先日、私が長らく理事を務める日本感性工学会の大会で、研究発表を行った。そこでは、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員企業の実践を題材に、そのセッションのテーマ「温かい感性・デザイン・サービス」が論じられた。

 このテーマを聞いた時、まず頭に浮かんだのが、会員企業のあるリフォーム会社が行ったことだ。それは、あるお客さんから壁塗りの仕事を受けた時のこと。壁塗り当日、そのご家族みんなにお休みを取ってもらい、みんなで壁塗りを行ったというものだ。その時、小学校低学年くらいの娘さんが壁に落書きを始めた。そしてその傍らに「パパ大好き」の文字が書かれ……。お父さんはもちろん、家族みんなにとって、この壁塗りは一生の思い出になるだろう。これは、人の温かい感性が、温かい感性に響き合い生まれる、素晴らしいデザインであり、サービスだ。

 このセッションでは、まずはイントロダクションとしてこの事例を挙げ、それに連ね、当実践会で大きな成果を上げている漬物の製造小売業の事例をお話しした。

「昔ながらの物販店」を大改装した漬物店の事例

 この店は、ワクワク系を始めてからほどなく、大改装を行った。商店街の中にある同店は、それまで商店街に向け軒先にずらっと商品(漬物)が並んでいる、昔ながらの物販店だった。それを大胆にも、まるで旅館か料亭のような風情の外観にし、外から店内が全く見えない店にしてしまった。入り口は真ん中に引き戸があり、それを開けて入るしつらえ。そこには瀟洒なのれんが掛かっている。

 そこを開けると店内だが、これまた以前との大きな違いは、商品はあまり並んでおらず、その代わりに来店客とお茶を飲みながら談笑できるスペースなどが設けられ、全体は外観同様の和のしつらえで統一されている。店主曰く、商品陳列量は以前の約3分の1だ。

 京都の観光地辺りにある漬物店ではないので、商店街の中ではひときわ異彩を放っているが、以前の「物を売っています」という風情と比較すれば、これは和の風情に包まれた、まさに「温かい感性」に訴え得る「温かいデザイン」であろう。

 結果として同店の業績は、改装前と比較すると、売上げで約2倍、利益は2.7倍となり、今日も順調に伸びているが、ではこの成果はこの外観などのデザインの勝利だろうか? まさに今回のセッションでの論点はそこで、ここには、この物理的なデザインを内包した“サービス全体のデザイン”があり、今日、そここそが要だ。この続きは次回に。

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください