「〇〇がなくて困っている」

 情報収集をしていると、よくこのような内容の発言を目にします。例えば今の時期なら、「Yシャツの汗染みが目立って嫌だ(=汗染みが目立たないYシャツがない)」「この時期は台所に立つのが暑くてつらい(=火を使わないレシピがない)」のような形です。直接的な表現ではないものの、既存の商品やサービスに困っている人は多いです。

 中には私が既に解決している悩みもあって「こういうものもあるのにな~」と思うこともよくあります。また「確かに、私も〇〇欲しいな」と思って少し調べてみると、数分で最適と思われる商品を見つけられることもあります。

 ただ、発言をしている人の大半は「本当、〇〇なくて困るよね~」と言うだけで、そもそも具体的な解決方法があることを知らない人が多い印象です。

「自分の知りたい」ことだけ見ている私たち

たくさんある情報の中から、見たいものだけを見ている

 今、情報は至るところにあふれています。しかし実際には、私たちは自然と自分の知りたいことだけ見ています。ニュースアプリでは過去のクリック状況から興味のある内容を推測して、関連順に表示されるようになりますし、スマホアプリも自分で選んで好きなものをインストールしています。

 以前なら新聞やテレビなど、ほとんどの「みんな」が見ている共通の話題がありました。しかし今、誰もが知っている共通の話題はどんどん少なくなってきています。流行ではなく好きな情報を誰もが優先するようになった結果、自然と共通の話題がある人同士で集まり、知らない・興味のない話題と出会う機会は減っているのだと思います。

 私はこの事実に、子育てを始めてから気が付きました。出産前は「夜泣きで寝られないらしい」「どうも自由な時間がなくなるらしい」ということを情報として知ってはいましたが、そうはいっても何とかなると思っていました。実際に育児をするまで具体的に何が起こるのか、どんな状況になるのかをほとんど知らなかったのです。

 ところがいざ子育てを始めると、夜泣きは何をしても泣きやまないときがあり、睡眠不足で頭が働かなくなると、食事さえ取る気にならなくなることを知りました。また今は、子供の生活や遊びのペースに合わせているとすぐに1日が終わってしまうことを、日々身を持って体感しています。

 乗っているのはサラリーマンばかりだと思っていた電車内では、ベビーカーや抱っこひもを利用した親子が目に付くようになりました。電車の利用者は、時間帯が同じなら大して変わらないはずです。今までは自分が子育て当事者ではなかったので、子供がほとんど視界に入っていなかったことに気付いたのです。

 世代間の価値観の違いやギャップはよく話題に上がりますが、それだけでなく同世代間でも好きなものや所属する会社によって、見えている社会は全く異なるものとなってきているように感じています。

店舗は「意外性」のやり取りを行う場所に変わる

 

 今、大半の悩みを解決するためのグッズやサービスは、既にあちこちで出そろっています。もちろん商品やサービスの認知度が低い、利用しにくいなど何らかの問題がある場合もありますが、解決できる悩みは多いです。

 しかし、私たちは自分の所属する世界に解決方法がなければ、その存在すら「知る機会がない」のです。そうなると、悩みはよほど意識しなければ自力で解決できません。そもそも悩みを解決できることを知らなければ、「みんな困っているんだろうから、仕方ないよね」と諦めてしまうからです。

 逆にいうと、自分が所属しない世界をたくさん知っていることは、これから大きなアドバンテージになってくると思います。仕事に有利なだけではなく、自分の所属する世界だけに捉われない多様な価値観や問題解決方法を身に付けることができるからです。

 リアル店舗には、毎日さまざまな人が訪れます。自分と違う年齢の人はもちろん、異なる趣味の持ち主、従業員より専門知識を持った人もいるはずです。言い換えれば実店舗で働く人たちは、仕事をする上で自然と自分の知らない価値観を持った人と接しています。

 もしかするとこれからは「(従業員がお客さまに)商品の良さを伝えよう」ではなく、「一緒に情報交換しましょう」というくらいの接客スタンスが良いのかもしれません。来店した直後の初対面のお客さまに「接客しよう!商品やお店の良さをお伝えしよう!」と最初から意気込むと、お客さまは離れていきがちです。

 自分の知っていることを伝え、逆にやり取りしていく中でお客さまからも違った世界の話を聞かせていただく。店頭をそんな情報交換の場と捉えると、今嫌われている押し付け接客は減るはずです。

 店舗の従業員は、自分たちのサービスや扱う商品で既存の悩みが解決できることを伝えていく。お客さまからは、今何に悩んでいるかを伺って悩みの内容を知る。これからリアル店舗は、商品やサービスを提供する場というよりも、双方にとって「意外性」のある情報をやり取りする場所になっていくのかもしれません。