洪華(ホン・ホア)中国・清華大学博士。長く起業研究に力を注いでいる。シャオミ谷倉創業学院学院長、北京青禾谷倉科技有限公司CEO。元北京科技大学工業設計学科副主任。

お客さまは「友達」です

——最初はネットのみでの販売という点も話題になりました。

洪:最初のスマホ(Mi-one)を発売するときに、品質には自信がありましたし、中間コスト、店舗や輸送コストを削減することで価格も抑えたいという考えで、卸業者を通さず自社サイトで直接販売する方法を始めました。業界参入した2011年当時、既にネットショッピングは流行していましたが、2000元(約3万2000円)以上の購入をする人はほとんどおらず、携帯電話のネット販売は業界初でした。でも高品質・低価格という競争力があったので、ネットで販売することにそれほど不安はありませんでした。実際、購入者から高評価をもらい、口コミで販売が伸びました。

——シャオミといえば、「米粉(ミーフェン)」と呼ばれる大勢のファンの存在も強みです。

洪:一般的には「お客さまは神様」だといわれますが、シャオミは無神論者が多いので、「友達」だと考えています。友達から「無料でスマホが欲しい」と言われてもあげられませんよね。だって売らないと飢え死にしちゃうから(笑)。友達なら友達を餓死させることはしないはずだし、友達なら安く提供することはできます。これが「ファンビジネス」です。

 最初に友達になってもらったのは、いわゆるマニアといわれる方たちです。彼らは新しいテクノロジーに強い興味を持っています。まずは100人くらいのマニアに満足してもらえる商品作りを心掛けました。その後は狙い通り、彼らはファンの先駆者、リーダーとして、シャオミスマホの魅力を他のマニアや理系の男性、流行に敏感な若者、そして全国の人々へと拡散してくれました。

価値の公式

——EC戦略の成功の後、商品に触れて体験できるリアル店舗(ミー・ストア)の展開も始めましたね。

洪:販売方法の見た目が変わっても、本質的な変化だとは思いません。本来、小売りとは効率を高めながら顧客体験を追求すること。そういう意味で、価格はそれほど重要ではなく、「価値」こそ重要なのです。価値を創造できないなら、どんな形の小売りでも続きません。

 シャオミが成功し続けているのは、売り方ではなく「良い製品を作っているから」ということに尽きると思います。

 シャオミにはこんなスローガンがあります――「人に感動を、価格は誠実に」

 私自身は雷軍CEOのこの言葉を、人を感動させることで価値を大きくし、誠実な価格で対価を小さくしようということだと理解しています。

シャオミ創業者の雷軍(レイ・ジュン)CEO(Shutterstock)

 これは商売の意義を読み解く「価値の公式」だといえます。

 価値は、分子を客の利益、分母を客の対価として表すことができます。対価を小さくすれば、価値の数値は大きくなります。また対価というのは、価格だけでなく、近くの店で手に入る、ネットで注文したらすぐ届くという「購入しやすさ」や、説明書を読まなくても操作できる「使いやすさ」も含まれます。購入や理解に多くの時間コストを払わなくていいわけですから。

 これら客が払うコスト全体を小さくする一方で、客が得られる利益も大きくする。この「利益」とは不便の解消や楽しい記憶と体験を意味します。

 この「分子」が大きくなり、「分母」が小さくなれば、ビジネスは順調だといえるでしょう。

 

 ビジネスとは「価値の公式」に基づいて「価値」を大きくするという点だけができていればいいと思うのですが、多くの人は「たくさん稼ぎたい」「売上げを増やしたい」とお金に目がくらんで、人間心理への洞察力を失っている。自分が消費者だったら「良い物を安く欲しい」じゃないですか?

 高品質で値段も高ければ、それはただのぜいたく品。私たち庶民には買えません。安いけど品質もイマイチだったらそもそも欲しいと思いません。

 商品価値と得られる利益は払う対価にふさわしいか? 客はこの2つの要素で購入を判断していて、価値や対価を単独では考慮していません。これは小売りにおける本質的な話です。

——「価値ある商品」を徹底して作り続けているから、ここまで売上げが伸びているのですね。

洪:それだけではありません。「人に感動を、価格は誠実に」を追求すると同時に商品ラインアップの内容も重要です。

 スマホは大体1〜2年で買い換えられます。炊飯器なら数年に1度、セグウェイは3〜4年か、一生買い換えないかも。この品揃えの店ではお客さんの来店頻度があまり多くありません。

 だから、私たちはもっと短期間で買い換える商品もラインアップに入れています。例えば、歯ブラシ。私が立ち上げたプロジェクトですが、歯ブラシや歯磨き粉は誰でも永遠に買い換え続けなければならないものですよね。

 定期的に歯ブラシを買いに来るうちにセグウェイを体験したくなるかもしれない。スマホを買いに来たらついでにそれに付けるアクセサリーも買ってしまう。使ってみて良かった商品を友達に話したら、その友達もどんなものかと見に来る。

 これら全て、容易に想像でするビジネスの常識ですよね。ビジネスには難解なことなどありません。常識を徹底すれば、想像以上に大きなことができるのです。