スマホの写真データを見返していて、気付けば最近私が訪れている店は、現地でふらっと立ち寄るよりも来店前に名前や場所、メニューなど何らかの情報を調べている比率の方が高いことに気付きました。

 調べる情報を具体的に挙げると、最近ではもっぱら子供連れでも行きやすい雰囲気の店かどうかです。例えば飲食店を選ぶとき無意識に見ているのは、静か過ぎないか(多少子供がうるさくしても迷惑にならない雰囲気なのか)、カウンター席以外にもテーブル席はあるか、白米や麺類など子供にも食べやすいメニューはありそうかなどです。

 他には、自動車で出掛けるなら近辺に駐車場があるか(より正確に書けば、店舗の駐車場情報があるか)、電車での移動なら最寄り駅からのルートや経路を調べています。

 これは、子育てによって私が飲食店に求める考え方が変わったことも影響しているとは思います。ただ調べる内容は異なれど、「店に入る前」に店名を検索した経験はほとんどの人がしているのではないでしょうか。

 今の日本は選択肢がとても多いです。特に東京をはじめとする都心では、飲食店だけでも和洋中あらゆるジャンルがあります。安価なチェーン店、個人が営む個性的なカフェ、大勢で利用しやすい居酒屋、少人数の会食で重宝するレストランなど、比較サイト内だけで絞り込んでも選択肢が豊富にあります。

 利便性がある程度満たされると、人はどうやって自分の行く店を選ぶでしょうか。価格や店の広さ、知名度などいろいろな基準がありますが、私は最近の傾向として「店に行くだけの理由」を求める人が多いのかもしれないと思いました。

 今はわざわざ外に出掛けなくても、家庭内で日々を楽しめるアイテムがたくさん用意されています。何か食べたいならデリバリーサービスが充実していますし、日用品の買物ならネット通販、娯楽ならスマホアプリや動画配信サービスで1日中楽しむことができます。

わざわざ外に出掛けるのはなぜか

 

 通常なら話題の店がすぐに入れないほど行列するのは一瞬で、次第に人気が落ち着くことが多いです。新店や新商品が毎日クローズアップされるので、人々の関心が別の店に移っていってしまうからです。

 ところが19年2月末にオープンした『スターバックス リザーブ ロースタリー東京』は、オープンしてから数カ月経っても昼間では行列している日が多いです。実はこの店舗は、どの駅からも徒歩5分以上でアクセスはあまり良くなく、周囲にもカフェはたくさんあります。それでもいまだに根強い人気があるのは、「『あのスタバ』に行きたい」「メディアやSNSで見掛けたあの限定ドリンクやフードが飲みたい、食べたい」「写真が撮りたい」と強い思いを持って来店する人が多いからでしょう。

 逆にずっと客足が途絶えず地域に根差している店は「あそこに行けば間違いない」と安心を与えているからなのではと思います。新しい店では、「もしかしたら自分に気に入るものがないかもしれない」「スタッフに嫌な扱いを受けるかもしれない」など、どうしてもある種のリスクを抱えています。しかし、知っている行きつけの店なら、そうしたリスクは格段に低くなります。「行きつけの店」は、感情を変に乱されないことこそが大きな価値になっているのです。

 ウインドーショッピングは「街をぶらぶら歩いて、商品を眺めながら買物気分を楽しむ」という買物スタイルですが、今はリアルの場でこうしたぜいたくな買物体験をしている人は減った気がします。「たくさんある情報の中から、失敗しないように一番良い店を選ぼう」「途中で無駄に迷わないように、行きたい店までの道を下調べしておこう」というように、ある意味で準備万端な人が増えてきているのではないかなと思うのです。

 もちろん実際の商品を見る、触るなどの経験は家ではできないものの、ウインドーショッピングに似たことは、今や多くの人が自宅や移動の隙間時間で行っています。検討は来店前に済ませて、「〇〇したい」という明確な意思のある人が実際に店に訪れているのではないでしょうか。

感情が消費において重要視されている

 

「〇〇したい」と思ったということは、事前の下調べの段階で何か目に留まるものがあった状態です。「このお店に行ってみたい」と思ったなら、その店に対してメニュー、口コミ、写真でみた内装、といった何か期待する要素があったはずです。

 期待する要素は、人によって違うでしょう。例えば、最新技術を体感できるショップかもしれません。もしくは1日いても飽きないような広い施設かもしれません。小さくても特定の趣味の人に強く刺さるお店や、会ってみたいと思えるようなスタッフがいる場所かもしれません。

 いずれにせよ、今まで以上に来店前から「特徴のある店」と分かっていないと、来店すらしてもらえなくなっていくのかなと私は感じています。

 買物は店に出向いてから何かわくわくする商品を探すという側面が強かったですが、最近はそもそも「心が動く(であろう)」と事前に分かっている店でなければ、人が集まらないような気がしています。もちろん今までもそうした面はあったのでしょうが、さらにそうした消費傾向が強まっている気がしています。

 好レビューがたくさん集まって「面白そう!行きたい!」と思われる場所になること。「この店の〇〇を食べてみたい」と思わせるような名物フードを作ること。「他の店にも行ってみたけど、やっぱりこの人にお願いしたい」と思われるようなスタッフを目指すこと。人によって好きなものは異なるので、店やスタッフが提供できる選択肢は無数にあります。今までなら絶対の正義だった「安くて良い商品が豊富にある」状態だけが、正解ではないのだと思います。むしろ、個性的な商品やサービスを魅力的に感じる人もいるはずです。

 びっくり、ワクワク、どきどき、安心、ネガティブな感情でなければどんな形でもかまいません。あなたの働く店やサービスは、お客さまの心を動かせる店でしょうか?