基幹店である船橋店外観。その他、駅高架下ショッピングセンター内にも出店している。

『子育てしやすい会社は間違いなく業績もいい』

 ベストセラー「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの著作で知られる元法政大学大学院教授の坂本光司氏が最新刊「ニッポン子育てしやすい会社」で明らかにした事実。坂本氏は現在、人を大切にする経営学会を主宰、精力的に各地の企業事例を調査している。

 今までに全国8000社を調査、そのうちの51社を実際に訪問・ヒアリングした結果、「子育てしやすい会社は業績も継続してよい」という結論を導き出した。対象となった企業群の平均特殊出生率は1.90人(全国平均は1.44人*2016年厚労省調査より)、2人以上が全体の3分の1を占める結果となった。

「子育てしやすい会社」=「働きやすい会社」といえる。そして好業績を継続するのは目下、必須の経営課題となっている「働き方改革」を具現化する1つの解答だからだろう。

 子育てしやすい会社づくりを通じて働き方改革と好業績を両立させるベーカリー専門店「ピーターパン」を紹介しよう。

 千葉県北西部にベーカリー9店舗を展開する「ピーターパン」。

 店内焼き窯で常時多種の焼きたてパンを展開しており、2015年にはメロンパンを1日当たり9000個以上販売したという世界記録も持つ。現社長の大橋珠生さんが会社を引き継いだ17年3月期の年商は19億6000万円だったが、それが18年3月期には年商22億6000万円と堅調に伸ばしている(経常利益率も平均して10%前後を弾く)。1店当たり3億円近い年商は一般のベーカリー店の2倍以上の水準だ。

 基幹店である船橋店を見ると日中は常時、来店客でにぎわっている。売場内で焼きたてパンを物色する人、店外に設けられたテラス席では買い求めたパンを食べながら、無料で提供されるコーヒーでくつろぐ人など、同店が日常的に支持されている様子がうかがえる。店舗前面に加え、隣接、道路を挟んだ敷地にも駐車場を確保しているが、平日日中も出入りが多く、県外ナンバーも目立っている。

“職人気質”から理念を基点とした“個々の能力開発重視”へ

 同社の特徴は売場と商品に加え、社員の働き方にある。

 社員数は133人。男女比率は半々。既婚者は40人弱だが、半数が社内結婚、子供の数は平均1.7人。平均年齢が28歳なので、子供の数はさらに増えるだろう。

 同社は大橋社長の父であり、現会長でもある横手和彦氏が創業。チェーンストア理論、経営の原則などを学び、それらを忠実に実行し、事業の改廃も進めつつ、現在の企業の形をつくっていった。また新卒の定期採用を継続、職人気質の高いと思われるベーカリー店を、経営理念の共有により顧客志向にシフトした体質につくり替えてきた。

 大橋社長自身はもともと一般企業に就職し、ビジネスウーマンと活躍していた。当時、同世代の友人が夫の異動、転勤が続くことで継続して働くのを断念する姿を目の当たりにした。こうした経験から、現職に就いた時点から、ピーターパンでいきいきと長く働ける職場をつくりたいという思いを強くした。

「子育てしやすい会社づくり、制度運用も基本的に女性の立場に立っている」(大橋社長)。例えば、育児休暇から復職した女性社員については、その他の社員の理解を得つつ、ある程度収入が維持できるような労働日数の設定をするなど“子育て”を応援する環境を整える。その前提には「“お互い様”という気持ちと風土を大事にしたい。居心地のよさというよりも、働きやすさが必要、そして働きやすさには気遣いが必要。その気遣いが社員の間でいつもされていることに力を注いでいる」(大橋氏)としている。

大橋珠生社長

 船橋店の2階に設けられた会議室では研修を兼ねたミーティングが行われており、例えば、「ファンづくりのためには」という目的に向けて、「食文化提供の拠点になる」⇒「美味しいパンづくりに磨きをかける」⇒「フィリング(具材)の品質アップ」といったロジックツリーに表して、取り組み課題を明確にする手順が模造紙に記入され、掲げられている。“お互い様”に表れるコミュニケーションは業務のレベルアップにも生かされているのである。

 同社の経営理念の中にある「一人ひとりの可能性を尊重し、共に学び、共に成長し(後略)」が実践されていることが、子育てしやすい会社=(イコール)業績がよい、を実証している。