どんな仕事にも、グレーな領域が存在します。これにはできればやっておいた方がいいこと、誰がやってもいいものの他に、誰もやらずに忘れられている仕事なども含まれます。

 これらはやり過ぎると「あの人は言えば(言わなくても)何でもやってくれるから」と周囲から便利屋扱いされてしまいます。ただ私は、会社でチームとして働いている以上、ある程度は相手を意識して自分の対象外とも思える仕事もした方が、回り回ってベターだと思っています。

 例えば、販売員は「商品を販売して売上げを上げる」ことが主な仕事です。しかし「商品を販売する」ためには、商品の値段を聞かれたら値札を見なくてもすぐに言えること、各商品の特徴や良さをうまく説明できる人の方が有利です。

 他にも売場のディスプレーが整えられている方が、お客さまは商品を試しやすいものです。「売上げを上げる」ためには、孤軍奮闘するだけでなくスタッフと協力したり、関連商品について学んでプラスワンの提案ができる方が有効です。

 ところが実際には、「私は『販売員』なので、ディスプレーは別の人(得意な人や専門の人)がやった方がいいと思います」「とにかく予算を達成すれば、何でもいいんでしょ」という考えの人がいるのが現実です。

 他の仕事でも同様です。「自分は〇〇だから、この仕事は『担当の人』がやるべきだ」と思っている人は、意外と多いのではないでしょうか。

イメージ通りの仕事をするために、どうする?

 

 実は私も「範囲外の仕事はできるだけやりたくない」という考えを持っていました。あるイラストレーターの方にイラストを依頼する際に「こんな内容のイラストをいつまでにお願いします」と頼み、出来上がってきたイラストラフ(下書き)を見て「何か違うな~」と思ったときは、その都度、修正依頼をしていました。

 ある時、イラストの参考になるようにと依頼内容の他に参考画像を一緒に送付し、丁寧にイメージを伝えてみました。するとイメージのミスマッチどころか、自分の期待以上のイラストが上がってくるようになりました。そうした仕事は、周囲からの評判も良かったのです。

 その際、予想通りの結果にならないのは、自分の説明や配慮が不足しているからなのだと気付きました。イラストのイメージ共有がうまくできていないことで、お互いにやり直しの余分な時間や、やり取りの負担をかけていたのです。まだまだ未熟なものの、今では仕事を進めていく上で当時よりは柔らかい物言いや気遣いを心掛けています。

「それはそっちでやっておいてよ」と自分の仕事に集中するのは楽で簡単です。しかし、できる範囲のことをほんの少しやるだけでお互いに気持ち良く仕事ができるのなら、そちらの方がずっと良い雰囲気でスムーズに進むのではないでしょうか。

 正しさがいつも正義とは限りません。自分が主張することで、その時は訴えが通ったとしても、後々評判が悪くなって結果的に自分が困る、という事態もあり得るのです。そして私が見ている限り、いわゆる面白い仕事で活躍して成果を上げている人は、自分の範囲外の仕事にも前向きに打ち込んでいる人ばかりです。

ちょっとだけ今の自分より背伸びしてみる

 

 自分が普段抱えている仕事ばかりで既にいっぱいいっぱいという人は、たくさんいると思います。だから最初は無理せず、少しずつ気付いてできることから始めればいいと私は思っています。

 ある企業の代表者に取材した際、自分の仕事に取り掛かる前に毎朝職場をぐるっと回り、出会った人全員にあいさつをしていると伺いました。スタッフ一人一人の顔を見てあいさつすると不調にすぐに気付く他、ちょっとした質問や相談を受けやすくなるので、出社後すぐにそうしているとのことでした。代表者の立場として、離職などの大きなトラブル発生を未然に防いでいるのです。

 こうした仕事は一見目立たないので、直接の数字や評価には結び付きづらいです。ただ長い目でみれば、働く環境がじわじわと改善され、とても仕事がしやすくなると感じます。

 まずは自分に余裕があるときに、先輩が忘れている仕事をやっておく。他人のミスを感情的に責めるのではなく注意に留めて、ミスが起きた背景のヒアリングや再発防止対策を考える。先に自分に任された仕事をきちんとやることは、もちろん大前提です。

 給与以上の働きをするなんてタダ働きするようで、何だか損している気持ちになる人もいるかもしれません。私も以前はそうでした。しかし、そうした考え方をやめて自分でどんどん動いてからの方が、面白い仕事ができるようになってきた気がします。

「ここまでが自分の仕事の範囲です」という考えを前面に出す人は、周囲から「ちょっと話しかけにくいな」と思われ、壁を作ります。それでも仕事が回っている間はいいですが、自然と新しい仕事やポジションも回ってこなくなります。

 キャリアを考える上でも、新しい仕事の機会を与えられなければ、長く働いていても成長がない、できることが少ない人材と見なされます。ずっと同じポジションで、自分にとってつまらない仕事をやり続ける可能性も高まります。余裕があるときのちょっとの背伸びは、いずれ自分を救ってくれると私は思っています。

 何より仕事に対して積極的な姿勢は、たとえ職場や業界が変わっても生かせます。まずは自分が気付いた、できる範囲の小さなことから始めてみてください。