〔最先端事例①〕キーワードは「コミュニティ」(NIKEの場合)

 ここからは、今、国内外の最先端を行くデジタル店舗が実際どのような店作りを行っているか、具体例で見ていきたいと思います。

 まず、昨年、LAでオープンし話題となったNIKEの体験型店舗「Nike by Melrose」についてです。この店舗はデータから得たフィードバックを顧客体験に反映させる施策と「地域コミュニティ」を重視した、まさにアフターデジタル的な店舗だといえます。

 消費者は、基本的にアプリを通じて買物をするよう体験が設計されているのですが、ここで展開されているさまざまな機能はかなり魅力的です。

 例えば、ジオフェンスによってユーザーの来店を瞬時に察知し、アプリが自動的に起動して最新のコンテンツが表示されたり、ユーザーは来店前に特定の商品を指定すれば(商品を購入しようがしまいが)事前に更衣室に準備しておいてもらえるとか、店内のマネキンをスキャンするだけでその商品が表示され、色とサイズを指定すれば、同じく更衣室に準備してくれるなど、アプリを軸に質の高い顧客体験が網羅されています。

 しかし、最もこの店舗で特徴的なのは、同地域におけるNIKEのシューズの売れ行き(ナイキプラスの地元メンバーの購買データ)に応じて在庫をコントロールしているという部分ではないでしょうか。

 同社のCDO(チーフデジタルオフィサー)アダム・サスマン氏によると「消費者は、購入商品を決めるために、その街で何が流行っていて、どんな商品が売れているかを知りたがる」のだそうです。

 一見、非常に地味な施策ですが、得られたデータを確実に消費者のインサイトをついた施策に落とし込んでいるわけです。しかも、顧客は自分でそれを調べる煩わしさから解放されるので、これは非常に体験価値が高く、いかにもアフターデジタル時代の店舗という感じがします。

 もう1つの特徴としては、アプリを通じて何でもできる体験型店舗であるにもかかわらず、Nike by Melroseでは「ストアアスリート」と呼ばれる従業員を大勢雇用しているという部分です。

 来店する顧客は、ストアアスリートとのコミュニケーションを通じてコミュニティへの所属意識を持ちたいというインサイトがあるため、友達感覚で従業員と接します。商売に関する大部分はアプリが担ってくれるため、従業員と顧客のコミュニケーションには通常の店舗よりも強いエンゲージメントが生まれます。アプリにはストアアスリートと直接メッセージのやり取りができる機能も搭載されており、そちらも好評だということです。

 こうして見ると、これらの施策を通じて顧客のファン化が進み、LTVが高まっていくことがイメージしやすいのではないでしょうか。

 この店舗はNIKEが考える体験型店舗の実験的な位置付けだったため、ここで得られたフィードバックに基き改善したデジタル店舗を次々と世界中の都市部に横展開していくことになるでしょう。

〔最先端事例②〕店舗を「デジタルメディア化」(b8ta、蔦屋家電+の場合)

 続いて紹介する2社には、構造的に似た部分があります。

 1社は、2015年のオープン以来、シリコンバレーで人気の高いハードウェアショップ「b8ta」。もう1社は今年、二子玉川にオープンしたばかりで、こちらも最新のテクノロジーを駆使した家電製品を中心に取り扱う「蔦屋家電+」です。

 この2社の店舗に似た特徴を一言でまとめるならば、「店舗のデジタルメディア化」とでもいったところでしょうか。

 ビジネス的にもそれを下支えする機能的も、この2つはよく似ています。

 まず、両者とも店舗でプロダクトを販売するものの、たくさん売ることが目的ではない、ということです。

 b8taも蔦屋家電+も、プロダクトの出品者からの展示期間に応じた出品契約料を収入源にしています。

 どちらも取り扱うのはマス化されていない斬新なプロダクトが中心であり、それらのプロダクトを実際に触って体験できる、という部分にこそ、両店舗の存在意義があります。

 人々の目をひくプロダクトをキュレーションし、そしてそれを店舗内でどう見せるべきかという「編集」を経て、プロダクトに付随する情報に価値を持たせる。これは店舗の存在が非常にメディア的であるといえます。

「店舗全体を編集する」という視点は、実はかつてからあったもので、実行難易度は高いですが、顧客をファン化させる大切な要素です。例えば、雑貨店のヴィレッジヴァンガードなどは、まさに店舗の編集の独自性によって人気を博してきた歴史があるといえます。

 この編集視点に加えて、「デジタルメディア」たるゆえんとなる部分こそがb8taと蔦屋家電+の最大の特徴です。両者とも店内に設置したカメラとAIを駆使して来店者の行動データを取得・分析し、出品者にフィードバックしているのです。

 どのような属性の来店者が、どのプロダクトの前でどれぐらい立ち止まったのか、実際に手に取ってみたのか。これらのデータはプロダクトのブラッシュアップやマーケティングに生かされ、さらに良い顧客体験を生み出す種となります。

 まさに、どのような属性のユーザーが、どのコンテンツにどれだけ滞在していたかを絶えず分析しPDCAを回すデジタルメディアと同じことを、店舗が行っているわけです。

「DETモデル」を意識することで未来の店舗が見えてくる

 具体的な事例で見ると、デジタル店舗のあるべき姿がより明確になってきたのではないでしょうか。「次世代を生き抜く店舗」といっても、どの事例も、テクノロジーはあくまでも「裏方」であり、リアルな場だからこそ成し得る体験価値に重きを置いているところが共通点として挙げられます。

 このような体験価値の高いデジタル店舗を設計するために、「DETモデル」を使うことが助けになります。DETとは、Data(データ:顧客情報)、Engagement(エンゲージメント:顧客とのつながり)、Touch point(タッチポイント:顧客との接点)のことで、顧客データを基にエンゲージメントを高める施策を行い、ECやアプリ、店頭などあらゆるタッチポイントで購買につなげるという一連の流れを表しています。

 これがOMO時代のサービス構築をする際に適したモデルであり、D、E、Tをそれぞれきちんと連携させることで、顧客を囲い込める店舗設計ができるのです。そしてその状態を目指すことこそが、店舗におけるDXそのものなのです。