東南アジアでは人がビジネスの鍵を握っている

 根拠なき自信を確信へと導くために河村氏がとった施策は、よくいえば地道、悪くいえば泥臭い、極めてアナログな方法だ。

 東南アジアでは人がビジネスの鍵を握っている。誰を知っているか、誰の紹介か。顧客をつかむにも、本当に求められているトレンドやテイストを知るにも、さらには良い物件にたどり着くためにも、口座を開くにも、商品を流通させるにもキーパーソンの介在が不可欠だ。

「だから徹底的にシンガポールの内側に入ることを心掛けました。現地の人と飲んで食べて交流し、必要な情報を教えてもらいました。会いに行ったら、その後必ず電話をするとか、ベタベタなダイレクトマーケティングですよ(笑)。でも、東京のスタイルはシンガポールでは通用しません。本当の意味で友人になることが大事。人付き合いに関してもローカライズが必要です」

 セレクトショップを始めるために必要な情報を入手しつつ、河村氏はセレクトショップの骨格を整えていった。Colony Clothingのキャッチコピーは「オール・サマー・ロング」。シンガポールの気候に合う夏物だけを集めたセレクトショップだ。

 セレクトだけではなく、同名のオリジナルブランドも立ち上げている。目指すは単なるライフスタイルショップではなく、新しい東南アジアのファッションスタイル”NEW COLONIAL STYLE”を発信する拠点である。

「ラグジュアリーリゾートにフォーカスした店は日本にはないと思います。どういう服かといえば、例えば、アマンリゾートに旅行に行くシーンを想定した、現地でオシャレに見えるショーツや長袖Tシャツ、サンダルですね。『ジェットセット』もテーマの1つ。飛行機で各地を飛び回るジェットセッター向けに、ポケットがたくさんついていて洗いやすく、シワになりにくく、それでいて格好いい服が中心です」

Colony Closingは、新しい東南アジアの”NEW COLONIAL STYLE”を発信している

シンガポール進出へのコンサルティングも行う

 河村氏自身を体現する店でありブランドともいえるColony Clothingは、狙い通り、ファッション好きの層からの支持を獲得している。客単価は5万〜6万円。Colony Clothingの人気は、数としてはそう多くはないものの、「オール・サマー・ロング」なファッションを好むシンガポーリアンが確実に存在することを証明した。

 店の運営やオリジナルブランドのプロデュースに加えて、河村氏はファッションのコンサルティング業にも力を入れている。といっても、表面的なアドバイスなどでは全くない。シンガポールへの進出を検討している企業に具体的な道筋を提案し、ともに実践するアクティブなコンサルティングだ。

GMTが扱うブランド、アイランドスリッパはシンガポールでもファンを増やしている

 コンサルティング先の1つが、トリッカーズやアイランドスリッパといった高感度の靴の輸入販売やシューズ・アパレルショップを運営するGMTだ。同社は、2017年に日本で好調なインドネシア製メンズ靴ブランド、ジャランスリウァヤの世界初の直営店を開店する目的で、100%出資のシンガポール現地法人REALSCOPE PTE.LTDを設立。河村氏はその全面的なサポートを行った。

インドネシア製の紳士靴ジャランスリウァヤ。技術の高さとフォルムの美しさに定評がある

 ハンドソーンウェルテッド製法(アッパーを作成した後、足裏にまとめて縫い込んでソールを付ける製法)を駆使したジャランスリウァヤは、その確かな技術とシンプルかつ絶妙なフォルム、コストパフォーマンスの高さで日本でも固定ファンが多い。GMTと河村氏は、2017年に同ブランドとしては世界初となるフラッグシップストアをシンガポールにオープンした。運営、管理はREAL SCOPE PTE.LTDが手掛け、従業員の教育は河村氏の会社、NOMADE PTE .LTDが担当。店長はGMTから派遣された日本人だ。

ジャランスリウァヤは世界初のフラッグシップストアをシンガポールにオープンした

 

ジャランスリウァヤの開店の際にはシンガポールのセレブが集結。話題を集めた

 河村氏は言う。

「シンガポールには、クラシックな靴が好きな人たちが一定層います。ジャランスリウァヤは造りやデザインの割には価格が安い。必ず受けると思いました。そこで、シンガポール高島屋S.C.アプローチして売場を獲得し、メーリングリストを使ってオープン前に顧客層にPRし、ショップオープン前にイベントを開催したんです。ジャランスリウァヤだらけのイベントですね。イベント自体が、自分たちのメディアという位置付けで、PRもマーケティングも全て自分たちで内製化して行いました」

 影響力の高いDJやカメラマンを呼び、壁2面を使ってプロジェクションマッピングも実施した。その模様をインスタグラムで発信。CM風に撮影した動画も話題を呼んだ。

 結果は文句なしといっていいだろう。ショップはオープニングから大勢の来店が続いている。ブランドの魅力はもちろん、GMTとNOMADEの従業員が連携し、本気で取り組んだPRとマーケティングの力だ。

 ショップの1周年記念の際には、ジャランスリウァヤのPRを兼ねて靴磨きのイベントを行った。地下の通行量の多い場所で、ジャランスリウァヤの靴を使い、世界大会で優勝経験もあるシューポリッシュの職人による靴磨きイベントも実施した。

 多国籍風のモデルを起用し、原宿でわざわざ撮影したビジュアルも人気が高い。今年7月には、シンガポールの金融街でゲリラ的にポップアップショップを開催している。所得が高く、ファッションの消費にも積極的なビジネスパーソンに狙いを定めたイベントだ。