山口県にある旭酒造本社蔵

壊すような挑戦をしよう

「獺祭」の蔵元、旭酒造は、酒米「山田錦」の生産者を対象に「獺祭 山田錦プロジェクト」を実施することにしました。今年の秋収穫したお米で来年2月にコンテストを行い、全国に広がる契約農家の生産する山田錦の頂点を決めます。農家に最高の品質の米づくりに挑戦してもらい、その米で最高の日本酒をつくろうという試みです。

 通常、山田錦は1俵約2万円ほどですが、1位になると1俵50万円、2位は20万円、3位は10万円、それ以外でも条件を満たしたものについては1俵5万円で買い取ります。審査は機械による分析やDNA鑑定、審査員による目視で行い、順位を決めて1位については50俵を2500万円で買い取ります。

 25都道府県にまたがる旭酒造の契約農家40社に募集をかけたところ、その中の28グループ165人がエントリー。「最高の米作りにチャレンジし、日本の農業に元気になってもらいたい。新しい試みや工夫を行い、これからの時代に魅力ある産業になってほしい。そして世界に本当においしいものを知ってもらうことが日本の価値を高めることだ」と獺祭の桜井博志会長は語ります。

山田錦プロジェクト決起集会

 今まで和紙に墨書きしていたラベルや箱のデザインについても2020年、「獺祭」誕生30年を機に新しいデザインを取り入れようとデザインアワードを開催します。今のラベルは、30年前に地元の高校の書道の先生に書いてもらったもので、「和紙に墨書きというのは、シンプルで自分たちの想いを伝えるのにピッタリでしたが、顧客の変化に対応したい」と、桜井会長は「新たな獺祭に挑戦する」と、デザインアワードを企画しました。こちらは一般公募で、年齢・性別・職業・国籍・プロ・アマ問わず、どなたでも、一人でも、チームでも応募することができます。

「常に変化をしてきたからこそ今がある。未来のために、『獺祭』を壊すような挑戦を求めている」と力強く語る桜井会長。「DASSAI DESIGN AWARD 2019」でグランプリを獲得すると「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分(720ml)」の化粧箱・ラベルとなって、数量限定ですが日本全国で販売されることになります。

 この革新するエネルギーはどこから来るのでしょうか。現状に甘んじない常に変化を求めるパワーの秘密を探ってみました。

「獺祭」は軌道に乗ったものの……

 桜井会長が会社を継いだのは1984年、34歳の時。お祖父様が明治期に源流をつくりお父様が山口県の山奥で地元に根差した昔ながらの酒蔵として再興しました。「旭富士」という銘柄で、地域に愛され業績は伸びていましたが、オイルショックでその流れが止まり、継承したときの売上げは最盛期の3分の1に減っていました。

 悪戦苦闘する中、父親の代から造っていた純米酒に目が留まります。醸造アルコールを入れない純米酒は、ごまかしがきかず、おいしいお酒を造るのは難しかった。しかしちょうどそのころ、高級な吟醸酒「浦霞」や「一ノ蔵」が人気を集め始めていたのです。そんな憧れのお酒が売れていた東京に自分も進出しようと考え、そのころ出会った人から「おいしい純米大吟醸をつくれ」と言われます。大吟醸は精米歩合が50%ですが、この時は35%まで高めたものをつくりました。これが今の「獺祭」の元となりました。

 東京進出を果たし、翌年に23%まで磨き上げたものを出すと、これが精米具合日本一として注目されて1990年代後半、売上げが伸びていきます。

粒が大きい方から玄米100%、50%、23%

 しかし、次なる成長へつなげようと始めた飲食店と地ビール事業への参入は惨敗。多額の借金を負うことになり、酒造りの要となる杜氏を棟梁とする蔵人たちの職人集団が辞めてしまう危機に瀕します。酒造りは米と労働力がものをいう世界。1999年のことです。