あなたがもしお店の新規オープンを控えていて、集客を考えているとしよう。そのとき、何に目を向け、どんな手を打つだろうか? ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるパン屋さんから頂いたご報告だ。

「広告費ゼロ開業」を試みた

 お店の新規オープンに当たって、一般的には、オープン告知広告を主体に考えるだろう。折り込みチラシを入れる、店のフライヤーをポスティングするなどの方法だ。しかし店主は今回、それらは行わない方針で、「広告費ゼロ開業」を試みた。とはいえ店の立地は、駅からは遠く、建物の裏路地にあって人目につきにくい。そこで店主は、店頭と店周辺の看板だけを使い、あえてWebサイトも作らず、地元向けの広報に徹することにした。

 そのため、まずは店周りの人の動きを観察した。開店準備のため毎朝店でパンを焼いていると、朝8時ごろに大勢の小学生が通り掛かることが分かった。そこは何と、集団登校の集合場所。地元の食を支えるパン屋にとって、小学生のママは格好のお客さん。まずはそこに集まる小学生の口コミにのせることを考えた。そこで店頭に、1年生でも読めるようひらがなとカタカナで、「これから、パンやさんができるよ」と書いて掲示した。すると、毎日集まる小学生たちが、「パン屋さんだって~」「いつできるのかな~」と話しながら、店をのぞき込んできた。

 さらに観察していると、店のある路地周辺の人の流れも見えてきた。そこで路地の入り口に、「あっちに12歩 もうすぐパン屋さんができるよ!」、逆側には「あっちに14歩 もうすぐパン屋さんができるよ!」と看板を設置。オープン日が近づくと、「もうすぐ~」を「5月8日にパン屋さんがオープン!」に書き換え、オープンの日を待った。

開店時刻の店の前には……

 果たしてこれでお客さんが来るのか、ドキドキしながらのオープン日。開店の11時を前に、10時半ごろから店の前には人だかり。いつの間にかものすごい行列に。「12歩数えてきました!」「どこにあるのかまわりをぐるぐるしちゃった」「うちの子がいつも集団登校でここに集まってて、教えてくれたんです」と口々に、大勢の地元の方々が、看板を見て、店を認知して、オープンに合わせて来てくれたのであった。

 ワクワク系では、人の心と行動に目を向け、それを軸に商いの営みや、打つべき手を考え実行することを「人にフォーカスする」と言う。今回店主が行ったことはまさに人にフォーカス。商いの結果は、それをベースに、あとは工夫と行動で、生み出すことができるものなのである。

※小阪裕司先生の連載最新回は、毎週金曜日の午前5時に公開します。「これまで公開した記事」と併せてお読みください