1943年横浜生まれ。3000坪の敷地の暖炉のある洋館で育つが家業が破たん。赤貧の中、栄光学園から上智大学経済学部へ進学し、アルバイトをしながら卒業する。大日本印刷などを経て、1970年日本ケンタッキー・フライド・チキン1号店の店長となり、会社を育て上げて半年後に取締役、1984年に3代目の社長となる。2003年ジェーシー・コムサ代表取締役CEO。2003年藍綬褒章、2014年旭日中綬章受章。(photo/室川イサオ)

長年、ジャーナリストとして取材をしてきて感じるのは「革新なくして成長はない」ということである。時代に即した新しいものをドンドン取り入れる先見性と勇気があり、市場を開拓して今までなかったマーケットをつくり出して社会に提示していく。この連載では、そうした企業家たちを紹介していく。

時代の動きを敏感に取り込む

「面白い時代に入りました。まず、良いもの、おいしい素材が有限になったということです。何のだれ兵衛さんが、どうやって、いつ作ったということが、地番まではっきりしているという、こんな時代は今までにありません」と、目をキラキラ輝かせてエネルギッシュに語るのは、日本ケンタッキー・フライド・チキン元社長で現在ジェーシー・コムサ代表取締役CEOの大河原毅さんだ。

 今の時代を肌で感じ、時代の流れに即応して柔軟にビジネスに取り込んでいく。それこそが成功企業の秘訣であろう。

「昔は何でも、どんなに一生懸命に作ってもキロいくらという“量”でしか売れなかった。ところが、少しずつそうじゃないんだとなってきて、それでもまだ消費者が成熟してなかったんだけれど、SNSで誰がどうやって作ったっていうのがはっきりしてきた。ということはマジメにやっている人が面白い時代になってきた。また、作り手が少なくなってきたということで良いものが有限になり、安いものが疑われだした。まともな産物の時代になったということです」

 ジェーシー・コムサは、小麦製品の製造事業と外食事業を営む売上高約164億円(2017年3月決算時点)のジャスダック上場企業だ。小麦製品ではピザやナン、ピタやフォカッチャなどを製造し、業務用のほかスーパーマーケット(SM)などの店頭にも並ぶ。外食は焼き鳥を中心とした居酒屋などのレストランや宅配事業など約100店舗を全国で展開中である。売上比率は約2:1で製造事業のボリュームが大きい。

現場大好き、工場大好き

 

「何年も前からですが、外食のお店で使っているお米を全部契約栽培に切り替えているんですよ。先週も秋田県大潟村(八郎潟)に行ってきました。田植えに行って確認しているのはメダカがいるか、ドジョウがいるか、ヤゴがいるか。それが何よりの減農薬の証拠なんです」

 刈り入れの時にはアキアカネ(赤とんぼ)がちゃんと飛んでいるかをチェックする。収穫間際に農薬を使うといなくなるからだ。

 実際に農家の人と一緒に田植えをし、刈り入れをし、コンバインにも乗る。するとスーツを着て遠くの方から見ていたのでは分からないことに気付く。大河原さんは、それを頭で考えて「せねばならない」とか「これが役に立つから」と実行するのではなく、自然体で「現場が好きだから」と楽しくてたまらない様子で田んぼに入っていく。オフィスでも、いつも作業着姿だ。

「農家と直に結び付くことで分かることがあります。台風や自然の影響で収穫期を早めたり遅くしたりすることによって砕米が年に5~10%出たりする。それの使い道まで考えてあげないと本当の安定にならない。運命共同体です」

 お米は年間270~280トンを大潟村から買い上げている。ここの米の生産量1800トンの15~16%を占める安定供給先だ。市場価格の一定のポジションで買い取る契約になっている。同様のことを鶏でも野菜でも行い、「互いにウィンウィンの関係を築いている」と顔をほころばせる。

外食は伸ばしてない

 では、外食事業の未来をどう考えているのだろうか。

「人手が猛烈にいなくなっている。そのために店舗を減らして人を寄せました。それから土日に休める店舗立地と、土日開ける店舗立地を同じ数にしています。土日は家族と過ごしたい人もいますから、そこで働く人の生活に合わせて、働く人が無理なくできるオペレーションじゃなきゃダメ。そういう時代になりました」

「働きやすさにはすごく気を付けている」と言う大河原さん。そうしないと積極的に考えられないし、人を採用できないと言うのだ。

 また、宅配事業がUberEATS(ウーバーイーツ)のおかげで伸びている。注文は入ってくるが、決済は終わっていて、取りに来てくれて、手間はほとんど変わらず、売上げが2~3割あっという間に伸びる。本当に時代が変わってきている。

 

 製造事業の方はどうだろう。

 

「今、ナンが一番、売れています。シェアが7割ぐらい。ナンは皆さん機械で効率を考えて打ち抜いて伸ばしている。ウチはボールにして伸ばして手でこねる。人間の手というのは強烈なもので機械とは全然違うものができあがるんですよ。だから手づくりで『手のばしナン』という名前です。効率は悪いけど食べた時においしい。学校給食でも出していますが、手で縦にさけて、食べるとちょっと抵抗感があって柔らかいのを子供たちが面白がります。おかげさまで、食べ比べたらちょっと高いかもしれないけど必ずウチのを買ってくれますね」。

 SMの売場に行ってみると確かに「手のばしナン」は、私が行ったときには棚に一つを残すのみ。売れているのが、しのばれた。