ICOと呼ばれる仮想通貨を使った資金調達が一気に拡大している。新株の発行や借り入れを伴うことなく、短期間でまとまった資金を調達できる可能性がある点が最大の魅力だ。その仕組みを見ると、クラウドファンディングの進化形であるという見方もできる。アメリカでは億単位のICOが頻繁に実施され、今ではベンチャーキャピタルに匹敵するほどの資金調達手段に成長しつつある。

ICOはイニシャル・コイン・オファリングの略

 近年、ICOと呼ばれる資金調達が盛んに行われるようになっている。ICOは、株式公開が決まった企業の株式を初めて公募売り出しするIPO(イニシャル・パブリック・オファリング)にまねて作られた言葉で、出資者に対して「トークン」を売り出して資金調達をする新しい手法である。トークンとは、もともとアメリカの地下鉄などで使われていた切符に相当するメダルであるが、ネットの世界では仮想通貨などネット上で使用できる電子的チケットの総称として使われる。「トークンローンチ」や「トークンセール」などと表現されることも多い。

 もともとICOは、新しい仮想通貨などブロックチェーンがらみの開発費用をビットコインなど換金性が確立されている仮想通貨で集め、その対価として開発された新しい仮想通貨を提供する形が基本だった。新しい仮想通貨が広く認知されて、仮想通貨取引所で売買されるようになると仮想通貨の価値が上がる。ICOに応募した人は、値上がりした仮想通貨を売却することで利益を得ることができる。創造物をリワードとして受け取る点は購入型クラウドファンディングと共通しているが、資金を拠出する人の大半は投資目的で応募することから投資型の側面の方が強いともいえる。この方式で開発された仮想通貨の代表例が、今ではビットコインに次ぐシェアを持つイーサリアムである。

 ICOが強烈なインパクトを示した例としては、2017年6月にMozillaの前CEOが立ち上げたばかりのブラウザ開発企業が、ブロックチェーンを使った革新的なネット広告システムの開発のために約3500万ドル(約40億円)をわずか30秒で調達できた例が有名だ。独自の仮想通貨BATが10億枚売り出されたが、その代金としてわずか130人の投資家から約3500万ドルに相当するイーサリアムが一瞬のうちに集まった。

 抜群の実績を持つ有名人が主宰したという事情は差し引いても、ベンチャーキャピタルや証券会社などを仲介することもなく、第三者の審査を受けることもなく、これほど迅速に莫大な資金が集まったことは驚きに値する。

 ICOの成功例が増えるにつれ、出資の対価として発行されるトークンの性質が多様化しており、現在ではICOは必ずしもブロックチェーン関連の開発案件だけではなく、幅広く新事業の創造や事業拡大のために使われるようになってきている。アンダーソン・毛利・友常法律事務所は、2017年9月に公開したニュースレターの中で、ICOによって発行されるトークンを法的な解釈の観点から「仮想通貨型」「会員権型」「プリペイドカード型」「ファンド持分型」「アプリケーション・プラットフォーム型」の5つに分類している。例えば、プリペイド型は、トークンを新製品や新サービスの代金として利用できるもので、購入型クラウドファンディングのリワードを電子化したようなイメージである。ファンド持分型は、将来発生する事業収益の一部を受け取れる権利をトークン化したもので、投資型クラウドファンディングの一種とみることができる。

日本でも始まっているICOによる資金調達

 仮想通貨に特化したニュースサイトCoinDeskの集計によると、2016年のICOによる資金調達額は2億5640万ドル(約292億円)だったのに対して、2017年は1月から7月までの7カ月間に早くも14億1104万ドル(約1610億円)に達しているという。2017年に入ってから、いかにICOによる資金調達の規模が拡大しているかが分かる。ICOの応募にはビットコインやイーサリアムが使われることが多く、これら仮想通貨の価格上昇で資産が膨れ上がった投資家が、リスクヘッジ目的や新しい投資先を求めてICOに殺到している構図が目に浮かぶ。ICO応募に必要なビットコインやイーサリアムの需要が増えたことで、価格上昇に拍車をかけているという面もある。

 ICOを実施する企業は、株式や社債の発行の際に用意される目論見書に相当する「ホワイトペーパー」と呼ばれる文書を公開するのが慣例になっているが、ホワイトペーパーの様式にも統一されたルールはなく、投資家がリスクを把握するための十分な情報が開示されているとは言い難い。実現不可能なリワードを約束するトークンを高値で売却する詐欺的案件も増えたため、中国や韓国は国内でICOを一切禁止するという公示を出した。

 アメリカ証券取引委員会(SEC)は、ICO自体は違法行為ではないものの、2016年4月から5月にかけて実施された自律分散型組織「The DAO」の発行したトークンは、証券法および証券取引法における有価証券に該当し、募集・売り出しを行うにはSECへの登録が必要であるという見解を公表した。今後、アメリカで投資型のトークンを発行するICOを実施する際には、SECの監視が厳しくなることが予想される。

 日本でもICOによる資金調達は既に始まっている。名古屋のベルギービール専門店ダイニング「サンタルヌー」は、2017年6月にホワイトペーパーを公開して、東京進出のための資金約3000万円を独自トークンSATの販売で調達した。SATは、店舗での会計時に1SATを1円として使える他、5万SAT以上保有している人は5%割引などの特典が利用できる。前述のトークン分類に基づくと、プリペイド型と会員権型を組み合わせたタイプである。店舗の常連客となってくれるファンを集められるため、クラウドファンディングのメリットを上手に取り込んだICOと評価できるのではないだろうか。

IPOやVCの一部に取って代わる可能性もある

 法律が未整備のまま見切り発車した印象も強いが、ICOにこれだけお金と人が集まるのは、規制されるリスクを勘案しても余りあるメリットがあるからに他ならない。今のところ、ビットコインやイーサリアムの価格上昇が好循環を生んで、資金を調達する企業側とトークンを購入する投資家側の両方が恩恵を受けているようにも見える。

 以前から予想されていた通り、ICOの急増による歪みも表面化してきている。企業により数多くのトークンが発行されているが、トークン情報サイト「Token Report」の調査によると、大半のトークンは取引所で投機的に売買されているだけで、実際に利用されているトークンはわずか1割程度だという。予定された製品やサービスの開発が大幅に遅れて、取引所での売買自体ができないトークンも珍しくない。トークンは、基本的にデジタルプロダクトという扱いになるので、投資家を保護するための法律の対象外になる。トークン購入者の権利を保護する法律の整備が急がれる。

 2017年10月に日本経済新聞社が大手金融機関の首脳を集めて開催した金融シンポジウムでは、ICOについても議論が及んだ。野村證券や大和証券の首脳は、ICOがIPOに取って代わるものになるかどうかは分からないとしながらも、ICOはクラウドファンディングなどとともにベンチャー企業の資金調達手段の一つになり得るとの認識を示した。中国や韓国のようにICOを全面禁止にするより、何からの形で育成した方が有利というのが、現時点での証券業界のコンセンサスであるという印象を受けた。

 仮想通貨取引所「Zaif」を運営するテックビューロは、2017年8月にICOプラットフォーム「COMSA」を立ち上げるとともに、COMSAを使ったICOの第一弾として、自らのトークンを9月から販売開始した。今後、このようなプラットフォームを使ってICOを行う日本企業が増えるものと思われる。

 小規模のICOであれば、外部の力を借りることなく独力で実行することも可能かもしれない。しかし、トークンで提供する価値の内容によっては、既存の法律による規制の対象になる可能性があるため、法律に詳しいアドバイザーに事前に相談することが望まれる。特に、世界を対象にICOを実施する場合は、各国によってICOに関する規制やルールが異なるため、一層慎重な準備が必要だ。