【プロフィール】1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し、現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

小米科技(シャオミ)の小米之家(ミーストア)はD2Cブランドの発展形

 Amazonを除く多くのECサイトが今、世界中で売上げ拡大に苦労し、最終的に成約率の慢性的な低下に悩む傾向に陥っている。これは乱立する販売だけのサイト群では品揃えで負けてしまい、結局スケールが大きく価格が安い大手のサイトに集約されるからであり、同時にオンライン店舗は新規顧客の獲得が困難になっているためである。

 米国でECだけのチャネルでスタートしたD2Cブランドが、オフライン店舗をこぞって出店し、その多くはショールーミングを中心とした「体験型」であり商品を売らない店舗であるのも、店舗で実際に商品を見て触って体験することはオンラインよりも効き目が大きいからである。

 低価格スマートフォンをはじめとしたIoT家電メーカーとして知られる小米科技(シャオミ)の展開する小米之家(ミーストア)も、そうしたオフライン店舗の体験性の高さに気付き、オンラインから得られるデータを組み合わせることで新しい小売りの形を実現している。その要点は以下になる。

1.オンラインストアで培った「低価格」をオフライン店舗でも実現する高効率化

2.ファストファッションをベンチマークとした出店によるオフライン店舗の新規獲得

3.パートナー企業も含めた家電やアクセサリーを扱い、高頻度の購買機会を創出

4.オンラインストアでのビッグデータから需要予測を図り、パートナーを含めデータ共有

5.オフライン店舗では専門性の高いスタッフを用意し、体験性を最大化

スマホからパソコン、テレビ、セグウェイ、ソファまでさまざまな商品を「体験」できるシャオミのミーストア(Shutterstock)

 ミーストアは一見、Appleストアをモデルとしたように見えるが、実はデジタル技術を使ったスマートな商品のセレクトショップのような位置付けで、幅広い品揃えにリーズナブルな価格設定、スマートなデザインとともに、ある意味でWarby ParkerなどのD2Cブランドのアプローチと同じである。ある分野に集中して取り組むことで顧客にとっての価値を高くしながら、顧客と直接つながることで低価格を実現するからである。これはD2Cブランドと同様に、オンラインでのデータ効率化がカギであり、その論理をリアル店舗に拡張した形である。唯一違うのは、シャオミが中心となってパートナー企業の商品を扱い、その製品を広げていることで、その意味では「無印良品」のようなリテールブランドとしての特長を有している。実際、中国の顧客はシャオミと「無印良品」で重複しているそうだ。

「体験性」の回帰からイノベーションを起こせるか

 オフライン店舗の重要度を再確認し、その体験性を通してブランド認知や商品理解につなげ、リピート購買につなげるというモデルは、テクノロジー業界では見慣れた風景かもしれない。既に音楽業界ではiTunesやYouTube、Spotifyなどのサービスでデジタル化を通じ音楽がほぼ無料で流通したことで楽曲のオンラインストリーミングが主流になった半面、アーティストによるリアルなライブ演奏やコンサートは重宝され、高額なチケットが売れるようになっている。

 体験性の回復だけではオフライン店舗の価値の再発見にすぎない。音楽業界のように、オンラインで得られるデータや効率性を活用して、ライブチケットのみならずアーティストグッズやバックステージなどの付加価値を商品化するなどの新しい取り組みが必要である。シャオミのミーストアのアプローチは音楽業界のように、自社の顧客基盤から拡大できる「体験」を広げてオンラインを含めた購買機会の効率化を目指す点が秀逸である。その意味で特にブランド企業はAppleよりもシャオミから学ぶ点が多いだろう。

オフラインのみで低効率化を高効率化させたメイソウ

 シャオミの取り組みは前回紹介したアリババ同様、オンラインとオフラインのチャネルをつなげているだけでなく、どのようなデータによって物の流れ(供給)と人の流れ(需要)をマッチングさせているかがポイントである。その意味で中国のニューリテール企業のデータによる高効率化とは、実は従来の小売りのサプライチェーンと顧客の需要との時間的、空間的な距離を縮めることを目指しているといえる。そしてその距離が短ければ短いほど、顧客には低価格で商品を供給できる一方で、不良在庫を減らし利益を確保することが可能になる。考え方はSPA(製造小売業)モデルのような垂直統合なのだが、効率化のデータといっても物の流れがあればいいだけでなく、その距離を縮める点において供給、需要のデータが重要なのだ。それが劉潤のいう小売りの「物、人、金」の流れを指すのである。

 そのようなサプライチェーンの短縮化を劉潤は「短絡経済」と呼んでいる。彼によればオンラインに頼らなくてもメーカーとオフライン店舗が高効率化されれば、それはニューリテールなのである。その代表としてメイソウを挙げている。メイソウ(名創優品MINISO)は1000店舗を構える日本でいうと無印良品とダイソーを足したような低価格雑貨店である。

小規模店舗を1000店以上展開する低価格雑貨店メイソウ

1.小規模(100~200平米)の店舗に特化して人流量の高いエリアに出店

2.メーカーと直取引し直接工場から出荷して倉庫など中間プロセスを最小化(M2b)

3.メーカーに大量発注、取引条件を良くする代わりに低価格で納品させる。

4.「直管」といわれる垂直統合の店舗運営で本社がコントロール

※直管:フランチャイズ店舗の経営を本社が直接管理する運営形式。オーナーは経営に関わらず本社からの利益分配のみを受け取る。

 メイソウは日本ではイオングループと組んで出店展開をしている。またアリババやシャオミと違って、オフラインのメーカー直取引のモデルなので既存の流通からも理解されやすいのだろう。このような流通側がリスクを取って製販統合を進めることでメーカーのリソースをフル活用した効率化を狙うという状況は日本でも進んでいるといえる。

メイソウの「M2b」モデル短絡経済

 ニューリテールが低効率の高効率化というのであれば、日本が取り組むべきはこのような「短絡経済」を実現するデータ活用による高効率化である。次回は従来のサプライチェーンを見直した中国のニューリテールの事例を紹介する。