流通業は模倣が得意だといわれる。当初米国のチェーンをお手本にし模倣しなければ、今日の日本のチェーンは存在し得なかったのだから、それはやむを得ない。

 だがわれわれは、「模倣」が決して流通業界だけではない、ということを知らねばならない。私はその著書『流通業の選択』(商業界2015年刊)において、アマゾンを模倣すべきではない、と主張した。それは模倣が悪いからではなかった。企業は模倣しているか・していないかで評価されるのではなく、収益が上げられているかどうかで評価されるべきだからである。

 私がアマゾンの模倣を勧めなかったのは、あくまで損得利害の物差しによる。出店に時間とコストのかかる店舗流通業の場合と異なり、ネットでは先行した企業が、あっという間に全国を押さえてしまうのであり、アマゾンはまさしくその例だったからだ。アマゾンを模倣して第2のアマゾンを起業することは、アマゾンの好餌になるだけである。だからアマゾンに「学ぶところ無し」と指摘したのだ。

 だがここにアマゾンに追随しようとした、あるIT企業がある。この企業は、ネット上にショッピングセンターを作る、というアマゾンと一見違った方法をとった。だが問題は、アマゾンが創始先行したネット小売りに追随模倣したことではない。

 自らが直営するのではなく、ネット上にショッピングセンターを営むことで、ネット小売りの困難さを「回避」したこと、である。いやもっと厳密にいえば、この企業が回避したのは、小売りの困難さではなく、ショッピングセンター・デベロッパーの困難さ、だというべきである。

 ITといえば、いつも先端を行くイノベーターだというイメージがあるが、少なくともこの企業の流通分野に関する限り、むしろ徹底してイミテーターの道を歩んでいるように見える。

 その新しいケースが、既存のチェーン企業との提携による店舗とネットの組み合わせへの進出計画である。この場合もこの企業の、リスク回避志向は変わっていない。なぜなら実店舗を実際に展開し、リスクとコストを負うのはあくまで既存のチェーン企業であって、この企業は、それにタダ乗りするだけだからである。つまりこの企業は終始一貫、リスクや開拓を避けることに終始している、といっていい。

 いかにこの企業が、ショッピングセンターのデベロッパーの困難さを回避しているか、その本質をさらによく知るには、アマゾンと対比するより、実店舗のショッピングセンターのデベロッパーであるイオンと比較した方が分かりやすい。

 ショッピングセンターのデベロッパーとしてのイオンは、米国にお手本を求めた。そのお手本の1つが、ショッピングセンターにはアンカーが必要である、という原理を奉じことである。ところが現実には、米国の最新のショッピングセンターにおいては、アンカーはもはや不要な存在になっている。というより現実にはもはやアンカーたるデパートが、ほぼすべて全滅している。

 幸か不幸か、日本でもアンカーの候補は存在しなかった。米国と事情は異なり、日本のデパートの場合は、初めからアンカーになる能力も意思も欠いていた。そこでデベロッパーとしてのイオンが採った苦肉の策は、「業態ビッグストア」のイオンをアンカーにする、という道だった。そうまでしてアンカーにこだわったことこそ、イオンが米国の理論を墨守した何よりの証拠である。

 だが現実にデベロッパーになったイオンにとっては、むしろアンカー以外のテーマこそ難題だった。例えばショッピングセンターの立地の確定、施設の規模と形態の決定、テナントミックスの決定、具体的なテナントの決定、テナントの配置の決定、テナントの育成、ショッピングセンターの販促と管理……という多難な問題に取り組まねばならなかった。これらが「難問」だったのは、そのどれ1つとっても、米国の理論あるいは事例というお手本を模倣することができなかったからだ。「ショッピングセンター」という概念や理屈は、米国というお手本を参考にできたとしても、以上に述べたこれら全ての実務問題は、他ならぬ日本の現実とぶつかって解決しなければならない問題だった。重宝なお手本などなかった。

 だがそれこそが、デベロッパーとしてのイオンの抜群の実力を培った要因である。それは米国というお手本の存在しない、といって日本にも模倣の対象の存在しない、難問だった。イオンは自ら考え、リスクを賭けなければならなかった。あり合わせのものを組み合わせることで、お茶を濁すことはできなかった。ここまで述べれば、なぜ私がこのあるIT企業のネット小売り戦略を、アマゾンと対比せず、ショッピングセンター・デベロッパーのイオンと対比したか、その理由が分かるはずだ。

 まずこの企業は、ネット小売りへの進出において、アマゾンをまるごと模倣するわけにいかなかった。さらに実店舗流通業によるネット販売にも、イオンやイトーヨーカ堂のように自社店舗を基地にしたネット小売りにも、あるいは生協のような独自ネットワークによる宅配への進出にも手を出すことは出来なかった。

 これらの事実から見えてくるのは、ネット小売りへの積極的進出というこのIT企業の表の顔より、徹底的なリスク回避、投資回避、独創回避という企業姿勢の方ではないだろうか。そのことは、この企業と同じく、実店舗を持たず、さりとてアマゾンを模倣するわけにもいかない、後続のネット小売り企業と対比すれば、さらに明らかになる。

 例えばZOZOTOWNである。ZOZOTOWNは、店舗を持ってないネット小売りとしては、アマゾンともこの企業とも同じ立場に立っている。だがそこには他に例を見ない独創がある。ところがこの企業には、見るべき独創がない。

 実はこの企業の本質的な企業姿勢を生んでいるのは、単なる「回避」や「模倣」ではない。その「回避」の根本にあるのは、少なくとも流通業ビジネスにおいては、にもかかわらず、とにかく「時流には乗りたい」という意思ではないだろうか。

 それがこの企業の「流通業」参加の本質ではないか。だが「時流」とは、今や安易に「乗る」ものなどではない。「創る」べきものである。セブン-イレブンを見よ、アップルを見よ。ショッピングセンターのデベロッパーとしてのイオンは、時流に乗ったのではなく、時流を自ら創ったのである。実はこの企業のことは、どうでもいい。毀誉褒貶は時間が決める。私ごときが口を差し挟む問題ではない。私がいいたいのは、「時流を創る」までいかなくても、「乗る」ことだけは考えない方がいい、ということである。それは安易だからだ。この企業がどこか、もうお分かりだろう。

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※この原稿は島田陽介先生のアドレス宛に、メールアドレスを送付した方に毎月不定期に送られる「今月の提言」から抜粋したものです。