日本の法人数は約270万、そのうち資本金1億円以下の中小企業が99%超を占める。欠損法人の比率は全体で62.6%。半数以上の中小企業が赤字である(※)。多くの業界が低成長、マイナス成長の時代に入り、中小企業の経営者はますます疲弊している。

 8月9日に新刊『年商1億円社長のためのシンプル経営の極意』を上梓したサンアスト代表取締役 佐治邦彦氏は、「経営の複雑化が赤字の原因になっているケースが多い。経営をシンプルにすることで収益は改善できる」という。既存事業を高収益化していくための“シンプル経営”を伝授する。

※国税庁「平成29年度分「会社標本調査」 調査結果」(2019年6月発表)

売上げ優先の思考がビジネスを複雑化させる

 毎日忙しく働いているにもかかわらず、思うように利益が残らず、ギリギリの状態で苦しい経営が続いている企業が増えています。そのような企業は、顧客を絞り込むことができずに、売上げを上げるために全てのお客さまを満足させようとしてしまっています。

 その結果、商品点数が増えたり、サービスも複雑化してしまいがちです。その状態が続けば社員は疲弊し、そして顧客満足も低下していきます。それが価格競争に巻き込まれる原因にもなっています。

 市場が成熟した現代は、商品自体の差はあまりありません。サービスの品質の差が、顧客満足に関わってくるのです。サービスの品質向上こそが、非常に重要な鍵なのです。

 利益率の低下を、売上げの拡大でカバーしようとする行為は、その場しのぎの安易な考えであり、とても危険です。その考え方が現場の仕事を複雑化させるのです。

 経営の複雑化は、現場に「ムリ」「ムラ」「ムダ」を発生させることになります。

 現場が「ムリ」をすることで自分の仕事量が増え、業務を処理することで精一杯になり、お客さまの立場に立ってサービスを提供するということに鈍感になっていきます。

 そうしてサービスに「ムラ」が生じることで顧客満足が低下し、顧客が離脱する原因を作ることになってしまうのです。

 さらに「ムダ」が増えることで、固定費や変動費がかさみ、利益が出ない体質になってしまうのです。

安易な多角化によりサービスが複雑化し、顧客ニーズを見失う

 多くの市場が縮小している今日、自分の業界の先行きに希望が持てなくなっている経営者が増えています。すると、どうなるか。リスクヘッジのために、他の業界への進出を考えるのです。

   他人の芝生は青く見えるものです。ですが、自分の業界の将来を悲観して、他の業界に魅力を感じて進出してみるものの、実際に参入してみればどの市場も成熟しているので軌道に乗せるのはとても大変だと気付かされます。

 そうして新規事業に気を取られた結果、ただでさえ陳腐化していた既存事業がさらに弱体化してしまうという悪循環に陥り、さらに多くの問題を抱えてしまう企業が見受けられます。

 業績を伸ばしている企業は、商品やサービスの品質を向上させ続けている企業なのです。市場が縮小していく時代を生き抜くためには、顧客の期待に応え続けることが重要なのです。

 例えば、飲食業界では多くの企業がコンビニと競合しています。コンビニは、常に商品の品質を向上させ続けています。それによりお客さまの舌も肥えていきます。その結果、飲食店で今まで人気のあった商品でも、売れなくなってしまうことが多々あります。飲食店はお客さまに「いつも変わらぬおいしさ」を提供するために、メニューの品質向上に努め、味を変え続けなければならないのです。その反対に、新業態の開発など安易な多角化を行えば意識が分散してしまい、品質の低下を招いてしまうのです。

 品質の低下は優良顧客ほど敏感に感じ取ります。優良顧客に選ばれ続けるための努力を最優先すべきであり、そのための最大のリスクヘッジは、商品やサービスの品質を向上し続けるための仕組みをつくることです。

 

経営をシンプルにすることで、強みが引き立つ

 自社の強みを見つけることができず価格競争に巻き込まれている企業が多く見受けられます。そうなれば、ますます小手先の手段にとらわれてしまいます。例えば、クーポン広告から抜け出せなくなったり、トレンドのメニューを取り入れたりします。そのような行為で一時的に売上げが上がっても、長く続くことはありません。

 そのような状況から脱却し、安定成長を続けている居酒屋があります。静岡県浜松市を中心に6店舗展開している郷土料理居酒屋(株式会社JACKカンパニー)です。

 この居酒屋もかつては、自社の強みになかなか気づくことができませんでした。そのため業績も不安定な状況が続き、その状況を打破するためにさまざまな取り組みを行っていました。

 例えば、もつ鍋がブームになればもつ鍋を提供したり、唐揚げがブームになれば唐揚げを提供したり……。時には「380円均一」などの、業界の流行に飛び付いたこともありました。

 しかし、どの取り組みも成果は短期的なもので、長くは続きませんでした。そこで、ミッションを掲げることにしたのです。

 そのミッションとは、『遠州人が誇りに思う店』というものでした。浜松市に本社がある大手企業のサラリーマンをペルソナ(最重要顧客)に設定して、「支店の社員たちが本社に出張で来たときに連れて行くお店」を想定しました。

 お客さまを絞り込んだことにより「やるべきこと」と「やってはいけないこと」が明確になり、判断基準がシンプルになりました。

 

 さらにメニューを絞り込むことができ、オペレーション効率も向上していきました。それによりお店の業績は全店の既存売上げが右肩上がりという状況が続いています。そして当初2店舗だった店舗数が6店舗まで拡大しました。

 経営をシンプルにすることで自社の強みを引き立たせ、お客さまに価値が伝わるようにしていったのです。

経営をシンプルにすることで、儲かる会社に生まれ変わる

「過去最高の売上げを達成したにもかかわらず、決算を締めてみたらなんと赤字決算だったのでがっくりしました」

 これは、セレモニーホール3店舗を経営する葬儀社(株式会社スズソウ)の話です。激しい顧客の奪い合いにより、業界の価格は値崩れを起こし、業界の平均価格は過去の半額以下にまで落ち込んでいます。

 そこで、この葬儀社も自社の先行きに不安を感じ、大手流通業界から葬儀業界に参入した企業の下請け仕事を請け負うことにしたのです。その結果、過去最高の売上げにもかかわらず赤字ということになってしまいました。

 粗利益率の低下を取引件数でカバーしようという考え方は、とても危険です。適正な利益を確保できていないことに気が付かず、受注件数の拡大に走ったことが赤字の原因だったのです。そこで同社は、自社の平均客単価や粗利益率の目標を設定し、さまざまな経営改善に取り組みました。

 まずは、採算が合わない下請け仕事をやめることを決断し、無駄な経費も見直しました。売上げは足し算ですが、利益は引き算です。過去の経営は、足し算しか見ていなかったのです。高収益企業になるためには、経営者の数字に基づく判断が重要で、目標数字をもとに的確に現場に指示を出すことが求められます。

 次に、主力となる商品の満足度を上げるためにサービスを強化しました。

 高額な祭壇を無理にお薦めして客単価を上げるのではなく、家族が心を込めて葬儀ができるように、手作りで心温まる商品開発に力を入れました。家族で手作りする祭壇や、お別れの歌をみんなで合唱するなど、大切な家族の最後のお別れを精一杯の気持ちを込めてできるよう、さまざまなサービスを提案する会社に変わったのです。

 こうしたサービスにより、お客さまの満足度は向上し、スタッフは自社のサービスを自信を持ってお薦めできるようになりました。結果的に、客単価を上げることなく、原価のかからないサービスを強化して販売したことで、会社の利益率は改善されました。

 このように、収益を確保するために経営の改善を行ったことで、スズソウは毎年5%以上の経常利益を上げることに成功し、ある年では15%を超える経常利益を生み出す会社に変わりました。

自社の課題を明確にしてくれる「ミッションマーケティングフィールド」

 私が開発した「ミッションマーケティングメソッド」は、高収益を長期継続させる組織をつくることを目的としています。

 そのためには、「変わってはいけない目的」と「変わるための具体策」を明確にしてチームで共有する必要があります。会社の目的とスタッフ全員の行動に一貫性を持たせれば、チーム全体の力を最大限に生かすことができるのです。

 下の図は、チームの目的であるミッションを中心に、顧客満足を実現するための具体策を可視化したものです。これを「ミッションマーケティングフィールド」と呼んでいます。そして9つのそれぞれのマスを「ポジション」と呼んでいます。

 

 顧客満足を実現するためには、顧客との接点の全てを最適化することが重要です。これを「顧客満足のための全体最適化」といいます。部分最適では顧客を満足させることはできません。

 ミッションを中心に全てのポジションに一貫性を持たせることで、顧客満足度は向上し、企業価値が高まっていくのです。顧客にとっての全体を可視化することで、自社の顧客満足度を向上させるための課題が明確になるのです。

 これからの複雑で変化の激しい時代を乗り切るためには、「変わってはいけないこと」と「変わらなければいけないこと」を明確に理解していることが重要なのです。

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