「先生の本、読ませていただきました。この本に書かれている通りなんですよ」

 黄色の付箋が目いっぱい貼られている拙著が目の前のテーブルに置かれています。

「この本の通りに幾つかやってみたら、実際に人が余ってきたんです。現場では人がいない、人がいないっていうもんだから、結構、頑張って入れてきたけど、こうしてみると、実は人が多かったんですね」

 とあるチェーンストアS社の社長さんのひと言です。

――お役に立てて何よりです。その後、人時売上げはどうですか?

「それが、恥ずかしながら変わっていません。社長の私が行って、ああやれ、こうやれと言って1週間ぐらいはもっても、その後が……」とのこと。

 そこで、社長とは別行動で店舗に行ってみると、店長は「いやー、業務が多くて……」と品出しが遅れている部門の手伝いをしていました。誰でも同じように仕事ができるようにと、売場によってはローテーションを組んでやったりと独自の工夫をされておられるとのこと。

 その一方で、店長会議でこうした改善の取り組みを発表しなくてはならないため、大量の数値をエクセルに入力してグラフ化、写真を撮って、パワーポイントづくりに時間がかかっていました。

「人時売上げを手計算してうまくいったことを発表するんですけど、発表の中身よりも発表資料の量の勝負になってしまっていて……」と、やり慣れない作業でてこずっているとのことでした。

現場任せでカイゼンをすると、こうしたことが起きる

 ここで私が気になったのは、店長は資料作りに追われ、忙しくやっているにもかかわらず、現場のマネジャーやパートナーさんは何も困っていないということでした。

 本来、アイデアや改善策はムリがかかる状態の中から生まれるものです。困っていない人に「何か改善を!」「何か工夫を!」と聞いても、何も出てきません。それを無理やり出そうとすると、おかしなことになるわけですが、先に出てきた「誰でも同じように仕事ができるようにと、曜日別に担当のローテーションを組んでやる」が、これにあたると思ったのです。

 そこで、店長に詳しく伺うと「現状、少し余裕があるので、今のうちに厨房作業を全員に覚えてもらおうと日替わりで、作業ローテーションをしている」とのこと。

 その結果、仕事の早い人は何をやっても手際よくできるのですが、手の遅い人は何をやっても遅く、日替わりで遅れる作業が発生。その不満で職場がギクシャクしていたのです。

 もともとこのお店、立地に恵まれた「ドル箱店舗」であったため、人もたくさんいて、いる人員は全て使うという発想で改善を推進。前任のマネジャーの時にこのローテーションを取り入れたのですが、作業が遅い人がいるので改善が進まず、その一方で仕事のできる人が入ってこないので人手不足の問題が起こっていました。

 そこで、プロジェクトチームを作り、日々の製造数量から本当に必要な作業時間を割り出し、業務項目とその量に合わせた人数を再設定したところ、少ない人数で回せ、職場の不満が無くなったのです。

 ウソのようなホントの話ですが、この問題はパートナーさんまで含めた配員基準がなかったことにありました。売上げが下がり、作業量が減っていたにもかかわらず、従来通りの人員で作業をしていたわけです。

 こうしたことは、誰もが疑問に思っていても、現場からは人が多いとは言えないため、経営陣が本質的な課題として取り組まなければ、改革は進みません。

環境が激変する中で店長会議は進化しているか?

 かつて、人口が増えていた時代の店長会議は、経営トップの訓示や方向性の提示があって、運営部長の長い精神論が続き、スーパーバイザーの商品情報や店舗の好事例発表で時間を費やすといったものでも問題視されませんでした。それでも数値が取れていたからですが、これからの店長会は内容を効果の出ることに絞り、生産性の高いものに変えていかなくてはなりません。

 そもそも、店長会議は好事例発表会ではありません。経営として中期の人時生産性のビジョンを掲げ、その進捗状況を共有する時間です。同時に、これは本部として人時生産性を向上させる仕組みとやり方を解説し、どの店でもできるようにしていく場でもあります。

 そこでは店舗運営本部が店長会議の目的を年度・月次でテーマ設定していくことで、今年はいつまでに人時生産性改善のプランを発表し店舗に導入していけばいいのかが決まっていきます。それにより、店舗の人時生産性がどのくらい改善され、社長の言うビジョン達成にどの時点で到達できるか、おおよその見当がつくようになるわけです。

 こう記すと「意識付けから」とか「店長のモチベーションが」という声が聞こえてきそうですが、もちろん、店長一個人の意識もやる気も重要です。しかし、語弊を恐れずに申し上げれば、これは人に仕事が付いた昔のやり方です。

 これからは仕事に人を付けることで、企業の人時生産性を引き上げていくことが必要。特に、少ない人数でどのように店舗を回していくかが重要なポイントになりますが、それを実現させるための店長業務を伝えるのが店長会議になるのです。

店長の業務は簡素化・標準化されているか?

 店長が毎日チェックする必要帳票は全て自動出力されるようにする環境づくりは、経営の役割です。これは言い換えると、誰がいつ店長になってもスグに動けるように、本部は常に整備しておくということです。

 その際、当然ですが、新たにやることだけでなく、やめる業務も決め、最終的に総業務量を減らすことがポイントになります。例えば、時間のかかるレジ業務や品出し、また分析と称して自動出力された帳票をエクセルなどで加工することは、店長自身はやってはならない業務としなければ、店長の業務量は減りません。

「人がいないので支援に入らなくては回らない……」という声が聞こえてきそうですが、店長が応援に入っている限り、問題は潜在化し、解決できないとハッキリ申し上げています(こうしたことと対峙し、考え、対策を講じるのが店長の仕事だからです)。

 実際、こうした帳票を一つ一つ見ていくと、いろいろな問題に気付き、その解決策も見えてきます。例えば、人時超過の要因となる作業ロス、品切れロス、商品ロスといったロス業務のためにやっている作業が山のように出てきますが、これが解決できれば宝の山になるわけです。

 こうした行動を店長がとれる環境づくりをするのが、経営の役割であり、それが正しく行われているかをチェックするのが店舗運営部の仕事となります。

「うちでは人時は毎月出している」という声が聞こえてきそうですが

――では なぜ人件費が予算に収まらないのですか?とお聞きすると、皆さん、「うーん」と言葉に詰ります

 理由は簡単。人件費管理を月次でしようとするからです。これを売上高のように日々確認できるようにすることで初めて予算内に収まるよう店長の行動が変わってきます。

 つまり、人件費については月次討議することは一つもないわけで、一方で昨日の人時がどうであって、月末まで、四半期で、半期でどうやって収束させていくか「先手を常に考える」という考え方はとても重要となってきます。

 人件費は月に一度しか出ません。それと同じタイミングで人時を出してきて、過去のことを議論しても『時すでに遅し』ということです。これは、人時を日々確認できる環境がなければ、結果は変わらないとも言い換えられます。

 人時生産性を上げていくための基本から実践活用までのプロセスはセミナーではお伝えしておりますが、実際に取り組んでおられる企業では、実施店舗の人時生産性は未実施店舗よりも15~20%高く、それを次の成長戦略に投資し、業績を伸ばしています。

 さあ、貴社ではまだ精神論と好事例中心の店長指導で進めますか? それとも生産性の高い店長会議に進化させ 結果を変えますか?