パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、30期連続増収営業増益を達成。ユニーを買収したことで売上げは1兆3289億円に達し、1兆円企業の仲間入りを果たした。その結果、中期経営計画「ビジョン2020」、すなわち「売上高1兆円、店舗数500店舗、ROE15%」を1年前倒しで実現。

 こうした成果も踏まえて、経営陣の刷新が断行された。9月25日付で大原孝治代表取締役社長兼CEOが退任し、後任には吉田直樹代表取締役専務兼CAOが就任する。海外、営業、商品、GMSの各事業・部門を担う4人の常務執行役員が、非営業部門出身の吉田社長を支える組織にし、チーム経営で今後の発展を目指していく。

 大原氏は、創業者の安田隆夫氏からバトンを渡され2013年12月にドン・ホーテの社長に、14年7月にはドンキホーテホールディングスの社長に就任した。この間、トップとして、新規に184店舗を出店、既存店売上高を19.2%伸ばす。一方で、組織改革も断行し、盤石な基盤が整備できたと考え、経営の第一線から身を退くことになった。この背景には、同社が指針とする安田氏の思想が色濃く反映された『源流経営』がある。「自分の権限を自ら剥奪し、部下に与える」との思想を実践した結果だ。

 今後、大原氏は、創業会長特任顧問兼特別理事、Pan Pacific Retail Management(USA)Co.代表取締役社長に就任し、米国事業に専念することになった。

売上高1兆円を超え、第3の成長期へ

「ドン・キホーテ」は1989年、東京都府中市に1号店をオープン以来、ディスカウントストアとして、価格だけではなく「ワクワク・ドキドキ」を感じさせる買い場で、若者の支持を得てきた。店舗網も都心から郊外にも広げ、ファミリーも取り込み成長を続けてきた。

 チェーンストアオペレーションの本部主導とは真逆の、最小限のルールに基づき現場に権限を委譲した個店主義を貫く。一方で期限を定め、結果を、数字を求めてきた。イオンやセブン&アイ・ホールディングスといった小売りのメインストリームとはかけ離れた場所で、若者を中心にサブカルチャー的役割を果たし、異質な存在としてあり続けてきた。

 しかし、売上高が1兆円を超え、小売業界のトップ5の一角を占める地位に上り詰めた今、見える景色は大きく変わった。創業からのオーガニックな発展期、株式上場以降の第2発展期、そして次代の成長に向けた第3の成長期に突入した。

 PPIHは、新経営陣の下で、何を目指し、どこに行こうとしているのか、その全貌は来年2月に発表される「新中期経営計画」で明らかになるが、現時点での方向性を探ってみよう。

アセアンでは安田氏の人脈を生かす

 次代に向けての成長ドライバーを担うのが海外事業だ。今年2月、ドンキホーテホールディングスからパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに社名変更したように、事業領域は環太平洋エリアを視野に入れている。今後は大原氏が陣頭指揮を執る米国に加え、アセアンを中心にしたアジアを攻略する。

 アセアンでは既にシンガポールに在住する安田氏の人脈と情報網を生かし、17年12月にシンガポール進出を果たし、今年2月にはタイのバンコクに、7月には香港に1号店を出店。シンガポールは5店舗体制となっている。

 各店とも日本製品の圧倒的低価格とドンキ流の店づくりで、在留日本人のみならず、現地の人たちからも支持を得ており、売上げもすこぶる好調だ。ドン・キホーテは、アジアからのインバウンド客の御用達で、各国・各地域でなじみのある存在。その認知度から現地に出店しても浸透も速く、現地の店とも明確に差異化できている。すぐ結果が出るから出店の引き合いも活発で、今後も展開エリアと店数の拡大が見込まれ、PPIHの発展の原動力の1つとなるだろう。

 国内店舗の免税売上構成比は約10%。直近の韓国客の減少など政治・経済リスクはあるが、中長期的にはインバウンドの増勢基調は続き、物販からサービスへの移行も進む。かつての日本は海外旅行で欧米のブランドを買い漁ったが、今ではブランドの方が日本へ進出し、一大マーケットを築いている。だが、これはブランドの戦略に影響を受けるもの。

 こうした状況から見ても、取るべき方向性はおのずから決まる。PPIHはこれからもインバウンド需要の取り込みを図るが、それはあくまでも付随的な位置付けとして対処していくと思われる。本命は現地における事業展開。

 既に足掛かりを築き、十分な手応えを感じているアセアンは今後も経済成長が見込め、事業拡大はある程度確実だろう。逆に新たに浮かび上がるのが巨大市場である中国。既に香港に橋頭保を築いたが、台湾、韓国も含めた東アジア進出の可否は現時点では不明だが、十分可能性は考えられる。

Eコーマス全盛の米国への出店は商機

 大原氏が陣頭指揮を執る米国では、カリフォルニア10店舗、ハワイ28店舗を展開しているが、日系スーパーが中心でマーケットは限られている。大原氏も社長在任中に、事業のてこ入れに関わり、しばしば現地を訪れたが、今回はカリフォルニアを拠点とする。そこから見える風景は日本にいたときのそれとは全く異なる。メキシコ、南米までを視野に入れ、可能性をさらに広げる。

 米国は好景気で、その上、『アマゾンエフェクト』でリアル店舗の撤退が目立ち、破格な家賃の空き物件が発生と、大きなチャンスがある。『ドン・キホーティズム』に基づき、まずは既存のグローサラント業態の好調を足掛かりにしながら新業態開発に着手、米国市場を掘り下げながら攻略する考えだ。

 米国のEC市場は日本を大きく上回り、今後も成長が見込まれている。ECの攻勢を受けたリアル店舗の減少が予見されるが、リアル店舗がゼロになることはなく、それどころかリアル店舗の逆襲現象も一部で起こっている。EC先進国の米国で、PPIHの逆張り戦法が成功するかは、ひとえに新業態の開発にかかっている。米国のみならずグローバルに通用する普遍的な価値を提供できるか、そのための商品やサービスの開発も必要となろう。

「ユニクロ」「無印良品」「ニトリ」など米国市場に挑んだ企業は多いが、アジアと比べて成功例は少なく、例外は日本型経営を持ち込み、再生させたセブン-イレブンくらいと、大きな壁があるといえる。PPIHがその壁を破れるか。米国では他に類を見ないドン・キホーテ流がアップデートされて新しく生まれ変わり、通用するかは極めて興味深い。

 米国、アセアンを含むパン・パシフィック(環太平洋)地域に商勢圏を確立できればPPIHの成長は担保され、その先に南米、インド、そしてアフリカも視野に入る。社名からパン・パシフィックが取れる日がくるかもしれない。

ユニーとドンキの死角は成功体験

 一方、国内に目を向けると、人口減少で消費市場は収縮する状況はなかなか変わらない。小売業界を取り巻く風景は、限られたパイを巡って“競い合う”競合ではなく、生き残りをかけた“競い争う”競争に移行している。勝ち負けが明確になり、勝者はますます勢いを増し、寡占化が進む。

 盛者必衰は世の習いで、未来永劫に繁栄することは極めて難しいが、ここでポイントとなるのが「過去の成功体験」だ。これがあると、かえって次の成長の妨げとなり、それが原因で没落した企業は枚挙に暇がない。

 ドン・キホーテもその危険性はある。過去に長崎屋を買収し、ドンキの経営手法を導入し、経営再建を果たしたが、長崎屋から学んだことも多く、それを自社に採り入れ、さらなる成長につなげた。同じことはユニーにも当てはまり、成功体験を常に更新させていけば、成功体験の罠にはまるリスクも軽減される。

 現在、ユニーの再生は第一命題で、改革に取り組んでいる。昨年ユニーとドン・キホーテのダブルネーム店舗に業態変更し2年目を迎えた店舗数は6店舗。売上げは1.75倍、荒利高も1.56倍となり、今年転換した10店舗も同2.23倍、2.07倍と大幅に営業成績が改善している。

 2022年までに約100店舗の業態変更を予定しており、24年6月期にユニーとUDリテールの営業利益を200億円増額し、400円超とすることを目指す。改革が順調に進めば、成長への推進力ともなり、さらに再生過程で得た知見やノウハウも今後の糧となる。

 店づくりでは、アナログで“魔界感とライブ感”を打ち出し、データとスマホの活用を軸に、デジタルによる新たな魅力創出を試みる。既に一部の店舗で「デジタルレーン」を導入しているが、本命はスマホによるデジタルコンテンツの拡充。それによる来店動機の創造、店内でもアプリで楽しむことで、リアル店舗の価値を高める。

 昨年、国内で実験的に取り組んでいたECから撤退し、あくまでもリアル店舗にこだわる姿勢も打ち出しており、こうしたデジタル開発がさらに強化されていくことは確実だ。利便性を打ち出すアマゾンとは対極に、ライブ会場として顧客に楽しんでもらえるエンターテインメント性を高めていこうとしており、それはドンキの原点でもある。

次の成長の種をどうまくかに注目

 さて、カリスマ性の高い創業者の安田氏、そしてリーダーシップの強い大原氏の後を受けて、今回社長に就任する吉田氏とはどのような人物か。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、07年ドン・キホーテUSA社長、12年ドンキホーテホールディングス(現PPIH)取締役、13年専務、18年1月から代表取締役専務兼CAO(最高総務責任者)を務める54歳。座右の銘は「不易流行」。変えるべきでないものは変えない一方、変えるべきものは変化対応業として変えることをチームで進めたいと考えている。

 まずは、ユニーの業態転換による収益改善を含めたグループ全体利益の増大を実現し、次いで「次の成長の種」をまくことが必要と見る。例えば、ドンキの電子マネー「majica(マジカ)」とユニーのカード会員を合わせると約 1300 万人となるが、これをどう活用するかも課題として挙げる。また、事業展開においてどうリソースを配分するかの重要さも認識している。そして、自身の後継者“ポスト吉田”づくりにも取り組もうとしている

 普通の大会社にする気はないだろうが、企業が巨大化すると、どうしても現場の活力は失われがちだ。そこに留意しつつ、脈々と受け継がれてきた個店主義を貫き、機動力のある店舗運営も求められている。

 次代の成長を目指す新たなステージに突入したPPIH。国内の持続的成長も業績に大きな影響を与えるだけに、未来からの逆算による源流経営で5年、10年後の輝かしい未来を目指そうとしており、4年という限られた任期の中で、吉田氏による経営のかじ取りが注目される。