時を超えて愛され続ける力

 近年、再評価が進む、世界的に注目されているデザイナー、マリアノ・フォルチュニ(1871-1949)は、20世紀初頭に世界を席巻した芸術家です。彼の多面的な活動が分かる、日本初公開の作品を含む約200点の展覧会が三菱一号館美術館(東京都千代田区)で始まりました。

 彼はファッションデザイナーで、テキスタイルデザイナーで、画家で版画家、舞台芸術家、写真家でもある天才で、まるでレオナルド・ダ・ヴィンチ。舞台の照明技術に至っては革新的な発明をしており、特許も34取得しています。

 彼は自分のことをまずは「画家」、そして「写真家」だと言っていますが、芸術と技術を融合させ布地への模様の印刷や、プリーツの付け方の発明など、発明家としても力を発揮し、彼の生み出した製品は今もなお、時を超えて愛され続けています。「その秘密が知りたい」と、展覧会に行ってきました。

マリアノ・フォルチュニ「ウィリアム・シェイクスピア「オセロ」の小姓のための習作」 1944年 フォルチュニ美館

「デルフォス」で世界を席巻

 スペイン画壇で中心的な存在だった画家の父。母は、父と祖父がプラド美術館の館長を務め、画家、建築家、美術評論家を輩出した芸術一家の出身。その両親のもと、グラナダで生まれ、ローマとパリで育ち、ヴェネツィアで制作をしました。19歳でワーグナーのオペラの場面の制作を始め、25歳で初めて絵画と版画をイタリアで展示。1895年、24歳のときに始まったヴェネツィア・ビエンナーレに28歳から何度も絵画を出品。妻となるアンリエットと出会い、35歳の時にはアンリエットの提案で今、美術館となっているベーザロ・オルフェイ邸にテキスタイルの工房をつくります。1907年、36歳の時にフォルチュニの代表作である「デルフォス」が誕生。38歳でプリーツやプリントの特許を立て続けに申請し「フォルチュニ社」を設立。ニューヨークで「デルフォス」の販売が始まり、ヴェネツィアに工房を設け、ロンドンやパリにも店舗を出店しました。第一次世界大戦の後、パリのアール・デコ博でテキスタイルで大賞受賞。第二次世界大戦後の1949年、77歳で亡くなりました。

日本の絹を使う

「デルフォス」黒1910年代 京都服飾文化財団

「デルフォス」は、細かいプリーツの絹のドレスで、体の線に沿って波打ち、とても優しく美しいフォルムです。絹地は日本から輸入されたといわれ、鮮やかな色に染められています。このプリーツ、いまだに制作方法が解明されていないそうですが、指で折って卵の黄身をつけて固めるという作業を繰り返したのでは(音声ガイドより)といわれ、膨大な時間がかかるのだとか。コルセットから女性を解放した革命的なドレスとして歴史に名を刻んだばかりか、その美しさは今もなお輝きを放っています。

「デルフォス」の着想のもととなったのは、1896年にギリシャ・デルフォイの遺跡から発見された、紀元前5世紀初頭につくられた青銅彫刻「デルフォイの御者」でした。

 その彼を支え続けた妻のアンリエット。この展覧会にも彼女を描いた作品が出展されていますので、その姿を見ることができます。工房を仕切り、さらに「デルフォス」も彼女の考案だったといわれ、英雄の陰に女ありですね(笑)。「デルフォス」は、イサドラ・ダンカンをはじめ、世界のセレブリティが身にまとい、エレガンスの象徴となります。

右:フォルトゥニ家コレクションのきものを着たアンリエット 1905年頃(2019年プリント)フォルチュニ美術館

「デルフォス」の前には、「クノッソス」と名付けられたショールを生み出し、その後には、豪華なベルベットにエキゾチックな模様をプリントしたマントやコートを制作しました。

発明家として

 リヒャルト・ワーグナーに心酔し、舞台芸術、舞台照明、劇場設計なども手掛けていたと前述しましたが、彼の発明した拡散光と間接照明を組み合わせた舞台照明技術は、機械で朝から夜までの光を再現できるばかりか、役者を美しく見せることができました。

 展示されているデスクランプはフォルチュニのデザインで、舞台照明を利用した間接照明になっていて現在も同じ形のランプが製造販売されています。

 その技術と発明力、さらに古びないデザイン性が今もなお通用するということでしょう。

 また、彼が所蔵していた日本の染型紙も展示で見られ、型紙を用いた防染染めの技術にも通じ、プリント技術に生かしていたことが分かります。

 彼の邸宅でありアトリエ、そして工房でもあったヴェネツィアにあるフォルチュニ美術館の映像を見ていると、その素晴らしい空間に身を置くだけで何かを生み出せるような気さえします。たくさんの収集品が彼のインスピレーションをかき立て、コレクションを見ると日本の影響も大きかったことが分かります。

100年前と同じ工法で生産

「デルフォス」は、フォルチュニが亡くなった後、妻アンリエットの意向で生産を終了しましたが、ジュデッカ島の工場の経営など「デルフォス」以外は、アメリカの独占販売を担っていたエルシー・マクニールに全て委ねられ、フォルチュニの製品は今もなお当時と同じ工法で綿プリントの生産が行われています。

現在のフォルチュニ社店舗(ニューヨーク)

 そして、かつての「デルフォス」はセレブリティが集まるパーティで現在も着用され、2009年のMETガラでスーパーモデルが身にまとっていました。

 2016年、ヴァレンティノの春夏コレクションではフォルチュニデザインのテキスタイルが使われ、展覧会場で流されている映像を見てもデルフォスへのオマージュが感じられます。さらにイギリスの大ヒットテレビドラマ『ダウントン・アビー』でも2015年に放送された最終シーズンに登場していると聞きました。

ヴァレンティノ オートクチュール2016年春夏コレクション

 フォルチュニの魅力は、時代を超えて生き続け、今もなお人々の心をつかみ続けているのです。私のハートもがっちりつかまりました(笑)。

 

三菱一号館美術館「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」

2019年7月6日(土)~10月6日(日) 10時~18時(祝日を除く金曜、第2水曜、8月12日~15日、会期最終週平日は21時まで。入館は閉館の30分前まで)

月曜休館(ただし、祝日・振替休日、9月30日とトークフリーデーの7月29日、8月26日は開館)

入館料 一般1700円(第2水曜日17時以降のみ「アフター5女子割」1000円で入館できます)