キーワードは「OMO」と「ファン化」

 店舗のDXと聞くと、直感的に「リアルの店舗に何かしらデジタルの要素やツールを導入する」といったイメージを抱く人も多いと思います。

 しかし、これからの時代を生き抜く店舗を築くには、このイメージを何とかして捨て去らなくてはいけません。オンラインとオフラインという二項対立で捉えてしまっては、店舗のDXの本質にはたどり着けないからです。

 スマートフォンが人々の生活に浸透し、さらにはIoTやAIの発達により、今、世の中の全ては常時オンラインにつながっていて、オフラインという状態が存在しない世界になりつつあります。

 電車の中を見渡してみてください。体は電車の中にいても、ほとんどの人の意識はスマホを通してオンラインの世界にあります。こうした状態は、店舗においても同様になってくるのです。

 これがOMO(Online merges with Offline)という概念です。

※OMOについては記事『OMOを正しく理解する基礎知識』をご一読ください。(株)ビービットの藤井保文氏、IT批評家の尾原和啓氏はこの状態を「アフターデジタル」と名付けています。書籍『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』も良書ですので、ぜひご一読ください。

 日本ではまだOMOという状態を正しく受け入れる視点が育っていないといえます。そのため、どうしても「オンラインとオフライン」という二項対立で思考してしまいがちで、さらにいうと、店舗の貢献によって成長してきた多くの企業において、オフラインである店舗こそが「主」として捉えられています。

 しかし、これからの時代はデジタルが「主」なのです(ここでのデジタルとはECのことではありません)。世の中のあらゆるところにデジタルの網が張り巡らされている中に、リアルな店舗も存在していると考え方を変えねばならないのです。特に経営者にとってはこのマインドチェンジはクリティカルな要素になってきます。

 スマートフォンがデジタルなタッチポイントの一部であるのと同様に、店舗もデジタルな世界におけるタッチポイントの一部と捉えると分かりやすいかもしれません。

 そう考えれば、そこで重要なものは何かということが見えてきます。

 そう、データです。

 もちろん、これまでの店舗でもPOSで購買データは取得できていましたが、これからの時代で重要になってくるのが、AIやIoTなどのテクノロジーを駆使して取得する、購買以外の行動データです。

 来店した顧客が、何を見て、何を手に取ったか、商品を眺めていた時間はどのぐらいか。そもそも、どういう文脈で商品を手に取るに至ったか。これまでの店舗では取得や解析が不可能だった類の行動データが、当たり前のように集められる時代がすぐそこまで来ています。

 そのデータを活用し、提供する体験価値を高めることで、顧客を「ファン化」していく。これが次世代に求められるデジタル店舗のあるべき姿です。

 中国では、このアフターデジタルの世界が既に「当たり前である」という前提が出来上がっており、アリババの手掛けるスーパーマーケット「フーマーフレッシュ」や「ラッキンコーヒー」など、さまざまな企業がデータをフル活用したデジタル店舗でパフォーマンスを発揮しています。

 そうした企業の共通点は、店舗を含めたあらゆるタッチポイントで集めた膨大なデータから得られたフィードバックを、ものすごいスピードで顧客体験の改善につなげ、ファン化を確実に推進していることです。

 中国企業の取り組みが日本に容易にマッチするとは思いませんが、アフターデジタルな世界を正しく捉え、顧客の体験価値を高める店舗の在り方を考える上では、大いに参考になるはずです。