吉桂の代表取締役・吉田浩一氏

 タイで家具を生産販売し、さらには日本やアジアの他国へも輸出する。そう聞いて、あなたはどんなビジネスをイメージするだろうか。おそらく、人件費や材料費の安いタイで低価格帯の家具を作って売るビジネスを思い浮かべる人が多いはずだ。

 だが、名古屋を拠点とする吉桂(よしけい)のビジネスはそうしたイメージの真逆を行く。同社がタイで生産しているのは、チークやウォールナットといった重厚感のある上質な木材をふんだんに使用した木の香豊かな家具だ。価格は決して安くない。テーブルやソファの単価は10万円以上。デザイン性が高く、シックなインテリアにマッチする吉桂の家具は、ライフスタイルを自分好みに演出したいタイをはじめ、香港やシンガポールの消費者にも支持されている。時代の流れを冷徹に見据えた経営センスとチャレンジングスピリッツにあふれた吉桂のビジネスを紹介しよう。

2007年にタイに進出

 吉桂が生産拠点としてタイに進出したのは2007年。創業以来、家具の問屋として事業を営んできた同社は、タイで自社ブランドの家具を作り、家具メーカーとして歩み始める道を選択した。

 なぜタイだったのか。だが、その前に、同社が置かれている国内の家具市場の現状について触れておきたい。

 日本の家具市場は厳しい現実に直面している。一般社団法人日本家具産業振興会の調べによれば、市場のピークは1991年の約2.5兆円。以後、業界は縮小を続けている。

 理由は何か。吉桂の代表取締役・吉田浩一氏は言う。

「まずは、市場の3、4割を占めていた婚礼家具の需要減が大きいですね。20年ほど前から売上げが落ち始めました。結婚式や婚礼準備が派手だとされてきた名古屋も例外ではありません。現在の需要は非常に少なくなってきています。生産が国内からアジアにシフトしたことで価格が半分程度に落ち、作り付けの家具が最近の住宅の主流になってきた影響も甚大でした。そして、近年の大きなダメージがニトリさんの台頭です」

 家具市場が縮小を続ける中、ニトリは30年以上も増収増益を続けている。無印良品やIKEA、ネットショップといった新興勢力の台頭も著しい。一方、旧来型の家具専門店は家具市場に襲い掛かったさまざまなマイナス要因に足を引っ張られ、廃業が相次いでいる。

「この1、2年で廃業がさらに加速しました。20年前には2万店以上ありましたが、今、残っているのは5000店ほど。弊社はこうした家具専門店への卸が主力事業です。しかし、仕入れて売るだけの商売ではこの先立ち行かなくなることは目に見えている。かといって、メーカーに転じようとしても、コストパフォーマンスを考えると日本での生産は難しい。活路として浮上したのが海外での生産です。かねてから尊敬している経営者の『海外に出た方がいい』という言葉にも後押しされました」

 日本の家具の会社、しかも卸事業しか経験がない会社が海外に進出し、現地で家具を生産し現地で販売する。前例のないチャレンジに、業界関係者の反応は「危険な賭けだ」「売れるはずがない」と否定的な声がほとんどだったが、吉田氏はひるまず、マーケットリサーチを重ねた後にタイへの進出を決めた。

バンコクの住宅街にあるビルの2階が吉桂の直営店。ゆったりと家具を見て回れるスペースだ

 幸い、知り合いを通じて日本の大手ハウスメーカーの部材生産の経験があり、長くキャビネット製造を手掛けているタイの家具製造工場を紹介され、2007年に生産を開始する。

 タイでの生産をスタートしたのは、「SOURCE」ブランドの中の「TOCCO」「BIS」「SALA」「YHOPE」の4つのシリーズ。いずれも日本の住空間に一番収まりがよいサイズで設計されている。シンプルでありながら木の持ち味を引き出したデザイン性を兼ね備えた機能的な家具は、国内のインテリアショップやセレクトショップからの引き合いも強く、同社の看板シリーズとして人気を集めていく。