整形といえば、アジアでは韓国、欧米ではアメリカを思い浮かべる人が多いだろう。中国本土に行くと、眉毛だけ異様に濃い女性(=眉だけアートメイクを施している人)がいるが、これは中国では眉の薄い女性は幸せになりにくいといわれているから。そういう意味では、中国人は整形に関しての精神的ハードルは日本人より低いといえるだろう。

 そうした中、生活水準が上がるにつれ、美の追求も強くなり、最近、中華系の人々を中心に韓国に整形に行くのではなく日本に来る人が増えている。日本の美容整形業界をリードしてきたサフォクリニックの白壁雷太最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。

日本の美容整形の市場規模は推計で3740億円

 日本の美容整形の市場規模について実は正式な統計のようなものはあまりなかった。日本美容外科学会(JSAPS)は社会からの理解と信頼を深めるため2017年1月1日から12月31日まで「第1回全国美容医療実態調査」を行い、その結果を2019年2月1日に発表した。

 調査対象3656院のうち521院から回答を得た結果、「全美容施術数」は160万3318件だった。うち「外科的手術」は27万8507件で、内訳は「顔面・頭部」が21万7163件、「乳房」が1万4523件、「躯幹、四肢」が4万6821件だった。一方、「非外科的施術」は162万5391件で、内訳は「注入剤」が71万368件、「顔面若返り関連」が41万8790件などとなっている。

 もう少し細かく見てみよう。「顔面・頭部」での具体的な施術では「まぶた形成手術」の14万9861件が最も多く、「鼻形成」が2万9377件、「フェイスリフト手術」が2万7608件と続いた。「乳房」では「豊胸術」が1万1486件、「躯幹、四肢」では「腋臭症手術」が3万3211件をなった。

 JSAPSでは、得られたデータから未回答部分を含めた「推計手術数」を計算し、「手術」は42万5653件、「非手術」は278万1426件と合計で320万7079件になると算出した。市場規模は手術治療が1378億円、非手術治療が2363億円の合計3740億円になるだろうとしている。

 ここで世界における日本の美容医療について見てみると、国際美容外科学会(International Society of Aesthetic Plastic Surgery/ISAPS)が2018年11月に発表した2017年の統計によると(JSAPSが集計した数字とは異なる)、日本の施術数は167万8610件で世界全体の施術数の7.2%を占め、第3位だった。トップは431万180件のアメリカで18.4%、2位は242万7535件のブラジルで10.4%だった。

技術だけではなく日本のやり方が信頼される

 サフォクリニックは、1940年に白壁武彌が大阪で開業した「外科白壁病院」が始まり。当時は難しかった“盲腸の手術跡を少しでも消してあげたい”などといった思いから美容整形が始まった。その後、息子の白壁征夫が2代目として「白壁美容外科」の院長に就任(その間に改称もあった)し、1989年に東京・恵比寿にサフォクリニックを開設。2008年に現在の六本木に移転してきた。今は美容家でもある白壁雷太が3代目のトップとしてクリニックの運営を行う。

白壁CEO

「私が中国に行き始めたのは2011年に上海の美容整形に関するパーティーに招待されたのがきっかけです」と白壁CEOは話す。また、台湾系の母親をもつ白壁CEOは、4分の1の台湾の血が入ったクォーターでもあり「中華」というルーツを持っていたことが中華系の市場に関心を寄せた要因でもあると考えた方が自然だろう(本人も中華圏に初めて行ったときに、違和感もなく、感じるものもあったという)。それ以降、白壁CEOは中国で美容整形に関する講演を積極的に行い、日本の美容整形について語る他、中国の美容整形の底上げを図ろうとしてきた。

 翌年からは中国人客が来始め、2014年ごろには来院者の70~80%は中国人だったと言う。「ひっきりなしに電話がかかってきましたし、最初は院内で食事されたり、当院の診察結果を持って、他の病院に行かれたりすることもありました。今ではノウハウも得て、お客さまを大量に受け入れるのではなく、手術が3回目以上の患者さんは対応しないなどした結果、全体の30%くらいに落ち着いています」

 白壁CEOは、国による美容整形文化の違いについて次のように語る。「アメリカと韓国は、整形することによって『ニューライフが始まる』と言います。つまり、過去を消すのです。日本は今あるものから向上させようという考えで、過去をなかったことにするという考えはありません。中国はその中間にある感じです」

 その中国人がなぜ日本に来るのかを聞いてみると、自国の先生を信用しにくいのと、韓国で手術すると同じような顔になってしまう可能性があるからだという。「整形手術というのは、(個々に応じてではなく)メソッドを決めて手術をすることが可能だからです。メソッドで手術をしてしまえば個人によっては、不釣り合いに仕上がるケースがどうしても出てきます。日本はそれがないのです」と話す。このように韓国は資本主義的にお金を稼ぐことが中心となるが、日本の場合は患者の立場になって施術をすることに主眼を置くことも評価されている(技術の高さが信頼を勝ち取っていることは言うまでもない)。

 ただ、どうしても言葉の壁が存在するという。サフォクリニックでも中国人スタッフを2人ほど雇っているが、普段は別の業務をこなしており、診療の中でコミュニケーションがおかしくなったときに軌道修正をするべく「念のため」という形で出てくるのみだ。「通訳も患者さんが雇う形でお願いしています。医療行為ですから、誤訳により手術をしたとしても、結果的に当方の責任になってしまうからです」。

 中国人患者の受け付け方法は、サフォクリニックのウェブサイト、コーディネーターやエージェントを介する形を取っている。美容整形も医療行為でありミスが許されないことから契約しているコーディネーターはわずか数人に絞るなど「質」にこだわっている。

事実上、精神科医も兼ねる

サフォクリニックの院内の様子

 美容整形手術は、美しくなりたいという気持ちから行うため、「患者さんには美しくなる=頑張るという思いがあり、追い込まれ感がある人が少なくなりません。その結果、心が崩れていくケースが多々あります」。ここに整形を繰り返す、整形中毒的な人が現れる原因の一部があるといえるだろう。「父である白壁征夫は『美容整形の医者だけど精神科医みたいなもの』と表現していました」と白壁CEO。上述の3回目の施術となる患者は断るという理由は「3回以上整形しようとする患者の心は既に乱れていて、正解がなくなってしまうからです」と、何回やっても整形の結果に満足しないということを教えてくれた。

 それはどの先生に外科手術をしてもらうかという患者との相性が非常に大きな要素になるということでもある。「患者が先生と話して気持ちが良かったかどうかというのが第1ステップです。当方では、コーディネーターからの情報やウェブサイトを通じて送られてくる相談内容などから総合して判断して『この患者さんにはこの先生がいいだろう』と私がディレクションしています」

 美容整形はどうしても費用が高額になるが「価格は、日本人と外国の方は骨格、筋肉などが違うので手術、施術の難易度が上がり、日本の滞在時間も限られるので外国人価格を設定しています。海外での安全はお金で買うと思いますが、それと同じです。また、医者の人たちにもベストのパフォーマンスをしてもらうには、それなりの技術と知見を出してもらわなければなりませんから、それに見合った価格にしました」。

 筆者が中国とのビジネス経験から考えると支払いをちゃんとしてもらうという与信管理が重要なのだが、その辺りについて聞くと「先払いのシステムとなっています。そのため、決済システムを業界で初めて使えるようにしました」と経営者としてのオーガナイズは抜かりない。

 サフォクリニックでも、JSAPSのデータと同じようにまぶたや鼻の手術が中心となる。「中国人の最初の手術は、韓国で失敗したと思われる目と鼻の修正でした。基本的に目、鼻がまとまると、その後はどこの手術をしても大丈夫です。私たちには80年以上の歴史があり日本の美容整形の歴史みたいなところもありますから、昔から外国の患者さまが私たちを見つけて来院してくれました」と話す。

 日本人は40代以降にフェイスリフトの手術を行うそうだが、中国人の場合は若い人が来院するという。「あごの骨切り手術をした後、時間の経過とともに顎の支えがなくなり、20代でも皮膚がたるんでしまいます。そのたるみを改善するために来るというのは中国のお客さまならではのケースです」と言う。最初に顎だけ削った後の影響を考えずに施術した結果、フェイスリフトに定評のあるサフォクリニックに駆け込むというものだ。

ドクターの輸出を行いたい

サフォクリニックの外観

 今後について聞いてみると、「インバウンド的なものから、今度はドクターのアウトバウンドを行っていきたいと考えています。人材派遣・紹介の会社などと一緒にできれば可能ではないかと考えています」と語る。白壁CEOからは美容整形をもっとグローバルにしたいという話もインタビュー中に出てきたが、それを体現するものといえよう。

 スポーツでは、外国人選手を日本に呼ぶのではなく、日本人コーチを輸出できればそのスポーツにおいて大国であるといえる。日本の柔道やアーティスティック・スイミング(旧シンクロナイズド・スイミング)などは、日本人コーチが外国で指導してその国のレベルを底上げしているがそれと同じで、日本のドクターの輸出というのは、日本が美容整形のトップレベルの国であることの証にもなるだろう。