホ決済、電子マネー、クレジットカードなどキャッシュレス事業者の間では、この機会に利用者を増やそうと、制度とは別に独自のポイント還元などを打ち出す動きが活発化している。

税率引き上げを商機に変えようとする動きも

消費税増税の影響を防止し、逆に売上げを伸ばそうという積極的な取り組みもある。

 ワークマンは、プライベートブランド(PB)525品目の価格を据え置く。PBが売上げの約半数を占めるから実質値下げとなる。据え置き分は製造小売り(SPA)による収益力の高さと売上増でカバーする。

 アパレルではファストファッションのH&Mも価格を据え置く。同社はその理由を、短期的な売上げの増加を狙ったものではなく、長期的なお客さまへの投資としており、この機会を利用して改めて顧客ファーストをアピールする狙いがあると思われる。ハニーズも、前回の増税時に価格を据え置いたが、今回も据え置き、企業努力で乗り切るとしている。

 価格据え置きは、企業の“体力”(資本力)の証でもある。そして、その企業は消費者が感じる複数のバリューの中で価格の重要性を十分認識。増税によって価格が注目される中で、据え置きの打ち出しは注目度を高める目論みもあろう。

 これとは別に、増税前の駆け込み需要を喚起し取り込みを図ろうという動きもある。

 スーパーマーケットでは酒や日用消耗品の買いだめを促すセールを実施、家電量販店でもセールが実施されている。イオンリテールはホームファッションのPB「ホームコーディ」の秋冬商品を8月に前倒しして発売した。

 その中でドン・キホーテは、9月14日から30日まで、8%値下げセールを実施。対象商品は食品、酒類を除き日用品や衣料、家電製品などで、ドンキならではのインパクトのある企画である。

 ただ、今回の駆け込み需要は前回より盛り上がりを欠く。これは引き上げ率が前回3%(5%→8%)より1ポイント低いことや、消費の弱さによるものと推測される。

 以上、消費税増税への対応は各企業でスタンスが異なり、対応の内容でその企業の体力もおのずから明らかになる。増税を商機と捉え、施策を打ち出す企業の動向は、増税前より増税後に注視すべきだ。新たな施策を打ち出す企業が現れることは確実で、企業間格差がさらに広がる可能性もある。