精神的に自立しない人が問題行動を発散する

 人生は選択の連続です。「どのキャリアを選択しようか」のような今後の人生を大きく左右するような選択から、「今なんて言おうか」という目先の行動の選択まで、人は一生、選択し続けることを求められます。

 その選択の場面で、自分の価値観や信念などに則った自由な心で意思決定できる人と、「こうしなくては」「こうあるべき」と一般論や通念に縛られたり、「人からどう見られるのだろう」と人目を気にしたりして、自分の本来の意思とは異なるものに依存してしまう人がいます。

 前者が、精神的に自立した人です。自立した心を持って動くためには、まず自分が自分を受け入れていること(自己肯定)が必要です。自分を受け入れていれば、自分を人と比べる必要もなく、人の目も気になりません。

「あんなふうになりたい」と上昇志向を持つことはもちろんいいことですが、「こうするべき」「ああでなければ」というように、自分で勝手に決めた「あるべき自分」に縛られて自己執着に陥ってしまったのでは、目の前にある肝心なことにしっかりと向き合えません。

 幼稚さが漂う不毛な幻想への執着を捨てて目の前の対象にしっかりと向き合い、余計なことに邪魔されずに必要なことにパワーを集結できる力を持つことが精神的自立性であり、「健全な組織人」や「仕事ができる人」には必ずこの力が備わっています。

 一方、精神的に自立しない人は人に依存して物事を選択するので、その選択が誤っていたときは依存相手に責任を転嫁することになってしまいます。また、自分への信頼感が低く、心の中が不安や恐怖に支配されやすいので、それを隠すために攻撃的な物言いが多くなります。何でも会社のせいにして、ターゲットを高圧的に攻撃するモンスターの原点はここにあります。

 モンスターとまではいかずとも、組織人、仕事人として問題のある行動のほとんどは「精神的自立性の欠如」から生まれます。

 だから採用選考の際には、この能力に起因する行動に視点を絞ることで、根拠あるリスクマネジメントを実践できるのです。「精神的に自立しない人によく見られる行動チェックリスト」(図表①)をぜひ採用選考の参考にしてください。

 

リスクマネジメント採用に向けた心構え

(1)「求める人物像」を追わない

 人を採用しようとする会社が、求める人物像を明確化すること自体にはもちろん意義があります。しかし、応募者を観察する際に「その人物像に当てはまるのか」ということに執着し過ぎると、採用ミスを招きやすくなります。

 採用側は、基本的に「採用したい」という強い希望と期待を持って選考に臨むので、採用側が応募者の経歴や第一印象に好感を抱いた場合、その応募者のその後の言動が「求める人物像が見せるはずの言動」に見えてしまいやすいからです。視野に捉えた限られた情報を自分勝手なストーリーに仕立て上げることを論理誤差といいますが、「求める人物像」を過度に追い求める採用選考は論理誤差を強化しかねません。

 期待で浮つく心を制御し、「こんな行動を見せる人は入社後にモンスター化する可能性があるから、会社を守るためにも絶対採ってはいけない」という冷徹な心で応募者に対峙すれば、「採らない勇気」も湧いてきます。

(2)必ず複数の応募者から選ぶ

「今、どうしても人を採用したい」という気持ちが強い会社に一人の応募者が現れた場合、その人の書類上の経歴や面接での雰囲気に問題がなければ、その会社の経営者や採用担当者は「きっと適材に違いない」と自分に言い聞かせてしまうでしょう。

 面接などで何らかの違和感を抱いても、願望と期待に支配された心がそれをもみ消してしまうかもしれません。

 そして、応募者の「採用面接官好みの言動」を目にすると、経営者や採用担当者が思い描く採用へのストーリーはさらに確固たるものになるはずです。その人は「今、人を採用したい」と強烈に前のめりになっている心にあらがう情報を持つことができず、情報リテラシーを欠いて思考が停止している危険な状態にあります。

 応募者の数が複数になり、その人数が増えれば増えるほど、そのリスクは軽減されます。選択肢が発生し比較検討の余地が生まれることで、応募者と向き合って情報を精査する取り組みが求められるようになるからです。

 私たちの採用アセスメントを実施するためには1回につき4人以上の応募者が必要になります。物販・サービス業の顧客企業と付き合いを始めた頃は、「とても人を集めるなんて無理ですよ。急いでいるのに」とよく言われたものでした。

 しかし、アセスメントを繰り返し、何度も採用の怖さを目の当たりにするうちに、どの顧客企業も普通に何十人も集めるようになります。経営人事の本気度が問われています。

(3)第一印象を捨ててしまわない

 なぜか「人を採用する時には第一印象を捨てるべし」と信じ込んでいる経営者や採用関係者の方が多いようです。

 初対面の時は相手から発せられる言語および非言語情報が凝縮されて五感に飛び込んできますので、情報収集の機会としては極めて貴重な場となります。

 それらの情報が脳によって高速度で処理され統合されたものが第一印象です。そんな貴重な概念を捨ててしまう意味が分かりません。多分「第一印象にあまり縛られない方がいいよ」という意味での戒めが存在するのでしょう。

 それは確かにそうなのですが、実際多くの方の中で行われているのは「第一印象を脇に置いて情報をこねくり回しているうちに対象の本質から離れていく」という不毛な取り組みです。

 第一印象に固執しろとは言いませんが、貴重な情報の一つとしてずっと頭の中に留め置き、時にそこに立ち返ってほしいと思います。

(4)無意識的行動にアプローチすべし

 採用アセスメントは、応募者が意識的に見せる行動を捨て、無意識的に現れる行動を観察しますが、このやり方はいかなる人を見る場面においても有効です。応募者が見せる意識的行動の最たるものは「発言」なので、採用面接などでは、発言内容以外からどれくらい情報を収集できるかで勝負が決まります。

 チェックリスト(図表②)を参考にして、応募者の行動情報を、できるだけ多く集めてみてください。

 

 

 
 

※本記事は『商業界』2019年10月号に掲載されているものです。

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