湘南と富士山の間には魅力がないのか?

 首都圏では東京→横浜→鎌倉→湘南と「ブランド地域」が連なっています。ブランド地域とは、全国区の知名度を誇り「一度は行きたい。できれば住んでみたい」と日本中の方々に思わしめる人気エリアのこと。

 ところが湘南を過ぎると、ブランド地域は「富士山」まで途絶えてしまうのです。

 昨今は熱海が再評価されていますが、人気観光地とブランド地域はちょっと違います。

 湘南と富士山の間(神奈川県小田原市~静岡県沼津市)が「魅力一切ナシの不毛地帯」ならば仕方ありません。

 でも実際に訪れてみると、そこが多くの魅力であふれているのが分かります。

 つまり「魅力がない」のではなく「魅力が外部に知られていないだけ」なのです。

筆者を一瞬で魅了した静岡東部・三島市の「中心街とは思えない絶景」

 そこに歯痒さを覚えた私は、「クリエイターを誘致し、そのパワーで新たなブランド地域を作る」というプロジェクトを2017年に起ち上げました。

 2019年2月に大病を患ったせいで、当面は活動範囲を静岡県側(熱海市~沼津市)に絞らざるを得なくなりましたが、意欲は全く衰えていません。

 この計画のために30年以上暮らした東京から沼津市に居を移しますし、自分に匹敵する熱量の持ち主が現れ次第、神奈川側(湯河原町~小田原市)での活動も再開する予定です。

アニメファンが集う「昭和レインボー」

本業のかたわら「昭和レインボー」店主としても奮闘する田中剛さん

 私の計画とリンクするこの連載、初回に登場していただいたのは沼津市の事業家、田中剛さん(55)。

 田中さんは賃貸不動産会社のオーナーですが、現在では「昭和レインボー店主」としての方が有名です。

 昭和レインボーとは、JR駅近くにある「新仲見世商店街」に2017年12月にオープンした駄菓子店のこと。

 沼津市は近年、美少女アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台として聖地化していますが、来沼したファン(ラブライバー)が高確率で立ち寄るのが昭和レインボーなのです。

ラブライバーがクラウドファンディングで市に寄贈した「マンホール蓋」

 いや、駄菓子店というより「駄菓子も買える昭和愛好者サロン」と呼んだ方が正解でしょう。

 わずか5坪ほどの店内は何百点もの昭和アイテム(ブロマイドやマンガ雑誌、キャラクターお面など)で埋め尽くされています。

 田中さんと同年代の私が「懐かしい」と感じるのは当然ですが、21世紀生まれの若者までも似たような感慨を抱いているのは面白いですね。

「昭和」というキーワードで地元活性化

 田中さんは地元のヴィンテージ建築物などをガイドする「昭和レトロぬまづ旅」というツアーも主催しています。

 しかし、単なる昭和マニアではありません。

 その活動の根底にあるのは「地元商店街を蘇らせたい!」という熱い郷土愛なのです。

 江戸時代には「東海道の宿場」、戦後は「県東部の中心地」として賑わった沼津ですが、郊外型商業施設の台頭で商圏のドーナツ化が進み、駅前にあった百貨店は全て撤退してしまいました。

西武百貨店跡にある吉本興業の劇場も入ったテナントビル「沼津ラクーン」

 新仲見世商店街も例外ではなく、いまや往時の賑わいは道沿いの掲示資料からしかうかがえません。

全盛期には多くの店が大変な賑わいで道は買物客であふれていたという

 シャッター街化の進む新仲見世商店街を昭和レトロパワーで活性化させるべく、田中さんが企画運営しているのが「昭和レトロファッションまつり」という恒例イベント。

 田中さんが「昭和ヒーロー番組マニア」としての人脈を生かして招いた『ミラーマン』『人造人間キカイダー』『バトルフィーバーJ』などの主演俳優たちが毎回ゲスト出演し、老若男女に好評を博しています。

個人が「後援ナシの自腹」で始めた町おこし事業

「昭和レトロで町おこし」という試みは各地で行われていますが、通常は「自治体や商業団体などが行う」のが普通でしょう。

 それを田中さんは「私財を投じて個人で始めた」のです。

 昭和レインボーだけとっても2人の女性スタッフを雇用していて、人件費だけでもかなりかかります。

 聞いてみると、なんと「これまでに家が建つほどの金額を投じている」のだとか!

田中さんの秘蔵コレクションも数多く並ぶ「昭和レインボー」店内

「そんな道楽半分の小商い、資産に余裕がある実業家だからできるんだ」という見方もできるでしょうが、母体企業の利潤を「地元への還元(恩返し)」に回せるのはやはりすごいことだと私は思います。

 昭和期を「小商いが最も元気だった時代」と捉え、その再来を真剣に願う田中さん。

 次なる目標は、お年寄りから寄付された昭和家電などを展示する「レトロ博物館」を商店街内の空きテナントを使って開くことだそうです。

「やらない言い訳」に逃げ込まない情熱

 SNSを通じてジワジワと人気と知名度を上げていった(私もツイッターで存在を知りました)昭和レインボーは、閉まっている店も目立つ新仲見世商店街では「一条の希望の光」のように見えます。

往時の勢いには及ばないものの今も踏ん張っている「新仲見世商店街」

 田中さんを「ドン・キホーテだ」と笑う方もいるでしょうが、私自身も個人の情熱だけで無茶な試みをしている男ですからね、シンパシーを抱かざるを得ません。

「助成金がもらえたらやる」「後援が集まったらやる」「皆の賛同が得られたらやる」等々の「やらない言い訳」ばかり並べ立てる人が多い中、「やりたいことは独りきりでもやるんだ!」と動いてしまった田中さんは「やっぱりすごい」と素直に思うのです。

「個人でだって本気になれば町おこしぐらいできるんだ。グダグダ言ってる暇があるなら動け!」

 こんなメッセージを私は田中さんの背中から感じます。

 そこには「全国のシャッター街で生かせるノウハウ」が存在していると思うのです。

 沼津と似た状況に置かれている皆さん、一度視察に訪れてみてはいかがでしょうか?